軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

503 探 偵 1

「……嬢ちゃん、身の回りに気を付けるようにな。

ここにいる時には俺達が護ってやれるが、余所にいる時には俺達にはどうしようもない。

できれば護衛を付けて欲しいんだが、本国から連れて来ちゃいないのか?」

新大陸のヴァネル王国王都にある、ヤマノ物産店……ということになっている、私の転移ステーション。

どの宿屋にも泊まっておらず、自宅もないとなれば怪しまれるに決まっているし、毎回転移の際に目撃される危険を冒すのもアレなので、『ここに住んでいますよ!』というアリバイ工作兼安全に転移できる拠点として借りている、あまり開店していない物産店だ。

1階は小さな店舗と倉庫室、そして一度も使ったことのないトイレとお風呂……ではなく、洗面器やタライのお湯で身体を拭くための小さな部屋。

2階は居住区ということになっているけれど、実際には椅子とテーブルがあるだけで、ベッドすら置いてない。

敵地で、ひとりぼっちで無防備状態になる程の自信家でもチャレンジャーでもないからね、私は。

だから、寝るのもお風呂もトイレも、転移で日本の自宅に戻っている。

当然の安全策だよね。

そして、私がこの建物を借りた理由である、保安上の好立地条件……お隣が警備隊詰所、しかも貴族相手でも平気でとっ捕まえてくれるという、強権がある兵士達がいる……が、更に安全性を高めてくれている。

ここの警備兵達に強権が与えられているのは、当然だ。

貴族の居住エリアと平民の居住エリアの境界近くにあるこの詰所にいる警備兵達が貴族に逆らえないと、貴族達が平民に対してやりたい放題になってしまうし、貴族同士の事件だと口出しできなくなってしまう。

それじゃあ、貴族の言いなり、貴族の私兵と同じになっちゃうからね。

なので、警備隊の上司は有力貴族家の者であり、更にその上にはお偉い人、もっと上には王族が付いているから、相手が貴族であっても平気なんだってさ。

何があっても護ってくれる上司がいるとか、最高か!!

まあ、そういうわけで、 警備隊詰所(おとなりさん) とは良好な関係を築くべく、たまに差し入れを持ってきているわけだ。お菓子とか、おにぎりとか、助けてもらった時にはウイスキーとかね。

賄賂というほどのものじゃないこういう差し入れは、住民の感謝の印として普通のことであり、何の問題もない。

そして今まで、色々と助けてもらっているのだ。うちに忍び込もうとした貴族の手の者を捕らえたり、私の不在時にも警備してくれていたり……。

……多分、 上の方(・・・) から指示も出ているのだろうと思う。

他国の貴族が王都で危害を加えられたなんてことになれば、国の面子丸潰れだものね。

私、この国だけでなく周辺国でも少し名が売れているから。

勿論、『美貌の少女』とかじゃなく、『母国産の美味しい食材やお酒、珍しいものを輸入販売する、縁を繋いでおきたい異国の貴族』としてだけどね。

それに加えて、多分あの『ソサエティー』の黒幕、とも思われているだろうしね。

あ、『国宝級の宝石をホイホイ配って廻る馬鹿』という噂もあったか……。

でも、『ソサエティー』のメンバー達と結婚したがっている者は多いけれど、私に対してそういった目的で近付いてくる者はいないだろう。

そりゃそうだ。私は、どことも知れぬ遠国の貴族か王族の娘、それもたったひとりで他国に派遣しても構わないくらいの『使い捨てにしてもいい娘』……多分、下位の側妃か愛人の娘あたり……とでも思われていて、その上、明らかに異国人と分かる顔立ち、……いわゆるところの『平たい顔族』というやつだ。

愛人とかならともかく、そんなのと結婚したがる貴族はいないよ。

貴族というのは、家格と血統を重んじるんだ。いくら金回りが良さそうであっても、 金蔓(かねづる) としてちやほやすることはあっても、お家の血筋に取り込むことには拒絶反応が出るだろう。

うちの国なら、『大国の王姉殿下』、『女神の御寵愛を受けし愛し子』、『渡りの異能持ち』、『救国の大英雄』とかで、自分達より高貴な血筋だと思われているから、そういうことはないらしいのだけどね……。

つまり、この国で私に近付いてくる男達は全て、私のお金目当てか輸入ルート目当ての連中ばかりというわけだ。……クソッ!

まあ、とにかく今日もお隣さんに手作りクッキーを差し入れに来たわけだけど、それを6人の警備兵さん達と一緒に食べながら雑談をしていたところ、そういう警告というかアドバイスというか、注意をされたわけだ。

今まで何も言われなかったのに、急にそんなことを言われれば、そりゃ気になるよね。自分の安全に関することだし……。

「……何かありました?」

なので、当然のことながらそう聞くと……。

「嬢ちゃんのことを調べている者がいる。店にも時々見張りが付いている。

……心当たりは?」

あ~……。

「ないといえばないし、あるといえばある。

今、特に揉め事を抱えているわけじゃないけれど、お金目当て、特定の商会だけに卸している珍しい品々が目的、私の身柄を抑えて甘い汁をと考えた貴族や犯罪組織、そして……」

「そして?」

「私とお付き合いしたいと思って接点を求めている、白馬の王子様!!」

「……」

「「「…………」」」

「「「「「「………………」」」」」」

何だよ、その長い沈黙は……。

泣くぞおおぉっ!!

* *

「……まあ、そういうわけだ」

無限に思える長い沈黙の後、何事もなかったかのように話を再開した、警備兵のおじさん。

「本国から連れて来ていないなら、ここで護衛を雇った方がいいぞ。何かあってからじゃ、取り返しが付かないだろうが……」

「う~ん……」

私は貴族の娘だと思われているから、護衛を雇うお金くらいポンと出せる、と考えての忠告なのだろうな……。

いや、確かにお金には困っていないよ。

でも、しょっちゅう転移で姿を消す私には、護衛は付けられないよねえ。

それに、何かあれば転移で逃げられるし、 武器(ワルサー) も身につけている。

そして私は、捕まえてナンボ、利用してナンボという美味しい獲物だ。いきなりナイフで刺されたり、遠くから矢でヘッドショット、とかいう対象じゃない。某帝国を除いて……。

だから、護衛は邪魔なだけなんだよね……。

ウルフファングの隊員さん達なら護衛としては問題ないのだけど、ここの言葉が分からない隊員さんにずっと張り付いてもらうのは大変そうだし、なんだかプライバシー的にもイヤ~ンな感じだし……。

「よし、護衛はナシで!」

「「「「「「えええええ〜〜っっ!!」」」」」」

まあ、警備兵のおじさん達が困るのも無理はないか。

お隣さんである異国の貴族が犯罪に巻き込まれたとなれば、詰所のみんなだけでなく、上司の貴族、そして警備隊全体としても面子丸潰れだものねえ……。

そりゃ、私に自衛手段を講じて欲しいよね。

でも……。

「護衛なんて付けていても、根本的な解決策にはならないでしょ。

いつもビクビクしていなきゃならないし、どんなに気を付けていても、いつかは隙が出来るしね。

だから……」

「だから?」

「くさい臭いは元から絶たなきゃダメ!」

「「「「「「あ〜〜……」」」」」」

うん、警備兵のおじさん達は、上の方から私についてある程度の説明をされているのだろう。

この、全てを理解したかのような納得顔は、絶対にそうだよね……。