作品タイトル不明
456 迎 撃 3
報告に来たメンバーが帰った後、サビーネちゃんと作戦会議。
「次は、少しは考えて来ると思うよ」
「……そりゃまぁ、今回と同じことの繰り返し、ということはないだろうねぇ。馬鹿じゃないんだから……、って、馬鹿だったか……」
「あはは……」
私の言葉に、乾いた笑いを溢す、サビーネちゃん。
「とにかく、次はミレイシャちゃんひとりの時か、自分より格下の令嬢しかいない時を狙うだろうけど……」
「うん、無理。外出時には常にアイツより格上の令嬢が付いているし、たとえひとりの時でも、少し離れたところに護衛がいるからね。そして……」
「勿論、『 ソサエティー(うち) 』のメンバーが、護衛の人達と一緒にいるからねぇ……」
そう。二重に護衛が付いていると色々とバッティングしてしまうから、ミレイシャちゃんのところ……、レリスデル伯爵家の護衛とは話がつけてあるのだ。
他家の護衛がいない時には、我が『ソサエティー』の護衛番のお嬢様とミレイシャちゃんの護衛は仲良く、一緒に隠れ護衛の任に就いているのである。
他の者から見れば、レリスデル伯爵家の護衛は、一緒にいるうちのメンバーの護衛にしか見えないだろう。……それも、隠れ護衛ではなく、護衛対象であるお嬢様と仲良さそうに一緒に行動しているように……。
「まあ、男性の護衛と戦闘メイドのふたりだし、『 ソサエティー(うち) 』の子が所属を明かして大声で助けを求めれば、問題ないか」
「相手が敵国の精鋭部隊1個小隊、とかいうのじゃなければ、大丈夫だと思うよ」
うむうむ、私の見立てとほぼ同じだな、サビーネちゃんの判断も……。
「ま、連中、2~3日はおとなしくしているだろうね。
……じゃあ、その間に、色々と情報収集をしておこうか……」
* *
「……何とか、沈む船から逃げ出せたか……」
「ああ。噂を広めるのに一役買ったが、別に暴力を振るって危害を加えたわけじゃない。
キイディス様が断罪されるときには既に 袂(たもと) を分かっており、『命令されて、立場上やむなく従っていただけ。それでも我慢できず、自分や実家の立場が悪くなるのも顧みず、キイディス様の側から離れた』と言えば、俺達にはお 咎(とが) めはないだろう。
キイディス様のとばっちりは、危機察知能力が低かった、あのふたりに引き受けてもらおう。
……まぁ、今回の件はエンルードが言い出したことだから、アイツに関しては自業自得だけどな……」
何とか破滅の前に逃げ出した、キイディスの取り巻きのふたり。
後のことは、全て残ったふたりに押し付けるつもりのようであった。
ふたりの実家は、キイディスの実家であるクルバリッヒ伯爵領に隣接している。そのため、ふたりで示し合わせて逃げ出す時に、一緒に旅をすることにしたのである。
貴族の子息は、女性のように常に護衛を引き連れているわけではなく、貧乏貴族の三男以下が正規の護衛が付いている駅馬車で移動する時には、護衛なしというのも珍しくはない。
貴族の子息は剣の訓練をしているし、三男以下はそう重要な者ではないので、そこまでお金は回されないのである。
なので、駅馬車の乗り継ぎのために降りた町で宿屋に泊まり、馬車でガチガチに固まった身体を休めながら、のんびりとそんな話をしていたふたりであるが……。
「お客様、領主様の遣いの方が来られております。
何でも、夕食に御招待したいとか……」
「「え?」」
宿の者にそう言われ、驚きと戸惑いの声を漏らす、ふたり。
それも、無理はない。
ふたりの実家までは、まだまだ距離がある。
……なので、ここの領主が、自分達や実家の者と顔見知りであるとは思えない。それも、三男以下の者を、わざわざ領主が夕食に招いてくれる程の関係であるとは……。
しかし、事情はどうあれ、領主からの招待を断れるわけがない。
なので、返事はひとつしかなかった。
「……わ、分かった。すぐに身支度するから、遣いの者にそう伝えてくれ……」
* *
「こ、この度は、お招きいただき、ありがとうございます……」
半信半疑のまま領主邸へと案内され、人違いではないということを確認したが、間違いではないという返事。
そして奥へと通されて、待っていた領主に挨拶をしたふたり。
いくら貧乏貴族の子息とはいえ、一応は貴族なのである。それくらいの礼儀作法は弁えている。
「いやいや、急な招きに、よく来てくれた。
……実は、本日我が家を訪ねて来られた客人が、たまたま今日この町におふたりが滞在しておられるとお知りになったらしくてね。
それで、是非おふたりも夕食に、と頼まれたのだよ……」
それを聞き、面識のない貴族からの急な招待の謎が解け、ほっとした様子のふたり。
そういうことであれば、この状況にも納得ができる。
自分達にも、貴族の親族や友人知人がそれなりにいるのである。そのうちの誰かが領主邸を訪問するにあたり、たまたま町で自分達を見掛けたのであろう、と……。
格上の貴族家と縁ができるのは、ありがたい。
そう思い、その者に感謝するふたりであるが……。
「おお、その客人方が来られたぞ」
そう言われ、ドアの方に顔を向けると……。
「ようこそ。ミツハ・フォン・ヤマノ女子爵です。貴族家息女達の親睦会、『ソサエティー』の副会長を務めております。
こちらは、妹のサビーネです」
「「……ぎ……」」
「ぎ?」
「「ぎゃあああああ〜〜!!」」
…… 謀(はか) られた。
正しく、そう理解した、取り巻きのふたりであった……。
* *
「……では、そのエンルードという方の発案で?」
「は、はい……」
「その方は、なぜそのようなことを?」
「そ、それは……」
ここの領主様は、私の顔見知りだった。
ヤマノ領産のお酒や食べ物を気に入ってくれており、パーティー等で顔を合わせると、いつも礼を言ってくれる、気の良い人だ。
なので、王都を離れた取り巻きのふたりが実家に戻るにはこの町で駅馬車を乗り継ぐ必要があると知り、ここで捕捉するために網を張っていたのだ。
この大陸は、軍用機で何度か上空を飛んでもらったので、大半の場所へは転移できる。
なので、サビーネちゃんと一緒に先回りするのは簡単だ。
領主様には、白州12年のシングルモルトウイスキーを始めとした、厳選6本セットを贈って、驚喜された。だから、夕食の席での私達の尋問を笑顔で生温かく見守ってくれている。
今回の件の概要も説明したから、完全に私達の味方になってくれているしね。
……ちなみに、白州18年や25年は、高いからパス!
私はウイスキーは飲まないから、味とかは分かんないし……。
とにかく、全てを吐かせるのだ。
多分、正直に喋ってくれるだろう。このふたりにとっても、何とか今回の件から逃げ切りたいと思っているなら、私達に好印象を与えておいた方がいいからね。
……それに、裏切った形になる、あのキイディスとかいう男からの仕返しを回避するには、アイツに完全に失脚してもらった方が安全だよね?
さあさあ、全部喋ってもらおうか……。