作品タイトル不明
444 その後 3
静まり返った、パーティー会場。
さすがに、女神から直接新しい腕をいただいたというのは、インパクトが大きすぎたか?
でも、ここは神様が実在すると信じられている世界だから、それくらい受け入れられると思ってたんだけどなぁ。
ヴィボルト侯爵家の人達は、何の疑問も抱かずに、即、信じてくれてたじゃん……。
「……凄い……」
「何と神々しい……」
「「「カッコいい……」」」
……ありゃ?
ワンテンポ遅れて、何だか、予想外の反応が……。
実は、アルシャちゃんの強い要望で、筋電義手は本物の腕に似せたものじゃなく、メカメカしくてサイバーファッション的な、アニメに出てくるような近未来的なデザインのやつなんだよね。
色も、派手でカラフル。一目で、『普通の、生身の腕じゃない』って分かるやつ。
そう、とてもカッコいいのだ!!
でも、私がそれを『カッコいい』と感じるのは、SF系の小説や漫画、アニメや映画とかを見慣れていて、ロボットやサイボーグとかを知っているからだ。
なので、そういうのを全く知らないこの世界の人達の目にはどう映るか、心配だったんだよね。
……だけど、思っていたより好評なんで、ちょっと驚いたよ……。
まあ、『女神から賜った』という宣伝文句が効いているのかもしれないけどね。
落ちた視力を補うために、メガネを掛ける。
痛めた部位を補助するために、サポーターを付ける。
それと一緒で、失った腕を補助するために、義手を付ける。
何のおかしなこともない。
そして、メガネはデザインに凝って、掛けていないよりもカッコ良くなれるものがある。
ならば、生身の腕よりカッコいい義手があってもいいじゃない。
会場では、小さな呟きが次第に大きくなり、広がっている。
そして、アルシャちゃんの勇気を讃える声と、慈悲深き女神に対する感謝の祈りが……。
「あ~、これかぁ……」
「え、何?」
サビーネちゃんが、何か、納得したような顔をしてるよ?
「今、侯爵はティーテリーザちゃんが賊の襲撃を受けたことを公表したよね。
ということは、何も隠す必要がない、つまりティーテリーザちゃんは無事だったと明言したってことだよ。
それは即ち、今後襲撃事件のことが広まっても、おかしな噂になってティーテリーザちゃんの名誉に傷が付くような心配はなくなったということだよ。
そして、侯爵家の者は、下級使用人が命を懸けて護ってくれる程慕われていること。
女神から祝福を賜るような家であること。
……更に、『 雷の姫巫女(ねえさま) 』と、パーティーに気軽に来てくれるような親密な間柄であることを招待者全員に見せつけたわけだよ。
これって、かなり強力な政治的効果があるよ……」
「あ~……。
まぁ、アルシャちゃんに関係することを大勢の前で発表するから、私にも情報を共有できるようにと、厚意で呼んでくれたのだと信じよう!
