軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

455 迎 撃 2

「このメンバーの時にはもう来ないでしょうけど、伯爵家以下の者達だけの時とか、ミレイシャ様おひとりの時とかに絶対また来ますわよね、あの様子ですと……」

「ええ、どうやらかなり焦っている御様子でしたからね。まあ、それも無理はないでしょうけど。

このままですと、どんどん噂が広まって、大変なことになりますからね。

いえ、現状でも既に、あの方と婚約しようなどという勇者の女性はおられないでしょうし、御実家や、御兄弟の縁談とかにも影響が出るレベルですからね。

ここで、起死回生の手段を、と考えるのは当然のことでしょうけど……。

でも、今更どうしようとお考えなのでしょうねぇ。

……で、ミレイシャ様、先程の者達に見覚えはございまして?

私共は、 あの方々(・・・・) に見せていただきました、恐ろしく細密な肖像画によって顔を存じておりましたが……」

「い、いえ、全く……。

どこかでお会いしたという可能性はありますが、少なくとも、正式に御紹介されたり会話したり、ということはありません」

「ではやはり、勘違い男か、何か良からぬことを企んでいた悪党、という、 あの方々(・・・・) のお見立て通りでしょうか……」

あの方々(・・・・) 、というのが誰を指すかは、ミレイシャも知っている。

この国では、乳幼児を除けば知らぬ者はいないという超有名人達。

たとえ大臣の名は知らなくとも、その組織の名を知らない者はいない。

女神の御寵愛を受けし聖女達の 集(つど) い、『ソサエティー』……。

そして現在、ミレイシャを 陰(かげ) に 日向(ひなた) に護ってくれている組織の名前である。

今一緒にいる3人の令嬢達は、『ソサエティー』のメンバーではない。

しかし、今のこの状況を得ることができたのが誰のおかげかは、十分に認識していた。

(……ヤマノ子爵様、ありがとうございます。心から感謝いたします……)

「ミレイシャ様、あの者達が実力行使に出ました場合、護衛の者に斬り捨てさせても、御自身で返り討ちにされましても、問題ありませんわよ。

面識のない者であること、そして既に一度、絡もうとして無礼な真似をしでかしたことは、私達が証言いたしますからね。

ミレイシャ様を貶めるための流言飛語の出元であることからも、向こうから先に危害を加えようとしたとみなされて、正当防衛と判断されるのは確実ですわ。

大切な他国からの留学生に対する悪質な犯罪行為なのですから、皆、ミレイシャ様の味方として、お守りいたしますわ。御安心くださいまし」

「は、はい……」

さすがに、他国の貴族家子息を斬り捨てるのは、如何なものか。

ミレイシャには、そこまでの覚悟はできていない。

護衛に命じて斬らせるのも、自分が斬るのも……。

ミレイシャも、伯爵家の娘である。

暴漢に辱められることのないよう、幾ばくかの武術の心得もあり、反撃用の、そして最後の手段として辱められる前に自害するための、隠し武器、暗器の 類(たぐ) いを身に着けてはいる。

……人生において、実際にそれを使うことになるとは思ってもいなかったが……。

(……いえ。いえいえいえいえいえ!!)

さすがに、それはない、と考えるミレイシャ。

いくら何でも、悪評を流されたというだけで肉体的にとどめを刺すというのは、些かやり過ぎのような気がする。

「…… 躊躇(ためら) っておられますわね、ミレイシャ様?」

そんなミレイシャの心の内を察したのか、侯爵家令嬢のティファナが、そんなことを言ってきた。

「たとえ暴力ではなく悪口を言われただけであっても、女性にとって不名誉なデマを流されるということは、社会的に全てを失うに等しいことなのですよ?

今回は、たまたま多くの方々がミレイシャ様のお味方についてくださいましたけれど、それはいくつもの幸運、 僥倖(ぎょうこう) が重なっただけですわよ。

普通であれば、ミレイシャ様は名誉を汚されて国元へお戻りになり、家名に泥を塗ったということで実家に縁を切られて修道院へ、ということになっていてもおかしくはないのですよ。

御自分の人生を潰され、台無しにされて、更に御実家にも汚名を被せる。

その上、直接ミレイシャ様に手出ししようとする相手ですわよ。

もしこのまま放置すれば、今後も多くの女性達が被害を受けるに決まっておりますわよ。

なので、これから被害に遭うであろう大勢の女性達を護るためには、……今、 プチッとする(・・・・・・) 必要があるのではないかしら?」

「…………確かに!!」

目からウロコ。

それに似た言い回しが、この国にもあった。

確かに、女性にとって名誉を汚され家名に泥を塗って修道院行き、というのは、男性にとっての廃嫡・勘当、貴族籍から抜いて平民落ち、というのに等しい。

……いや、男性は平民になっても、それなりに自由で幸せな人生を送ることも不可能ではないが、修道院に行った女性は、そこで全てが終わる。

ならば、何の罪もない女性を嘘で陥れてその人生を台無しにしようとした大悪党には、命は奪わないにしても、まともな人生は送れないようにしてやっても何の問題もないのではないか。

そう気付かされた、ミレイシャ。

目からウロコが外れたのである。

決して、今、目に大きなウロコが 嵌(は) まったわけではない。

……多分。

* *

「敵が、取り巻き2名と共に護衛対象に接触を試み、侯爵家令嬢達によりブロックされましたわ。

連中はすぐに撤退しましたが、再度来襲の可能性大、と判断しますわ」

「ご苦労さま。引き続き、警戒を続けて頂戴」

「了解ですわ!」

見張り役からの報告を受けて、適切な指示を与えた。

……サビーネちゃんが……。

いや、それ、私の役割なんじゃあ……。

「……代わる?」

「ううん、そのままお願い……」

その方が、作戦がスムーズに進むからね……。

イカン。このままだと、『ソサエティー』が、サビーネちゃんに乗っ取られる……。

……って、あれ?

「取り巻きは、4人じゃなかった?」

「あ、ふたりは、沈む船から逃げたようですわね。一時的に王都を離れて、それぞれの領地へ戻った模様ですわ」

「おお、アンテナが高くて、自分達の状況を察知したのか」

いいところで、うまく逃げたなぁ。

「あんてなが高い?」

「あ、いや、うちの国での言い回しで、情報に敏感、というような意味だよ」

「なる程……。兵力は銀、情報は金、というやつですわね」

この国には、そういう言葉があるのか……。

情報の重要性はかなり認識されているのかな。

補給の重要性は、どの程度認識されているのか……。

いやいや、今はそれは関係ない!

まあ、そのふたりは、 目端(めはし) が利く将来性に免じて、見逃してやるか……。