作品タイトル不明
453 調 査 3
「ええっ! じゃあ、あの留学生のミレイシャ様に関する噂は、何やら良からぬことを企んでおられます、クルバリッヒ伯爵家の三男、キイディス様とその取り巻きの方々が故意に広めているデマである、ということですの?」
「ミレイシャ様の評判を落として、困っておられるところに甘い言葉で近付こう、とか?」
「 下衆(げす) ですわ! 最低最悪の、見下げ果てた俗物ですわ!!」
* *
「カウンターのデマ……、いえ、こちらは正真正銘、真実なのですが……、噂話の拡散は、順調ですわ。
何しろ、向こうの取り巻き連よりも ソサエティー(わたしたち) の方が人数が多いですし、信用度が大違いですし、……そして同じ女性同士ですからね。
既にミレイシャ様は、悪党に目を付けられて、根も葉もないデマを流された被害者だという認識が広まり、慰めたり励ましたりするために今まで交流がなかった方々からもお声掛けいただけるようになりましたし、その身をお護りするために、いつも数人の上級貴族家の方達がついてくださっておりますわ。
そして、ミレイシャ様に関するおかしなデマを口にした者には、すぐに皆が『そんな酷い嘘を、いつ、誰から聞いたのですか?』、『真偽も確かめずにそのような誹謗中傷を口にするとは、淑女として恥ずかしくはないのですか?』と問い詰めますので、敵側のデマの拡散はほぼ停止しておりますわ。
デマの拡散に関わっていた方達は、御自分の評価が急落したことに 大慌(おおあわ) てで、以前のデマの取り消しと、こちらが流しているカウンター情報の拡散に努めてくださっておりますわ」
「……完璧の母!!」
私が思わず呟いた言葉に、はてな、というような顔の、みんな。
いや、元ネタを知らない上、言葉の壁で、そりゃ意味が分かんないよね。
いつもは、似たようなニュアンスのこっちの言葉で駄洒落にするのだけど、いい言葉が思い付かない時もあるよ、そりゃ……。
「完璧です! デマや誹謗中傷は、誰が流したか分からないからこそ、平気で流し、拡散できるのです。なので、誰かに喋った瞬間に相手から強烈な非難を受けて、拡散の犯人だと突き上げられれば、大慌てで手の平返しをするしかありませんからね。
……そして、悪事を企む黒幕として自分の名が広まった犯人とその取り巻き達は、今頃、どうしているか……。
情報戦は、私達、ソサエティーの圧勝です!
我らソサエティーは、無敵なりイイィ~!!」
「「「「「「おおおおおおお〜〜!!」」」」」」
……イカン。
また、 メンバー達(みんな) を調子付かせてしまった……。
あまり調子に乗られると、何かやらかしたり暴走したりしそうで、怖いんだよなぁ……。
でも、色々とただ働きしてもらう都合上、働いてもらった後は、ヨイショして士気を鼓舞しておく必要があるんだよねぇ。報酬代わりに、達成感、満足感を与えなきゃならないから。
……ま、これくらいは大丈夫か……。
さて、尻に火が付いた犯人達が、どう出るか……。
ミレイシャちゃんに直接接触するのに備えて、ソサエティーのメンバーやその他の高位貴族家の皆さんがガードしてくれているけれど、馬鹿と追い詰められて後がない者は、無謀な行為に出る場合があるからなぁ。
やはりここは、ファランクスシフトかな?
* *
「……いったい、どういうことだ!!」
邸の自室で、取り巻きの者達を怒鳴りつけている、ひとりの貴族子息。
今現在における、王都の貴族令嬢達の間での、悪い意味での『時の人』、クルバリッヒ伯爵家の三男、キイディスである。
取り巻き達は、別にキイディスの人柄に 惹(ひ) かれて、というわけではなく、ただ家臣の息子だとか、領地が隣接する下級貴族の子息とかで、立場上子分のようなポジションとなっているだけである。
なので、理不尽に一方的に怒鳴りつけられても、反抗するようなことはなかった。
……今までは……。
「どうして、俺があの女に関する噂を流した張本人だという話が広まっている!
噂話など、誰が最初に言い始めたとか、調べようがないはずだろうが!
なのに、なぜ俺が言い始めたという話になっているんだ、ええ!!」
……それは、事実あなたが言い始めたことだからでは、と思う取り巻き達であるが、さすがにそれを口に出すことはできなかった。
「そして、なぜ『ソサエティー』の者達が奴の擁護に回っているのだ!
