作品タイトル不明
452 調 査 2
「よし、攻勢防御で行こう!」
「攻勢防御? 何でしょうか、それは……」
これからの作戦方針を決めるのに、私がそう提案したのだけど……。
うん、お嬢様達は知らないよね、そんな言葉……。
どうやら、直訳でそれに該当する軍事用語がないみたいなんだよね、この国の言葉には。
何人もの軍人……高級将校を含む……と会話してきたんだ、この国の軍事用語は完全にマスターしているはずだからね、私。
その私の 語彙(ごい) にないということは、そもそもそういう意味の単語がないということだろう。
勿論、『攻勢』という言葉と『防御』という言葉はあるから、それをくっつけて喋っている。
該当単語なし、として、日本語のまま『コウセイボウギョ』と言ったりはしていない。
「ええと、若干の意味のブレはあるんだけど、守っているところに攻めてきた敵を、防御のみに専念するのではなく、積極的に攻撃してズタボロにするとか、戦場になると想定されている場所へ到着する前の敵をボコボコにするとか、……まあ、『攻撃は最大の防御なり』と言うか……」
私もあんまり詳しくはないから、間違ってるかもしれない。
でも、地球ではともかく、この世界においてはそういう意味の言葉なんだから、構わない。
そんなこと、誰が決めたのかって?
……私だ!!
「おかしな噂は、相手にせず無視するのが一番、という説もあるけれど、それは相手が不特定多数であり、こちらからは反撃できない場合の話だよ。
相手が特定範囲内であり局限可能な場合には、当然、反撃に出て相手を叩き潰す方が手っ取り早いよね。
特に、向こうが反撃されることを想定しておらず、油断している場合には……」
私の言葉に、にっこりと満面の笑みを浮かべる、 我が同志(ソサエティーの少女) 達。
みんな、 逞(たくま) しくなったなぁ。
いつの間にか、新兵ではなく古参兵のような貫禄だよ。
まあ、社交界は戦場だからねぇ。
貴族令嬢は皆、歴戦の勇士ってわけだ。
* *
「それでは、ドロテア様はリシュル様からお聞きになられたと?
そしてその時、エスレディア様とシトリ様も御一緒だった、と……」
「ええ……」
噂の拡散ルートを記した、あの相関図の 欠落部分補填(あなうめ) と発生源を確定するため、再度情報収集に努める、ソサエティーのメンバー達。
そして……。
* *
「姉様、解析が終わったよ。
新しいデマが流れる度、最初は毎回同じ、数人の者達から周囲に拡散されてる。その者達の友人知人、立ち回り先とかを経由してね。
そして、その者達には共通点があるの……」
おお! さすサビ!!
サビーネちゃんは、さすがに 新大陸(こっち) じゃあ自分で情報収集を行うことはできないから、ここ、物産店の2階で解析担当者兼司令センターの役割を務めてくれているのだ。
集まった情報を分析して、『次は、誰々に、この話を聞いたのは誰からかを確認してちょうだい』とかいうのを指示して、必要な情報を他の者に集めさせて、自分は解析に専念しているわけだ。
勿論、自分の指示に最も適切なメンバーを指定するのも、サビーネちゃんの役目だ。
……今ではもう、サビーネちゃんのことをただのマスコット扱いする者はいない。
メンバー達はみんな、サビーネちゃんの圧倒的な能力に気付いているから、一人前の、……いや、一人前以上の能力を有する、立派な『ソサエティーのメンバー』だと認めてくれているのだ。
お姉さん(わたし) についてきただけの、ただの私のオマケ、ではなく……。
勿論、会議で認められての正式加入じゃないけれど、そんなこと、もう誰も気にしていない。
実質的な、メンバー扱いだ。
今日は、ここにいるのは私とサビーネちゃんだけ。
ソサエティーのメンバー達は貴族のお嬢様だから、そうそう勝手に出歩けるわけじゃないし、ひとりで 物産店(こんなところ) に来るわけにはいかないからねぇ。
基本的には、彼女達と会うのはお茶会の時か、どこかのパーティー会場くらいだ。
そしてコレットちゃんは、今日は領地邸で家臣教育。
サビーネちゃんにも王女教育があるはずなのだけど、簡単に終えて、自由時間がたっぷりとあるらしいのだ。
……くそっ、天才めっっ!!
役に立ってくれるから、助かるけどさ……。
「……で、その、共通点というのは?」
家具もなく空っぽだったこの部屋には、大きな丸テーブルと椅子を入れて、テーブルの上には相関図やら各種資料、集められた情報が書かれた書類とかが置かれている。
そのテーブルに両手を突いて、ぐいっとサビーネちゃんの方へと身を乗り出して、そう尋ねた。
「クルバリッヒ伯爵家の三男、キイディス・ド・クルバリッヒと、その取り巻き連」
「あ~……。
って、それ、『共通点』じゃなくて、 答え(・・) だよね?」
私が、そう指摘すると……。
「ううん、まだ『答え』じゃないよ。
デマの発信源が分かっただけで、他に黒幕がいるのかどうかも、目的も、何も分かっていないんだからね。それじゃあ、まだ事件の全貌究明には程遠いでしょ。
それに、いくら背景が分かっても、ミレイシャちゃんの名誉を回復しないと、事件の解決にはならないよ」
「……た、確かに……」
少し手掛かりが得られたからと調子に乗った私と違って、ちゃんと全体を見て、やるべきこと、最終目的を見失わない。
それでこそ、私のチビっこくて腹黒い参謀役、『チビくろ参謀』だ。
……さすサビ!!
「で、敵の実働部隊は分かっても、直接どうこう、ってわけにはいかないんだよね。
貴族の子供が誰かの悪口を言ったという程度で警備兵が動くわけがないし、しかも相手が他国の貴族の娘なんて厄介な事件に関わりたいと考える警備兵も、上官の貴族もいないよ。
伯爵家の子息に 惚(とぼ) けられれば終わりだし、伯爵家に目を付けられたい警備兵も、その上官である下級貴族もいないよ」
……確かに、サビーネちゃんが言う通りだ。
それに、他国の貴族である私が直接口出しするわけにはいかないし、ソサエティーのメンバー達にも、そんな件に表立って関わらせるわけにはいかない。
みんなに手伝ってもらえるのは、あくまでも情報戦においてのみだ。
サビーネちゃんも、それは分かっているはずだ。
「……じゃあ、どうすれば……」
私の呟きに、サビーネちゃんがにっこりと微笑んだ。
「目には目を、歯には歯を。自動反射装置だよ!」
自動反射装置? 何のこと……、って、アレか!
敵が浴びせてきた攻撃を、そのまま相手に向けて跳ね返す、某巨大ロボットの装備。
……そしてサビーネちゃんと目が合い、ふたりの声がハモった。
「「カラミティ、アクション!!」」
そういえば、あのDVDも一緒に観たなぁ。
ロボットのことは、巨大ゴーレムだと説明して……。
特撮技術とかを知らないサビーネちゃんは、私の母国の文明は にほん(・・・) を遥かに 凌駕(りょうが) したものだと思っているのだろうなぁ……。
とにかく、まぁ、サビーネちゃんが言いたいことは分かった。
向こうが、正面切っての反撃がし辛い攻撃をしてくるなら、こっちも同じことをしてやればいい、ってことだ。
そしてそれならば『情報戦』の 範疇(はんちゅう) だから、引き続きソサエティーのメンバー達の協力が 仰(あお) げる。
うむうむ、お茶会の臨時開催の知らせを出すか……。