作品タイトル不明
454 迎 撃 1
「おい、お前達!」
街を歩いていた4人連れの少女達に、貴族と思われる3人連れの少年達が近付き、そのうちのひとりが声を掛けてきた。
少女達も、その服装や髪型、物腰等から、明らかに貴族の息女達であろうと思われる。
貴族の子息が、街で出会った貴族の息女達に声を掛ける。
何のおかしなこともない、ごく普通のことである。
……しかし……。
「警戒対象接近! 警戒態勢A! 繰り返します、警戒態勢A!!」
少女達の間に、緊張が走る。
現在、異国からの留学生の少女ミレイシャは、『ソサエティー』のメンバーではない3人の貴族家令嬢達と共に街を歩いていた。
その後方には、各家の護衛達が少し距離を取ってついているが、それは怪しい平民が不自然に少女達に近付いたり、不審な人物が絡もうとした場合に備えてのものである。
そのため、きちんとした身なりの貴族の少年が近付いただけであれば、何かあればすぐに飛び出せるようにと少し距離を詰めて体勢を整えはするものの、別にすぐにどうこうすることはない。
……しかし、少女達はそうではなかった。
ミレイシャと一緒にいた少女達は、近付く3人の貴族の少年達からミレイシャを後ろにして 庇(かば) う位置取りをし、完璧の防護体勢を取っていた。
「……え?」
「「「えええ?」」」
驚く、ミレイシャと3人の少年達。
その他の少女達には、驚いた様子はない。
ただ、己の成すべきことを、きちんと理解しているかのようである。
護衛達は、動く様子がない。
人の目がある街中で、当然護衛が付いているに決まっている貴族の少女達に危害を加えようとする貴族の子息はいないであろうし、少年が少女に声を掛けようとするのを邪魔するような無粋な護衛はいない。
……ただ、少女達の 些(いささ) かおかしな反応は気になるが、皆、貴族の少女達であり、しかも上位貴族の令嬢なのである。恋のさや当てか、お嬢様達の可愛い嫉妬による 諍(いさか) いか……。
別に自分の護衛対象である少女の危機でもないのに、そんな者達の邪魔をするような護衛はいない。わざわざ火中の栗を拾おうとする者など存在しないのは、当然のことである。
ミレイシャの護衛だけは、我慢できずに飛び出しそうな素振りを見せていたが、仲良くなっていた他家の護衛達に 宥(なだ) められて足を止め、そわそわしている。
「止まりなさい! それ以上近付くと、害意があるものと判断し、実力行使を行います!」
「……え?」
少女達からの言葉に驚き、目を剥いてその場に立ち止まる、キイディス達3人。
淑女から、貴族である自分達に掛けられるにしては、それはあまりにも過激な言葉である。
後方の護衛達も、予想外の展開に目を白黒させているが、別に少年達が何らかの行動に出たわけではない。
そのため、まだ自分達が介入するような事態ではないと判断し、黙って様子を見ているしかなかった。
「見知らぬ礼儀知らずの男達から、『お前』呼ばわりされる覚えはございませんわ。
私を、コルトレス侯爵家のティファナと知っての 狼藉(ろうぜき) ですか?」
「同じく、ファヴェル侯爵家のセリティナですわ!」
「エンレイス伯爵家、タトリーヌですわ!」
「「「下がりなさい、無礼者!!」」」
「「「ひっ……」」」
「あ、逃げましたわ……」
「まあ、無理もございませんわ。
向こうは、あまり羽振りの良くない伯爵家の三男 風情(ふぜい) 。私共の3家を敵に回すくらいなら、勘当して、貴族籍から抜いて平民として邸から放り出されますからね、御当主様から……。
これで、私達が付いている限り、再度ミレイシャ様と接触を図ろうとはされないでしょう」
「そうですわね。あの連中、私達の顔すら知らなかったようですし。所詮、私達と顔を合わせる機会すら与えられない程度の、三下ですからね。
他のチームにも、侯爵家や権力の大きな伯爵家の者を組み込んでおりますから、外出されます時には必ず待機番のチームにお声掛けくださいましね、ミレイシャ様」
