軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

481 狼は狼を呼ぶ 14

「「「「え……」」」」

ゴロツキ共が、少し 怯(ひる) んだ。

最近噂の、大聖女様(未公認)の名前を知っていたのか、それとも、ボーゼスという家名に聞き覚えがあったのか。……それとも、ただ御令嬢の奇行に少し驚いただけなのか……。

護衛も付けずに町をうろつく貴族の馬鹿娘など、せいぜい男爵家か子爵家くらいだと思っていたのかもしれない。

それくらいであれば、何かあっても他の領地へ逃げれば何とかなる。

それが、侯爵家、しかも女神の御寵愛を受けし大聖女様が相手となると、他国へ逃げても追っ手が掛かるであろう。

……そして、女神の神罰からは、どこへ行こうが逃げようがない。

果たして、この連中がベアトリスに関して知っているのは、どこまでか……。

「……同じく、ヴィボルト侯爵家長女、ティーテリーザですわ!!」

ベアトリスのカッコいい名乗りに、ちゃっかりと乗っかって真似をする、ティーテリーザ。

勿論、即席のポーズ付きである。

こうなると、アデレートもカトルナも、負けてはいられない。

「アデレート・フォン・ライナー!」

「カトルナ・フォン・ネレテス!」

同じく、見様見真似の、ポーズ付き。

「……あ……、あ……、女神様に神具を戴きました、汎用メイドのアルシャですっ!」

皆が名乗りを上げたものだから、自分もやらねばならないのだと思い、焦ったメイドのアルシャが、名乗りと言うよりも自己紹介のような口上を述べた。

その、機械の左腕を天に突き上げて……。

なお、アルシャの義手は、本人の希望により、普通の腕に似せたものではなく、カラフルでサイバーファッション的な、メカメカしいものである。

……誰が見ても、一目で 普通の腕ではない(・・・・・・・・) 、と分かるもの……。

それを突き上げて、ぎっちょん、ぎっちょんと動かしている。

ゴロツキ共に対する効果は、抜群だ。

「「「「…………」」」」

ドン引き。

この言葉がこれ程ふさわしい場面は、滅多にあるまい。

もしこの連中が、大聖女ベアトリスや侯爵家令嬢であるティーテリーザの顔を知っていたならば、少しは状況が変わっていたかもしれない。

しかしゴロツキ共には、上級貴族の御令嬢を至近距離で目にする機会などない。

写真もないこの世界では、かなりの有名人であっても、話には聞いていても顔は知らない、という者は多い、……いや、そういう者が大半であった。

なので、下級貴族の娘だと甘く考えていたところ、実は侯爵家の御令嬢、大聖女様、女神から神具を授かったとかいう、ワケの分からないメイド等が、勢揃い。

((((ヤバい……))))

さすがに、マズい相手だと察したらしいが、既に手遅れである。

いや、このまますぐに逃げ出すという手はあるが、それだとボスに何をされるか分からない。

なので、何とかせねばと考える4人であるが……。

「な、ななな、何を言ってやがる! そんな令嬢達が、護衛も連れずにこんなところにいるわけが……」

そして男の言葉を最後まで聞くことなく、腰のベルトから取り出したものを掴んだ右手を前方へと突き出したアルシャが、その物体の先端部分を押し込んで、ミツハから教えられた女神の言葉を叫んだ。

「……バルス!!」

ぶしゅううううう~!!

内容量が20ccくらいの小型のものであれば3~4秒くらいしか保たないが、それよりは容量が大きいため、7~8秒くらいに亘って噴射が続いた、防犯スプレー。

トウガラシの辛み成分であるカプサイシンを濃縮した天然成分であるOCガスを使用しているため、危険性のあるCNガスとは違って後遺症の心配がなく、安全性の高いものである。

凶悪犯罪者相手にそのような配慮の必要はないとは思うが、付近にいる者にかかる可能性もあるため、OCガスの方が使い勝手が良いのであろう。

「「「「うぎゃあああああ〜〜!!」」」」

効果覿面(こうかてきめん) 。

……であるが、混乱し逆上したひとりが、短剣を抜いて斬り掛かってきた。

碌に目が見えていないからか、突くのではなく、右手で握り締めた短剣を、大きく振り回しながら……。

がつっ!

そして、左腕でそれを受けた、アルシャ。

義手は、それ程強固に固定されているわけではない。そのため、全力で振り回されていた短剣を受けて、義手は腕から外れて吹き飛んでしまった。

……しかし、短剣の動きを一瞬止めるだけの役割は果たした。そして……。

ギチィッ!

空っぽになったスプレーを捨て、空いた右手でベルトから次の得物……、お気に入りの らじおぺんち(・・・・・・) を掴み出していたアルシャが、一瞬動きを止めた男の右手、短剣を握り締めたその手の親指を挟み、思い切り捻った。…… 決して曲がっては(・・・・・・・・) いけない方向へ(・・・・・・・) ……。

ぼきっ!

「ぎゃあああああ〜〜!!」

堪らず短剣を取り落とした男は、左手で右手を掴み絶叫している。

他の3人は、目の痛みと涙でよく見えていないようであるが、それでも全く見えないというわけではなく、いくら視界が悪くとも腕力にモノを言わせれば小娘に 後(おく) れを取ることなどあり得ないとばかりに、逆上して襲い掛かろうとしたが……。

「ホ~ホホホホホホ!」

その時、皆の耳に高笑いが聞こえた。

「……誰だ!!」

思わず誰何の怒鳴り声をあげる悪党達。

そして……。

「皆様の御活躍は知っておりましたわ。

助けに参りましたわよ!」

「……ティノベルク侯爵家の、ミーシュア……様……?」

驚きに固まったティーテリーザがそう呟き……。

「……って、ミーシュア様! どうしてここへ? それに、いつもと御様子が……」

そう。ミーシュアは、いつも笑顔の、温厚で物静かな令嬢であった。

なのに、今は活動的で強気な様子。ベアトリスが驚くのも、無理はない。

そして、頭の中で膨れあがる疑問に、ふと、ベアトリスの記憶が 甦(よみがえ) った。

「ティノベルク……。ティノベルク侯爵家……。

ああっ! 何か聞き覚えがあると思っていたら、お母様が何度か、忌々しそうな顔で愚痴を溢されていた……」

イリスは、娘に自分の過去のやらかしを教えたくなかったのか、それともただ単に嫌なことを口にしたくなかったのか、ティノベルク侯爵夫人との関係はベアトリスには話していなかった。

……ただ数回、ついうっかりと口にしてしまったり、夫に話しているのをたまたま聞かれてしまった時を除いて……。

なのでベアトリスも、すっかり忘れてしまっていたようである。

そして今、その名を思い出した。

……ティノベルク侯爵家。

それは、当主同士は同派閥の者として結構交流があり、関係も良好であるものの、……女学校時代のクラスメイトである両夫人の関係が、致命的なまでに悪いという、あの……。

イリスが武闘派なのである。ならば当然、その対立者であるティノベルク侯爵夫人も。

……そして、その娘もそうであっても、何の不思議もない。

勿論、ミーシュアもひとりではなく、護衛を連れていた。それも、 手練(てだ) れをふたり……。

そしてその護衛達は、歓喜していた。

((やった! こりゃ、御令嬢を助けた4家からの謝礼金、確実だぜ!!))