作品タイトル不明
445 お嬢様からの依頼 1
「あ~、平和だなぁ……」
新大陸の、ヴァネル王国。
その王都にある、私の『ここに住んでいますよ!』というアリバイ用の、住居兼アンテナショップ兼転移の発着ステーションである、物産店。
……住居というのは名ばかりで、居住区画ということになっている2階部分には、家具も何もない。
ここの主な用途は『転移の発着ステーション』であり、ここには一度も泊まったことがないし、ベッドや布団すら置いていないのだ。
1階の店舗には大した 商品(もの) は置いていないから、客はあんまり来ない。
開店当初は、繋がりを欲しがった貴族の遣いやら商店主やらが大勢来ていたけれど、そういうのは既に一段落している。
貴族は、パーティー会場で本人同士が直接話したほうが早いからね。
貴族家当主がこんなところへ自ら足を運ぶわけにはいかないし、私を自分の邸に呼び付けることもできないし、遣いの者に他国の貴族である私との話を任せるわけにもいかないだろうしね。
そんなの、貴族家当主である私に対する無礼行為になっちゃうから。
……いや、私自身は全然気にしないんだけどね、そんなこと……。
でも、まぁ、そういうわけには行かないよね、向こう側としては……。
商人は、私がこの国ではレフィリア貿易としか直接の取引はしないと理解しているから、 物産店(ここ) へ商談に来る者もいなくなったし。
まぁ、そういうわけで、『お店をやっています』、『ここに住んでいます』というアピールだけのためにたまに 物産店(おみせ) を開けていても、客が来なくて暇なのだ。
そもそも、10回以上来ても1回開いているかどうか、ってレベルだから、わざわざこの店に来ようとする一般客なんかいないよね。価格も高いし……。
少なくとも、商人じゃない普通の平民は、絶対に来ない。
お隣が警備隊詰所だから、チンピラやゴロツキ共すら近寄らないし。
まともに商売をしたり儲けたり、というつもりは最初から全くなく、店舗部分はただのダミーに過ぎないから、それでいいんだけどね。
みっちゃんの話によると、例の孤児院の子供達、遂にデビューを済ませたらしい。
あの、地球のアニメを参考にした歌とダンスを猛練習した、寄付金目当てで頑張っている孤児院の子供達だ。
私は旧大陸で色々と忙しかったから顔を出せなかったけど、『ソサエティー』のメンバーの大半が、 お披露目(デビュー) を見に行ったらしい。
孤児院の目的は、子供達を 演(だ) し 物(もの) として貴族家や商家のパーティーに呼んでもらい、寄付金をゲットすることなんだけど、そのためにはまず芸を見せて、呼んでもらえるように宣伝しなきゃならない。
なので、とりあえず宣伝のために、懇意にしている男爵家のパーティーに出させてもらったらしいのだ。
宣伝のためなので無料でも出させてもらいたいところだったらしいけれど、以後のことを考えると、それはマズい。
……孤児院の演し物は無料、なんて話が広まるのは、そりゃ駄目だよね。
だけど、『孤児院の子供達が出るなら、私達もお呼ばれしたいですわ』と『 ソサエティーの面々(我が仲間達) 』が申し出たところ、即決だったとか。
そりゃ、今をときめく女神の愛し子達、聖女と呼ばれている『ソサエティー』のメンバーが男爵家如きのパーティーに来てくれるなど、絶対に断られるはずがないよねぇ。
最近の名声だけでなく、元々、メンバーの大半は伯爵家や侯爵家の御令嬢達なんだから……。
男爵家としては、大喜びだっただろう。
そして当然のことながら、男爵家でのデビュー戦は大成功に終わった、というわけらしい。
当たり前か。
……孤児院への寄付金、つまり自分達がお腹いっぱい食べられるかどうかが懸かっているんだ、そんな大事な仕事で、失敗するような孤児はいない。
文字通り、自分や後輩達の生活が懸かっているんだものねぇ……。
そんなの、血を吐くほど練習したに決まってるよ。
……だから、成功して当然。ごく当たり前の結果だ。
うむうむ、『 ソサエティー(うち) 』の活動が切っ掛けとなって、子供達が幸せになってくれれば……。
「……ここが、ヤマノ子爵領物産店ですかっ!」
何か、キタ~!!