「……は、はい、ありがとうございます……」
ほんの数日前の状況からはとても考えられない程の、上位貴族を含む全貴族子女からの厚意と完璧な防護態勢。
ミレイシャが動揺し、キョドるのも無理はない。
これは、知らずデマに踊らされて他国からの留学生を貶めていたことをいたく反省した令嬢達が、ミレイシャを守るために、上位貴族の息女達に頭を下げて協力をお願いした結果である。
上位貴族の息女達は、不用意に他者を貶めるような言動を行うことはない。
なので、噂の拡散には関与していなかったのであるが、交流のある下級貴族の者達から涙ながらに頭を下げて頼まれた上、下手をすると国際問題となる可能性もゼロではないため、全面協力を行うこととなったのである。
さすがに、公爵家の御令嬢には声を掛けなかったが、侯爵家と伯爵家の者達はその大半が協力を申し出た。
これが、ミレイシャが自国の貴族令嬢であればここまでの動きにはならなかったであろうが、ミレイシャが他国からの留学生であるということが、協力者の増加に拍車を掛けた。
……そして勿論、その裏には、『ソサエティー』のメンバー達の暗躍があった。
自らも上位貴族の息女であり、そして絶大なる人気を誇る『ソサエティー』のメンバー達が、お友達に お願い(・・・) すれば。
そして、それまであまり交流がなかった令嬢達に話し掛け、 善き行い(・・・・) に参加しないか、と勧誘すれば……。
……入れ食い状態であった。
リストアップした勧誘対象で、協力を断った者は、ただのひとりもいなかったのである。
そして、ミレイシャの護衛チームに『ソサエティー』のメンバーが入っている時もあるし、直接ミレイシャと行動を共にする者の中にメンバーが含まれていない時もある。
後者の場合には、少し距離を取って付いているメンバーがいる。
その場合、令嬢方の護衛の者には、素人のお嬢様護衛……普通は、護衛される側の人間……が尾行していることなど丸分かりであるが、それに口出しする者などおらず、苦笑しながら見守っているだけであった。何かあれば、そちらも自分が護ってやらなきゃならないのだろうな、と思いながら……。
ただ、その場合、助けた他家の令嬢の親からかなりの礼金が貰える可能性が大きいため、密かに『何か起こればいいなぁ』などと考えてしまうのは、仕方のないことであろう。
そして勿論、密かに護衛についている『ソサエティー』メンバーのお嬢様の後方には、そのお嬢様を護るための護衛がついている。
……もう、護衛だらけの、インフレである。
もし隠れ護衛の真似事をしているメンバーの出番があるとすれば、それは自分の家の爵位と『ソサエティー』のメンバーであることを盾にして、 不埒(ふらち) な相手を追い払う時だけであるため、護衛の者達に助けてもらう必要はないはずである。
全く無関係のゴロツキとかに絡まれることも、ほぼあり得ない。
そういう連中は、犯罪行為に出る前に、ちゃんと周囲の状況を確認するからである。
隠れ護衛をゾロゾロと引き連れた高位貴族のお嬢様達に手出ししようなどと考える馬鹿は、まず、いない。
ひとつの貴族家に睨まれただけで、徹底的に追い詰められての破滅しか待っていないというのに、一度に数家の貴族を敵に回そうとする 勇者(バカ) は、そうそう居るものではない。
そして更に、いざとなれば大声で、自分が『ソサエティー』のメンバーであること、そして今現在暴漢に襲われているということを叫んで助けを求めれば、……普段は貴族を助けるために危険を冒したりすることなく、見て見ぬ振りをするであろう平民達が、一斉に敵に向かって襲い掛かり、助けてくれることは確実であった。
神の存在が信じられている世界で、女神の覚えがめでたくなる機会を逃す者は、まず、いない。
皆、ここぞとばかりに活躍し、少しでも女神に好印象を与えようと頑張るに違いない。
そう。『ソサエティー』のメンバーは、助けを求めれば、必ず大勢が殺到する。
その存在自体が、生きた防犯装置なのであった……。