侯爵、いい人っぽかったからね」
「うん、貴族にしては平民思いの、人格者だって聞いてるよ。
……貴族として遣り手だってこととは矛盾せず、両立させているらしいよ」
あ~、ボーゼス侯爵様と同じかぁ……。
まぁ、上級貴族が完全にお人好しとかだと、領地どころか、国を潰しちゃうよね。
侯爵には、アルシャちゃんの腕に関して私が関わっていることはあまり公言しないようにお願いしてある。
……そんなことが大々的に広まれば、手足を欠損している人達が私のところに押し掛けてくるに決まってるからね。
こういう文明レベルの世界なんだ。日本でならば簡単に治せるような怪我や病気でも、手足を切断しなきゃならない場合は多いだろう。
戦争では、銃がないから、手足を失って生き延びる、っていうケースも多いだろう。
だから、貴族の中にも手足を失った者は多いはずだ。
今、ここにいる招待客の親族にも、そういう人がいるかもしれない。
だから、『姫巫女様に貰った』ではなく、『女神の御慈悲』ってことにしなきゃならないのだ。
アルシャちゃんへのサポートを続けなきゃならないから、私が関わっていることを完全に隠すことはできないだろうけど、そこは、『女神からの指示で、愛し子がサポートを命じられた』ってことにすればいい。愛し子でないと女神の言葉を正確に受け取れないから、とか、なんとでも説明できるだろう。
ベアトリスちゃんとも口裏を合わせて、私が 大聖女様(ベアトリスちゃん) 経由で女神の指揮下に、ってことにしてもいいかな。
……勿論、わざわざそんなことをみんなに説明したりはしない。
それとなく匂わせるだけで、直接聞かれた時には、『女神の御慈悲です』とか、『女神の 御業(みわざ) を、 己(おの) が功績のように語るなど、 畏(おそ) れ多い……』とか言えば、それ以上突っ込んで来る者はいないだろう。
何せここは、女神が実在すると信じられている世界だし、もし信じていないとしても、立場ある者がそれを公言するわけにはいかないからねぇ。神殿勢力や多くの人民を敵に回したくなければ。
侯爵は、私を招待しておいて『女神様繋がり』でそれとなく事情をほのめかしながら、しかしみんなの前で私との関係を強くアピールしたりせずに普通に扱うということで、『察しろ』、『しかしそれを追及するな』という、 分かる人には分かる(・・・・・・・・・) 、というメッセージにしたのかな?
そして、侯爵家のパーティーに招かれる者で、それくらいのことが分からない者はいない、と……。
まあ、そのあたりはどうでもいいや。
私達に面倒事が回って来ず、……そしてアルシャちゃんにとって、より良き未来が来るのであれば……。
あ~、アルシャちゃん、貴族の皆さんに囲まれて、褒めそやされて、ちょっと調子に乗っちゃってるぞ?
……まぁ、良い子だから、慢心するようなことはないだろう。
サービス精神が旺盛なだけだよね、多分。
……だよね?
* *
「……どうして、アルシャちゃんがここに……」
侯爵家でパーティーが開かれた数日後、『ソロリティ』のお茶会に、ティーテリーザちゃんと一緒に、アルシャちゃんがやって来た。
そして私の疑問には、アルシャちゃんではなく、ティーテリーザちゃんが答えてくれた。
「アルシャは、私付きのメイドになりましたの。これから、皆様と顔を合わせることもあるかと思いまして、紹介しようかと……」
……まぁ、想定の範囲内だ。
それくらいのことは、十分考えられたよね。
じゃあ、 アレ(・・) の準備をするか……。
うん、アルシャちゃんに贈ろうと思っていた、ベルトだ。
小さなポーチがたくさん付いている、タクティカルベルトみたいなもの。
それに、色々と装着したやつだ。
防犯ブザー、防犯用催涙スプレー、アーミーナイフ、……そして、忘れちゃいけない、万能工具のラジオペンチ!
あまりたくさん付けると、重くなって大変だけど、厳選した便利用品、安全用品を付けて、『戦闘メイド』じゃないけれど、『汎用メイド』の爆誕だだだ!!
……そう。
この時の私は、想像もしていなかったのだ。
アルシャちゃんの万能振り……じゃない、 汎用振り(・・・・) に驚いた『ソロリティ』のみんなが、自分達も女神の御慈悲にあやかろうとして、自分の専属メイドに同じようなベルトと装備品を着けさせるなんて……。
そして、それを見た『ソロリティ』のメンバー以外の令嬢や子息達も、すぐにその真似を始めるなんて……。
重いベルトを着けさせられる羽目になった専属メイドの皆さん、ごめんなさい……。
あ、アルシャちゃん以外のメイドがベルトに装備しているのは地球産のものじゃないから、投擲用ナイフとか暗器とか毒の粉とか、……もっとずっと ヤバいやつ(・・・・・) だ。
……そう、『汎用メイド』じゃなくて、『戦闘メイド』寄りのやつなんだよ。
メイド本人は戦闘面では素人なのに、装備だけはそっち方面で……。
もっと、工具やら何やらの、便利道具を持たせろよっ!!
う~ん、地球製の防犯グッズ、売ってあげるべきかなぁ……。