軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

482 狼は狼を呼ぶ 15

「さ、皆さん、やっておしまいなさい!」

「はっ!」

「はっ!」

* *

手練れの侯爵家の護衛ふたり対、痛みと涙で碌に目が見えていないゴロツキ3人。

……もうひとりは、右手を抱えたまま蹲っており、完全に戦意喪失状態であるため、戦力外である。

端(はな) から、勝負にすらならなかった。

というか、ゴロツキ共は逃げたかったであろうが、碌に見えない目では全力で走ることはできず、逃げられなかったということであろう。

4人全員が倒され、縛り上げられた後……。

「ミーシュア様、あなた……」

「いえ、あのままずっと猫を被っているつもりだったのですわよ、本当は……。

でも、まあ、仕方ありませんわよね……」

「…………」

自分達を助けるために、おとなしくしているつもりであったのに本性を現したのである。文句を言うつもりなど、ベアトリスには更々なかった。

それに、仲が悪いのは母親同士だけであり、父親達は共に、相手側の夫婦両方と良好な関係らしいのである。なので、娘同士がいがみ合う理由など、 欠片(かけら) もない。

まあ、そんなことは後回しでいい。

悪党共は、警備隊に突き出して、黒幕共々根っ子まで叩き潰せば良い。

それよりも……。

「アルシャさん、せっかく女神様からいただいたという、御神器の腕が……」

申し訳なさでいっぱいのベアトリスと、辛そうな様子のティーテリーザ。アデレートとカトルナも、表情が暗かった。

「……あ、壊れたら直せるそうですし、壊れなくても数年ごとに新しいのに換装してくださるそうなので、大丈夫ですよ。直るまでの間に使う、予備の作業用義手もありますし……」

「「え……」」

思っていたのと、少し違う。

あっけらかんとしたアルシャの返事に、そんな顔をする令嬢達。

「女神様が私にくださったのは、この機械の腕というひとつのものではなく、 機械の腕を使う権利(・・・・・・・・・) なのだそうです。ですから、壊れれば修理するか、新しいものがいただけるそうでして……。

但し、『だからといって、あまり壊しまくらないように』との御託宣があったそうですけど……」

それは、当たり前である。

そんなにたくさん壊されては、お金が掛かって仕方ない。ミツハが御託宣を捏造するのも無理はない。

そしてみんなが、そんな遣り取りをしていると……。

「お嬢様、賊は全員捕らえて、警備隊詰所……に……」

意気揚々と戻ってきた護衛達の声が、急速に小さくなり、……途切れた。

「「「「「……」」」」」

縛り上げられ、転がっているゴロツキ達。

増えている令嬢と、新顔の他家の護衛達。

「「「「「…………」」」」」

……ヤバい。

失敗した。……それも、取り返しがつかない程の、大失態……。

それに気付き、蒼くなる護衛達。

結果的には、他家の護衛のおかげで、護衛対象であるお嬢様達は無事であった。

…… 結果的には(・・・・・) 。 たまたま(・・・・) 。

だからといって、許されるような失敗ではない。

功を焦って、護衛対象から離れた。

自分達は護衛であり、賊を捕らえることではなく、お嬢様を護るのが任務であったのに。

……もし、偶然他家の令嬢とその護衛達が通り掛からなかったら。

複数の護衛がいたのである。逃げた賊を追う者と、残って護衛を続ける者に分かれるべきであった。

これが、全員が同じ家に雇われた者達であったなら、こんなことにはならなかったであろう。

ちゃんと、役割分担ができたはずである。

しかし、3家分で5人。

もし、他家の護衛達が賊を捕らえ、自分は賊を追わずに残っていたとすれば。

手柄は他家の護衛達のものとなり、自分は賊を追わず、捕らえようともしなかった者、と評価されるのではないか。

また、自分達が圧倒的優勢であり、手柄を立てるチャンスに意識が高揚していたということもある。

現代地球のような、警護官としての高度な専門教育を受けているわけではない。

しかし、仮にも貴族家令嬢の護衛なのである。ある程度の常識は教えられているはずである。

これは、いくら賊を捕らえたとはいえ、褒美どころか、強い叱責モノである。

……いや、叱責だけで済めば幸運であろう……。

「「「「「…………」」」」」

情けなさそうな顔で、自分の護衛対象である令嬢の顔を、そして最悪の事態を防いでくれた、他家の護衛の顔を見る、5人の護衛達。

令嬢達は、いくら気の毒に思っても、このことを父親に報告しないわけにはいかない。

そんなことをして、後でバレたら大変であるし、そもそも、こういうことの再発防止のためには、生起した問題点は隠さずに報告しなければならない。事故の再発防止のための、鉄則である。

……まあ、叱責だけで済むように、少し口添えをしてやるくらいの慈悲の心はあるかもしれないので、護衛達は縋るような目でそれぞれの護衛対象である令嬢を見ているのであろうが、どうなることやら……。

とにかく、こうしてミツハ不在時のトラブルは何とか無事回避された。

後々面倒事のタネになりそうであったグループをひとつ潰し、同類達への警告としての効果を得て……。

* *

先のトラブルにおいて、実はベアトリスには切り札があった。

スカートの中、太腿に着けられた、ワルサーPPSである。

口径9ミリ、装弾数8発の、サブコンパクトピストル。

あの超至近距離であれば、4人のゴロツキ相手には十分な得物であった。

しかし、ウルフファングの拠点において、射撃場で標的に向けて撃ったことがあるだけのベアトリスは、反射的にスカートの中の銃を抜いて、という行動には出られなかった。

何も考えずに即座に銃が撃てるのは、何度も繰り返し練習し、身体に射撃動作を覚え込ませた者だけである。

ベアトリスは、射撃の腕はミツハを超えているが、そのあたりのことは、実戦を経験しているミツハには及ばない。

そしてそもそも、『御神器で人間を撃つ』ということを思い付かなかったため、銃のことがすっかり頭から抜け落ちていたようである。

太腿に着けられたホルスターの圧迫感や重さで、その存在を忘れるようなものではないというのに……。

もしあの時、ティノベルク侯爵家令嬢ミーシュアとその護衛達が現れなければ。

自分は、皆を護れただろうか。

それとも、せっかく御神器を持っていながら、それを活かすことができずに悲劇を招いたか……。

後になってそれに思い至ったベアトリスは、ミツハではなくサビーネに相談し、二度とこのような無様な真似をしないようにと、強く決意するのであった。

そう。自分は、栄えあるボーゼス侯爵家の娘なのだから……。