明らかに貴族のお嬢様っぽい、15~16歳くらいの金髪少女。
……目が、少々キツい。
そして、護衛と思われる、腰に剣を佩いた若者がふたり。まだ 20歳(はたち) 前かな。
まぁ、ここでは全員が成人だ。そしてそれは、自分の不始末は自分の命で 贖(あがな) う責任を持つ者達だということだ。
「そうですけど、……何の御用でしょうか?」
うん、何かを買いに来た、って様子じゃないよねぇ……。
「店先で話すようなことではありませんわ。奥に入れてくださいまし!」
……奥って言われても、ここはそんなに広くないから、1階部分で空いているのは物置の隅っこと、タライの水かお湯で身体を拭くための小部屋くらいしかないよ……。
2階も、部屋はあるけれど、テーブルや椅子すら置いていないし……。
でも、話も聞かずに貴族のお嬢様を追い返すわけにはいかないよねぇ……。
この連中が、私が他国の貴族だということを知っているかどうか、分からない。
なのにそんな無礼を働くと、護衛らしきふたりがどんな態度に出るか……。
これが、『ソサエティー』に入れてくれだとか、化粧品を売れだとかなら、断って追い返す。
たとえ相手が伯爵家であろうが、侯爵家であろうが……。
だけど、どうもそういう話じゃなさそうなんだよねぇ。
さて、どうするか……。
「とりあえず、中にお入りください」
そう言って、店内に招き入れ、扉の外側に『閉店』の札を下げ、カギを掛けて、カーテンを閉めた。
「すみません、2階の部屋を少し片付けますので、しばらくここでお待ちください」
貴族の御令嬢を待たせるのは失礼かもしれないけれど、こっちも貴族だし、アポなしでいきなり来られたわけだから、それくらいは構わないだろう。
クレームとかじゃなさそうだし、何となく面倒事の予感はするけれど、『向こうが頼む側』だと思うんだよね。
だからか、文句は出なかった。
* *
2階に行ってすぐ、連続転移でうちの領地邸から椅子とテーブルを運んだ。
そして……。
「サビーネちゃん、ちょっとお願いしたいことが……」
「うわぁ! ……って、姉様……。
私の部屋に直接 渡り(・・) をするなんて、久し振りだね。……急ぎ?」
幸い、サビーネちゃんは王宮の自分の部屋にいた。
そう。知らない貴族に頼み事をされると、断りにくいんだよ。
そりゃ、明らかに無理なことや、利益目当て、私を利用しようとすることとかは、断固として断るけれど、相手に悪意がなかったり、気の毒だったり、福祉的なお話だったりすると、断るのが苦手なんだよねぇ……。
で、そういうときに便利なんだよ、サビーネちゃんは。
新大陸では王女様としての立場は使えないけれど、私が困っていると、うまく口を挟んで掻き回してくれるのだ。
……そして、頼み事を断る方向へと誘導してくれる。
さすが、サビーネちゃん。
さすサビ!!
……しっかりと『貸しポイント』を加算されるんだけどね……。
まぁ、それは仕方ないか。
背に腹はかえられぬ……。
「緊急事態の概要は?」
私が直接サビーネちゃんの部屋に転移したことから、急ぎであることは丸分かりだ。
「護衛をふたり連れた貴族のお嬢様が、物産店を訪問。厄介事の臭いがプンプン。
上手く断って追い返すよう、アシストをお願い!」
「分かった。今は手が空いてるから、このまま行けるよ」
「助かる! じゃあ、転移!!」