軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

480 狼は狼を呼ぶ 13

金持ちの娘が4人と、メイドの少女がひとり。

当然のことながら、少し後ろに隠れ護衛が付いている。……それも、3人分……。

貧乏男爵家の七女であるカトルナには、護衛は付いていない。実家に、そのような金銭的余裕がないので……。

ベアトリスとティーテリーザには護衛がふたり付いているため、3人分といっても、護衛の数は合計5人である。

なので、一見無防備に見えはするが、真っ昼間からそんな罠同然の獲物に食い付く犯罪者などいない。

……いない、はずなのであるが……。

「何をしているのですか!」

ベアトリス達が、宿舎の手前にある工場へ近付いたところ、何やら様子がおかしく、子供達が数人の大人達に脅されているような……。

それを見て、慌てて駆け寄った一行が、そう声を掛けた。

……そう。獲物の方から近付いたのでは、どうしようもなかった。

護衛も、少し後方にいるため、止める暇がない。

そして……。

「へえ、金持ちそうな綺麗な姉ちゃん達だな。こりゃあ、ひとつ役得として……」

「「「「「うおおおおおぉ〜〜!!」」」」」

「「「「うわああああぁ〜〜!!」」」」

剣を抜いて、突撃してくる護衛達。

そして問答無用で抜き身の剣を振りかざして向かってくる護衛達に、生命の危険を感じて、猛ダッシュで逃げる不審な男達。

護衛達が剣を抜いて、叫んでから走ったのは、護衛対象である令嬢達が傷付けられたり人質に取られたりすることを防ぐためであり、『令嬢達を傷付ければ、どうなるか分かっているんだろうな、ゴルァ!』と脅しを掛けることによって、男達がとにかく何も考えられずに一目散に逃げ出すようにと仕向けたのである。

そうすると、逃げ切られてしまう確率が上がってしまうが、さすがに護衛対象が傷付く危険を回避することより犯人の捕縛を優先する護衛はいない。

そして、逃げる男達を追ってゆく、護衛達。

敵対派閥の者に雇われた者達かもしれないのである。見逃せば、再度襲ってくる可能性がある。

そんな者達を、取り逃がす護衛はいない。

そして、雇い主の名を吐かせるには、生きていて、口が利ければいい。……別に、手足が全部付いていなければならないということはない。

……そう、貴族の少女に手を出そうとした者に、護衛達が手加減などするわけがない。

「みんな、大丈夫?」

子供達とは顔馴染みであるアデレートの言葉に、半泣きであった子供達が懸命に状況を説明しようと頑張るが、なかなかうまく喋れないようである。

「あ、あっ、うっ、ぐすっ……、あ、あいつらが来て、工場と宿舎を、うっ、こっ、壊すって……。

だから、でっ、出て行けって……、ううっ……。

お、俺達、頑張って、止めようと、頑張ってえぇ……」

「よしよし、偉いぞ! よく頑張って、みんなと工場や宿舎を護ったね!」

「うう、お、俺達、俺達いぃ……、うわああぁ〜〜ん!」

カトルナが、泣き出してしまった男の子を励まし、慰める。

おそらく、兄弟が多いため、男の子の扱い方というものを心得ているのであろう。

カトルナは、『七女』というだけであって、誰も末っ子だとは言っていないし……。

「……チッ、アイツら、どこへ行きやがった? 作業場も 住処(すみか) もそのままじゃねぇか。

おい、建物に火を付けて、全部燃やしちまえ!」

「「「「「「え……」」」」」」

突然現れて、とんでもないことを言っているゴロツキと、その手下か仲間らしき、3人の男達。

驚くベアトリス達と子供達であるが、勿論、そんなことはさせられない。

「何者ですか、あなた達は! どうして孤児達にそんな酷いことを……」

「ああ? 酷いだと? 俺達は優しいぜ。こっそりと夜中に火を付ければ簡単なのに、ガキ共が死なないようにと、わざわざ昼間に来てやっているんだからな……。感謝してもらいたいくらいだぜ」

「「「「「……」」」」」

ベアトリス達には、その理由がはっきりと分かっていた。

孤児達が死んだり重傷を負ったりすると、労働力を搾取することも、売り飛ばすこともできなくなる。

……それでは、儲からない。

かといって、このままだと孤児達が安定した生活を手に入れてしまい、自分達が搾取できなくなってしまう。

ならば、どうするか。

孤児達が死なないよう、日中に工場と宿舎を破壊し、元の生活に戻らざるを得なくする。

ただ、自分達の 金蔓(かねづる) がなくなるのを防ぐというだけのために、孤児達の希望を潰し、明るい未来への芽を摘み取る。

「……許さない……」

ぎり、と歯を食いしばる、ベアトリス。

「許しませんわ……」

ぶるぶると、握った拳を震わせる、ティーテリーザ。

そして、アデレートもカトルナもアルシャも、粗暴そうな男達を前にして恐怖に震えながらも、逃げる素振りは見せていない。

「どうやら、護衛とかはいないようだな。ここは町外れだから、警備兵もいない。

……いけないなぁ、お嬢様が護衛もなしでこんなところを出歩いちゃあ……」

「くっ……」

へらへらと笑う、ゴロツキ共。

先程の男達を追っていった護衛達は、戻って来ない。

まだ連中を追っているのか、それとも捕らえて警備隊詰所に連れて行き、事情説明やら何やらで時間がかかっているのか……。

護るべき対象から長時間離れるなど、護衛としては明らかに大失策であるが、目的地へ到着し孤児達と合流できたため、安全な場所に送り届けたとして安心しているのか……。

「お姉ちゃん!!」

子供達が駆け寄ろうとしたが、アデレート達が手を伸ばしてそれを制止した。

このままだと、子供達は自分のことなど考えず、自らが盾になろうとするであろう。

令嬢達を護ることさえできれば。そうすれば……。

この事業が、続けられる。

しかし、もし護ることができなければ、全ては終わる。

なので、護る。

……たとえ自分が死んでも、他の子供達が幸せになれるなら、それでいい、と考えて……。

だが、アデレート達もまた、子供達の命と引き換えに、おめおめと生き延びることなど考えてはいなかった。

……何の不思議もありはしない。

高貴なる(ノブレス・) 者の義務(オブリージュ) ……。

貴族家令嬢である者が、淑女教育の初日に学ぶ言葉である。

……そう。『ソロリティ』のメンバー達は皆、誇り高きゼグレイウス王国の淑女なのであるから……。

そしてベアトリスが、ずいっ、とゴロツキ共に向かって1歩前へ踏み出した。

「子供達を食い物にする悪党共よ! たとえ女神が見逃そうとも、この、ベアトリス・フォン・ボーゼスが許しはしません!!」

名乗りを上げて、両腕を大きく回し、ビシッとカッコいいポーズを決めた、ベアトリス。

どうやら既に、サビーネの同時通訳により変身ヒーロー物のブルーレイを観たらしい。

地球でも、戦いの前に名乗りを上げるという風習がある国は、かなり少ない。

この大陸では、そんな国は存在するかどうか……。

しかし、名乗りは相手を威圧し、自分の心を奮い立たせ、……更に時間稼ぎができるという利点がある。

そして何よりも大きな利点。

……それは、とてもカッコいい、ということであった……。