作品タイトル不明
479 狼は狼を呼ぶ 12
何とかみんなを 宥(なだ) めて、孤児院からの離脱に成功。
……いや、ただの問題の先送りに過ぎないんだけどね。
あの子達の気持ちは、理解できる。
でも、フリーの子達の気持ちも、分かっちゃうからなぁ……。
孤児院の子供達は、自分達は人生のスタート地点が圧倒的に不利であり、不幸な立場だと思っているだろう。
……でも、それでも孤児院に入れず独力で生きている連中からは、王侯貴族の暮らしみたいに見えるらしいんだよねぇ……。
風雨が防げる、屋根と壁。暖かい毛布。1日3食確実に食べられる、温かい食事。
うん、 浮浪児(フリーの連中) から見れば、確かに王侯貴族並みだな。
そして、世の不条理を怨みながら泥を 啜(すす) って生きてきて、ようやく掴んだ 支援の手(貴族の気紛れ) 。
なのに、ずっと自分達より恵まれた生活をしてきた孤児院組が、その利権を俺達にも寄越せ、と言って割り込んできたら……。
うん、絶対にギスギスしたり、対立構造ができたりしちゃうよねえ……。
うむむむむ……。
* *
「……というわけで、皆さんから案を出していただきたく……」
『ソロリティ』のお茶会で、孤児院組への対処について相談したところ……。
「「「「「「…………」」」」」」
「あの、提案とか、意見とか……」
「「「「「「………………」」」」」」
「誰か、何か言ってよおおォ〜〜!!」
「「「「「「……………………」」」」」」
「無理だよ、姉様……。それ、どうしようもないよ」
「天才小悪魔の、サビーネちゃんでも駄目なの?」
「誰が『小悪魔』よっ!!」
あ、しまった! いつもは頭の中でしか使わない言葉が、つい……。
「だって、食うに困ってる者達による、限られた数しかないパイの争奪戦に、食うに困っていない者達が参入しようとゴリ押ししてくるんだよ、姫巫女様を怒鳴りつけて……。
そんなの、フリーの連中が黙ってるわけがないじゃないの」
「あああ、やっぱりそうかぁ……」
「それに、孤児院の子達にそんな態度を見せられると、『 ソロリティ(わたしたち) 』も、決していい気分にはならないわよ。
姉様を怒鳴りつけるなんて、いったい何様のつもりなんだか……」
ああっ、ヤバい!
サビーネちゃんが、お冠だ!!
この国で、サビーネちゃんを敵に回すというのは、自殺行為なんだよ……。
さすがの謀略少女も、悪だくみではサビーネちゃんには敵わないだろう……。
……敵わないよね?
2大怪獣、南海の大決闘、みたいなことにはならないよね?
「申し訳ありません。私達では、とても妙案は……。
民草のために、などと偉そうなことを言っておきながら、この不甲斐なさ、力不足。
お恥ずかしいです……」
「「「「「「…………」」」」」」
アデレートちゃんの言葉に、皆が黙って俯いている。
イカンな、雰囲気が暗くなっちゃったよ……。
「いや、みんな、そんなに気にしないで!
私達は今、人間として許容できる最低ライン以下の暮らしをしている子供達を、ラインより上に引き上げるための活動をしているんだよ。だから、最低ラインより上の、人間らしい生活をしている孤児院組のことは、いったん置いておこう。
私達の活動で浮浪児組の状況が良くなって、一時的に孤児院組と立場が逆転したとしても、それは仕方のない……、いや、誇るべきことだよ。
その後で、孤児院の子供達にも何か支援策を考えて、子供達みんなが仲良くできるようにすればいいんだからね。
……今は、 浮浪児(フリーの子) 達のことだけに専念しよう!
