作品タイトル不明
446 お嬢様からの依頼 2
「すみません、お待たせしました。では、2階へどうぞ!」
椅子とテーブル、そしてサビーネちゃんを配置して、1階へ下りてお客さんを御案内。
お茶も茶菓子も出さないけれど、ここじゃお湯を沸かすのもひと苦労なんだ。私とサビーネちゃんしかいないのに、急な来客にお茶が出せる方が不自然だ。
……そもそも、お茶や茶菓子を出してあげる価値がある相手かどうかも分からないしね。
歓迎すべき相手なら全力でもてなすけれど、歓迎すべからざる相手には、水道水すら出さないよ、私は。
まあ、この世界では、日本の安全で綺麗な水道水は、贅沢な飲み物かもしれないけどね。
氷を浮かせでもすれば、超贅沢品かもね。
「どうぞ、お座りください」
椅子を勧めたら、お嬢様ひとりが座り、他のふたりはその左右やや後ろに立ったまま。
まぁ、護衛が座ったりはしないよね。襲われた時に、剣を抜いて反撃するのが遅れるから。
……だから、それはいいんだけど、サビーネちゃんを睨むな!
そりゃ、あんた達から見れば、『どうして子供が同席しているんだ!』と思うかもしれないけれど、それを言うなら、私もここの人達からは12~13歳くらいに見えているはずだ。
だから、サビーネちゃんを追い出せ、とか言われれば、即、話は終了だ。
……とか考えていたら……。
「「「…………」」」
何か思うところはあるみたいだけど、3人共、サビーネちゃんに視線は向けたものの、何も言わなかったよ。
うん、何となく察したのかな、私の様子から。
……じゃあ、始めるか……。
「では、御用件を伺います」
ようこそお越しくださいました、なんて言葉は口にしないよ。
別に歓迎はしていないし、へりくだるつもりもないからね。
こっちが 下手(したて) に出れば、調子に乗って高圧的な態度に出られる可能性があるから、買い物客じゃない、護衛を連れた正体不明の少女なんかに余計なアドバンテージは与えない。
護衛のふたりは、御主人様に対する私の敬意が足りないとでも思っているのか、不愉快そうな顔をしている。
でも、頼み事があるのはそっちの方だよね?
しかも、爵位は知らないけれど、多分そっちの御主人様は『貴族家の娘』だよね。本人が爵位貴族だというわけではなく、ただ『貴族の娘』だというだけの……。
それに対して、こっちは爵位貴族本人だよ?
しかも、他国の貴族だ。この国の、 ただの貴族家の娘(・・・・・・・・) 如きが偉そうにしていい相手じゃないだろう。
……いや、さすがに、侯爵家とか公爵家とかの御令嬢なら、私も少しは配慮するけどね。
みっちゃん2号やその父親には態度がデカい?
あれは、まぁ、『仲の良いお友達と、その父親』ということで……。ハハハ……。
そういうわけで、変にへりくだった態度とかは取らず、割と塩対応っぽくしているのだけど、一応はきちんと対応しているんだ、門前払いで追い払ったりはせずに。
それだけでも、感謝してほしいよね。
それを理解しているのか、お嬢様本人は、別に気を悪くした様子はない。
……感謝しているような様子もないけどね。
「あなたがヤマノ子爵家の令嬢で、間違いありませんわよね?
……使用人とかではなく?」
あ~、確かに、初対面だとそこが気になるよね。
私、ここにいる時には、ドレスとかじゃなくて普通の店員のような恰好だものね……。
いや、お店や自室にいる時までドレス着てたら、鬱陶しくて仕方ないよ!
クリーニングとかにも結構お金がかかるんだよ、ドレスとかは……。
日本のクリーニング店に出しているからね、その方が 生地(きじ) を傷めたりせず、仕上がりが綺麗だから……。
とにかく、服装から見れば、サビーネちゃんが貴族家の御令嬢で、私がその使用人、と考えるのが当然だろう。
まあ、私の年齢(見た目の)や髪の色、お店では店員の恰好をしていることとかを聞いていれば、間違えることはないだろうけどね。
……そして、それにも拘らず、確認せずにはいられなかったくらい、私が平民っぽく見えたということだな、うん!
そして、私の返事は……。
「はい、そうですが……」
正しくは、私は『ヤマノ子爵本人』であって、『ヤマノ子爵令嬢』じゃない。
でも、今この少女は『ヤマノ子爵家の令嬢か?』と尋ねたよね?
ならば、ヤマノ子爵家の者であり、未婚女性、つまり令嬢である私は、それに該当するよね、うん!
なぜ、相手が私のことを爵位貴族本人ではなくその娘だと勘違いしているのを察していながら訂正しなかったか?
それは……。
その方が、面白いから!!
相手に自分を見くびらせておいた方が、 隙(すき) ができやすいし、本音を漏らしやすいだろう。
……それに、誤解させたままの方が、頼みか強要か知らないけれど、それを引き受けずに追い返すのに便利だろうからね。本当のことを教えて、『無礼な!!』とか言って……。
そして、私が『ヤマノ子爵家の令嬢』であることを確認したお嬢様は、ようやく説明を始めてくれた。
「私、ノーヴェス王国のレリスデル伯爵家の娘、ミレイシャと申します。
現在、この国に留学中ですの……」
ありゃ? 他国の貴族?
それなら、化粧品の入手ができないから何とかしてくれ、というお願いかな?
う~ん、国内で他国の貴族に直接売る、というのは想定していなかったな。
留学生なら、将来この国との友好のために役立ってくれるかもしれないし、学友達がみんな ヤマノ産(うち) の化粧品で綺麗になっているのに自分だけが、というのは 辛(つら) いよね。
それはちょっと可哀想だ。
どうしようかなぁ……。
「そして、ある事件に巻き込まれてしまいましたの……」
事情が変わった!!
「……それで、お友達に相談しましたところ、『ヤマノ子爵家のミツハ様に御相談されてはどうかしら』と言われましたの」
あ~、私なら、『ソサエティー』のメンバー達に顔が利くからねぇ。
メンバーの大半が伯爵家と侯爵家の娘だし、その友人とか信奉者、シンパとかを含めると、かなりの人数になる。影響力は絶大だよねぇ。
……戦いは数だよ兄貴、ってヤツだ。
それに、同じ 他国の貴族(よそもの) 同士、話しやすいだろうと思われたのかな?
まあ、妥当な判断だけどね、確かに……。
「それで、その『事件』と申しますのが……」
あ~、結局、門前払いにはできず、事情を聞くことになっちゃったか……。
でも、まだだ!
『面倒事が起きたら、ヤマノ子爵に押し付ければいい』なんて風潮が広まったら、大変だ。
ここは、うまく切り抜けて、帰ってもらわなきゃ……、って、サビーネちゃん、どうして『あ~あ……』っていうような顔をして、肩を竦めているのよ!
そうなるようにうまく誘導するための要員として、サビーネちゃんを連れてきたんだよ。
そのあたり、分かってるよね?