この国で『ソサエティー』を敵に回すということは、貴族の女性達全てを敵に回すということだぞ!!」
普通、どのような勢力を敵に回そうとも、必ずその勢力には 反対勢力(・・・・) というものがあり、そちらに擦り寄ることによって、何とか均衡を保つことができる。
……それが、『ソサエティー』以外であったなら……。
『ソサエティー』は、派閥を超えた、有力貴族の息女達の集まりである。
それも、才覚があり有能、しかも性格が良く人格高潔という、この国の中で選りすぐりの少女達。
固い友情で結ばれた、強固な団結心。
何度も示された、女神の御寵愛の印。
そしてあの、謎の異国の貴族ヤマノ女子爵と、その領地から送られてくる輸入品を一手に取り扱うレフィリア貿易による完全バックアップ。
ヤマノ子爵領産の化粧品、酒、その他様々な嗜好品。
それらを手に入れられなくなる危険を冒そうとする貴族はいないし、もしそんな考えが浮かぼうとも、妻や娘、母や祖母、そして一族郎党に猛反対されるに決まっているから、そのようなことを実行する者はいない。
別に、『ソサエティー』は政治的な活動を行うわけではなく、ただの貴族の息女達の親睦会に過ぎないのである。何の邪魔にもならないし、それどころか、懇意にしていればメリットは大きい。
……それに、何よりもこの国には、女神の御寵愛を受けし有力貴族の息女達のグループに喧嘩を売り、敵対しようなどと考える無謀な者も間抜けも存在しなかった。
そしてそれは、このクルバリッヒ伯爵家の三男、キイディスと、その取り巻き達も同様である。
なので、キイディス達の動揺は大きかった。
「どうなっているのだ、エンルード!
お前が立てた計画だろうが!!」
「そっ、それは……、まさかあの女が、我が国の貴族子女でさえなかなか親交を結べないという『ソサエティー』の者達と交流を持て、更にあのような積極的な擁護を得られるようになるなどとは、思いもせず……」
ミレイシャに関する件の発案者らしき取り巻きのひとりが、そう言って弁明するが……。
「うるさい! 全てお前のせいだ!
このままではマズいのだ、何とかしろ!!」
「は、はい、分かりました……」
* *
「どういうことだ! なぜ状況が変わらぬ……、いや、ますます悪化する一方なのだ!!」
「……は、その……、新たな噂を流そうにも、我々の話を聞いてくれる者は誰もおらず……。
話を聞くどころか、私達の姿を見ると、慌てて距離を取られる始末で……」
ようやく、自分達がどれ程追い込まれているかを知ったらしき、取り巻きのひとり。
「うるさい! 俺が聞きたいのは、そんな言い訳ではない!!
……ところで、ロディとネーレイはどうした?」
取り巻きの内、そのふたりの姿が見えない。いつもキイディスにピッタリと張り付いていたというのに……。
「……あ、あのふたりでしたら、領地に戻りましたけど。親元から、急ぎ戻るようにとの連絡があったとかで……。
キイディス様には、挨拶に来ませんでしたか?」
「何……」
エンルードからの返答に、聞いていないぞ、と怪訝そうな顔の、キイディス。
……姿のないふたりは、危機察知能力が高く、立ち回りが 上手(うま) かった。
沈む船からは、真っ先に逃げ出す。
そういう嗅覚に優れていたのである。
今、既にキイディスの名は悪い話として広まっている。
そして今はまだ『キイディスの取り巻き』、『仲間』としか言われていない自分達のことが実名で口にされるようになるのも、時間の問題であろう。
そうなれば、自分の婚約どころか、兄弟姉妹の縁談や実家の名誉すら、どうなるか分からない。
……あの『ソサエティー』どころか、国中の若い女性達、その家族や親族、友人達に最低最悪の悪評が広まり、そして更に、他国との関係に害を成す行為として問題視されたりすれば、……詰む。
なので、適当な口実を作って、さっさと 沈む船(キイディス) から逃げ出したのであろう。
そして、沈む前に変に絡まれることを避けるため、取り巻き仲間には挨拶をしたものの、キイディスには何も告げずに領地へと避難した、と……。
それでもまだキイディスの側に残ってくれているこのふたり、エンルードとヴァイスは、義理堅いのか、自分が置かれている立場を理解できない馬鹿なのか……。
「くそ、この大変な時に……。
とにかく、今はおかしな噂を何とかするのが先決だ。
何の証拠もないのだ、噂の元を黙らせれば済む。……いいな?」
「「は、はい!」」