そして、何か案が浮かんだら、小さなコトでもいいから遠慮せず、何でも言ってきてね。
些細な思い付きでも、それが切っ掛けになっていい案が浮かぶかもしれないのだから……」
あ、みんなの様子が、少し好転したみたいだ。
みんなお嬢様だから、社交界での戦いにおいては 強者(つわもの) 揃いなのだろうけど、こういう点では打たれ弱いのかなぁ。
結構、繊細なんだ……。
お茶会の時は、割と図太そうなのに……。
まあ、今はとにかく、フリーのみんなのことに集中しよう。
そっちが何とかなれば、孤児院へのテコ入れを考える余裕もできるだろう。
私ひとりじゃなく、大勢の『ソロリティ』の仲間達がいるんだ。……何とか、なるなる!
* *
「……本日は、御一緒できて光栄です!」
「あら、同じ『ソロリティ』の仲間なのですから、『ソロリティ』のメンバーとしての活動中は爵位とか立場とかは関係なく、みんな対等な仲間でしょう? 普通に、お友達として話してくださいな」
「……は、はい!」
ただの新興子爵家の娘と、侯爵家令嬢にして大聖女……今はまだ未公認であるが、正式に認められるのは時間の問題だと思われる……なのである。建前上は確かにその通りではあるが、だからといってそれを文字通りに受け取り、対等に話せる者が、何人いることか……。
現代日本で、職場の宴会で『本日は無礼講だから』と言われて、本当に上司や重役相手にタメ口で喋る者などいないのと同じである。
そもそも、『無礼講』というのは、無礼なことをしても構わない、という意味ではない。
あれは、『堅苦しい礼儀を抜きにして、親睦を深めましょう』ということであり、マナーや節度を 弁(わきま) えることが前提条件である。
そういうわけで、無理なことをお願いするベアトリスに、目を白黒させる、アデレート。
アデレートは、ミツハとは平気でタメ口で喋るのであるが、それは、アレである。
爵位としては、共に子爵。……ミツハは自身が爵位貴族であり、子爵家の娘に過ぎないアデレートとは少し違うが、まあ、家格としては同じ子爵家同士である。
そして、ミツハとアデレートは、ミツハが平民であった時からの知り合い……というか、友人に近い関係であった。
なので、いくらミツハが爵位貴族に、そして救国の大英雄、『雷の姫巫女』となろうが、互いに急に手の平返しをするようなことはなく、友人としての関係をそのまま変わらず続けているのである。
……しかし、ベアトリスは違う。
古くからの伯爵家であり、最近の功績により侯爵へと陞爵した有力貴族の御令嬢にして、第三王女殿下とも懇意である、女神の御寵愛を受けし大聖女様。
それは、声も上ずるし、ガチガチの敬語を使うのも仕方ないであろう……。
ベアトリスも、降臨した女神様に『普通に、対等な口調で喋りなさい』と言われて、素直にそうできるとは思えない。
人間、自分ができないことを相手に無茶振りするのは、良くないことである。
ベアトリスは、それを自覚すべきであった。
……それと、自分の対外的な価値と、評価も……。
今、一緒に歩いているのは、ベアトリス、アデレート、カトルナ、ティーテリーザとその専属メイドであるアルシャの、5人である。
滅多に『ソロリティ』の活動には参加しないベアトリスが、今日は珍しくミツハを伴うことなくひとりで現れ、『孤児達のための施設を見たい』と言い出したため、『ソロリティ』の会長であるアデレートとその補佐であるカトルナ、副会長であるティーテリーザとその専属メイドであるアルシャが付き添うこととなったのである。
あまり大人数になっても困るため、首脳陣と、下々のことに詳しいメイドひとりを案内役兼お世話係として連れて行くことになり、選ばれたメイドが、あの、左腕を失った、アルシャなのであった。
ティーテリーザの専属であり、気心が知れていること。
……そして、主の娘を護るために自らの命を投げ出せる忠義者であること。
つまり、絶対の信頼が置ける者であることが証明済みであるため、これ以上に安心できる世話係はいない。
そして、貴族家息女4人とお付きメイドひとりの、かなり目立つ5人組が、町外れへと向かうのであった……。