軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

502 ヤマノ領の開発 6

「あ。そろそろ薪の補充をしなきゃ。ちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃ~い!」

コレットちゃんに見送られて、領地邸の執務室から転移。

行き先は、人跡未踏の地。

……いや、私が行っている時点で、『人跡未踏』じゃないか……。

とにかく、どこの国にも属さず、人間も、……そしてこの世界にいるのかどうか分からないけれど、エルフやドワーフ、獣人とかも住んでいない広大な森林地帯へと転移したわけだ。

以前、地球の某国の航空機であちこち飛んでもらったから、こういう人がいない場所にも転移できるのだ。

で、何のためにこんなところに来たかというと、……最初にコレットちゃんに言った通り、薪の補充のためだ。

ヤマノ領もボーゼス領も、石炭や石油は産出しない。

なのに、スーパー銭湯を常時稼働させていれば、膨大な量の燃料、……つまり薪を消費することになり、それ即ち領地の山林資源を食い潰すこととなる。

木々は、重要なんだよ!

保水機能により洪水の軽減、地下水や水源の涵養、表層崩壊の防止に寄与したり、多様な動植物の 住処(すみか) となり、暑さを和らげ、空気をきれいにし、騒音を緩和する。

だから、むやみやたらと伐採しまくっちゃ駄目なんだよ。

でも、燃料としての薪は必要だ。

じゃあ、どうする?

……というわけで、少なくとも今後数百年は人間が立ち入ることがなさそうなところの森林地帯で、木々が密集しているところの間伐を行うわけだ。

片っ端から伐採するのではなく、間伐、つまり木々が密集しているところで間引くということだ。

成長して木々が過密になった森林で、一部の樹木を伐採し密度を調整する作業は、日光を森の中に入れ、残った木々を太く健全に育てるために必要なメンテナンスだ。

だから、自然破壊にはならない。

これが産業革命とかでどんどん伐採するならともかく、スーパー銭湯ひとつ分くらいなら、この見渡す限り深い森が続く 緑の魔境(マット・グロッソ) にとっては、大したことじゃない。

それも、間伐というやり方ならば、 却(かえ) って良い影響を与えるかもしれない。

ま、そういうわけで、自然破壊の罪悪感を覚えることなく、間伐の対象として丁度良いものを選んで、次々に転移させるわけだ。地球の、とある無人島に……。

いや、いちいち連続転移で1本ずつボーゼス領に運ぶのは面倒だし、人目に付くからね。

だから、こういう時のために調べておいた地球の無人島にいったん集積して、最後に纏めて運ぶわけだ。

勿論、地球へ運ぶ時に細菌や虫、木に住んでいた鳥、小動物等は除外しておく。

住処が突然なくなった動物さん達には申し訳ないけれど、そこは勘弁してもらおう。

地球からこちらの世界へ転移する時には、ちゃんと含水率を調節して20パーセント以下になるようにしておくから、長期間乾燥させる必要はない。

伐採直後の生木は50パーセント前後の水分を含んでいるから、そのままだと燃えにくく、煙が出たり煙突詰まりの原因になったりするし、発熱量が低くなるからね。

普通なら長期間の乾燥が必要なのだけど、水分を少し残して転移すれば一瞬だ。

……うむ、転移能力、超便利!

領地邸(うち) で使う分は、自分では調達せず、ちゃんと山村から購入している。

でないと山村の収入が下がるからね。

地元産業は大事にしなきゃねぇ……。

あ、柿っぽい実がなっている果樹を発見! 半分くらい、実を貰っておこう。

全部は取らないよ。鳥やら小動物やらの餌場かもしれないし、木々の自然繁殖の邪魔をするのは悪いからね。

……自分は繁殖しないのか、って?

うるさいわっ!!

あ、むかごみたいなのを発見!

ということは、この土の下に山芋があるということに……。

よし、転移で楽ちん芋掘りだだだ!!

まともに掘っていたら、時間がいくらあっても足りないけれど、転移で抜き出せば一瞬だ。

……転移、サイコー!!

* *

木々と果実、山芋等の採取が終わり、日本の某無人島に転移。

全部、地球へ運ぶ時に小動物や虫、細菌等は除外してあるので安心だ。

そして山野家領地邸へ運ぶ時に、果実や山菜等はそのままで、薪にするための木は含水率が20パーセント弱になるように、水分の一部を残して転移する。

全部を一度に運ぶと、果実や山菜からも水分を抜いちゃいそうだから、薪用の木材とは分けて、別々に運ぶことにした。

木材は直接ボーゼス領のスーパー銭湯へ運んだ方が楽ちんだけど、あまり私の便利能力を一般公開するのはアレだし、輸送による賃金の発生は、たくさんの人達の生活を支えることができる。

薪割りとかも、子供達の大事な仕事になるだろうし……。

それに、輸送には試作小型帆船が使えるから、人手不足にはならないだろう。

もしそれでもキャパオーバーになれば、その時にはこっそりと転移で運ぼう。

……よし、転移!

* *

……柿っぽいのは、渋かった……。

まあ、干し柿にするとか、焼酎に漬けるとか、色々と方法はある。

面倒なら、近所のおばさんにあげれば、渋抜き処理済みになって数割が戻ってくるだろう。

あ、勿論、日本の方ね、『近所のおばさん』は……。

そうそう、石鹸作りの件だけど……。

海藻を焼いて灰を作らなくても、普通の木の灰でも作れるんだよね、一応……。

……但し、それだとできる石鹸が柔らかいらしいのだ。成分的なことで……。

固い石鹸を目指している私には、ちょっと微妙……。

まあ、添加物によって少しは固めにできるみたいだし、柔らかいのは貧乏な人用に格安で売ってもいいか。

少なくとも、今作られているブヨブヨ石鹸よりはずっとマシなものになるはずだ。

価格も大幅に下げる予定だしね。

何しろ、普通の木灰は入手が簡単で、ただ同然なのだ。

各家庭の 竈(かまど) から出る灰だけでなく、スーパー銭湯で出る灰が丸々使える。

……これは大きい。

灰は、畑の肥料や山菜のアク抜きとかに使えるけれど、そんなに大量に使うわけじゃない。

それに、各家庭の竈灰を集めるとか、水に浸して成分を溶かし出す作業とかは、寡婦や子供達にもできる。

夫に先立たれた女性や、子供達の良い働き口になるだろうし……。

ヤマノ領にはホームレスの孤児はいないけれど、お隣のボーゼス領にはいるんだよね、引き取り手のいない孤児達が……。

これは、別にボーゼス侯爵様のせいじゃない。

ボーゼス領の活況を聞いて、王都や他領から夢の新天地を目指してやって来た孤児達がいるんだよ、結構大勢……。

遠距離を、途中で多くの仲間を失いながら必死で歩き続けてきた連中が……。

そして、ボーゼス領で大量の木灰を集めさせたら……。

「ボーゼス侯爵にバレて、石鹸作りの件もバレて、事業に一枚噛ませろとゴリ押しされるよね」

「ほぼ間違いないわね」

サビーネちゃんとベアトリスちゃんに、そう断言された。

「やっぱりかあああぁ〜〜!!」

世の中、世知辛い……。