作品タイトル不明
434 『ソロリティ』の危機 2
「……え?」
自分の耳を疑った。
「い、今、何て?」
「だから、街のゴロツキ達が、今から貴族のお嬢様を攫うって話してて……」
「なんじゃ、そりゃあああ〜〜!!」
私が色々と仕事を回してあげている孤児達のうちのひとりが、 雑貨屋ミツハ(うち) に駆け込んできて、とんでもないことを報告してきた。
「場所、時間、状況! 正確に、簡潔に!!」
「あ、うん……」
私が情報収集を頼む者達には、急ぎの報告には何が必要かということを教育してある。
「路地裏で3人のゴロツキ達が話しているのを聞いた。あとふたり集めて、貧民区の炊き出しに来ている貴族のお嬢様達の帰路を襲うって……。
俺は奴らから死角になるところにいたから、話を聞かれたことは悟られていないと思うよ」
まあ、そりゃそうだろう。
そんな計画を聞かれたと知れば、聞いた者を黙って見逃すわけがない。
この子が生きて、無事ここにいるという事実が、連中が話を聞かれたことを知らないという証拠だ。
「炊き出しの場所は、東の貧民区、古物屋の近くの空き地。もう片付け終わって、帰り始めている頃だと思う……」
「えええええ〜〜っっ!!」
私も、一応は他の組織による炊き出しの予定を把握している。
その時には、孤児達に仕事を依頼するのを控えたり、私からの食料支援の日をずらしたりする必要があるからだ。
そして、今日は炊き出しの予定はなかったはずだ。
ということは、他の組織とバッティングしないように告知や根回しをするという知識がない、初心者によるものだろう。
更に、『貴族のお嬢様』というキーワード……。
そして5人のゴロツキが『攫う』となれば、護衛が全くいないということだろう。
護衛がいれば、もっと人数を集めるか、そもそも最初から誘拐を諦めるはずだ。
何しろ、チンピラやゴロツキというのは、兵士や傭兵になれるだけの強さもなく、他の職に就けるだけの真面目さも勤勉さもない連中だ。なので、勿論剣術や武術の訓練をしたりはしていない。
ただ、刃物を振り回して粋がっているだけの連中だから、ちゃんと訓練をしている護衛が付いていれば、たとえかなりの人数差があっても勝負にならない。
なのに襲う、しかも慌てて人を集めるとなると、炊き出しに向かうところか炊き出し中のところを見て、護衛がいないことを知って 急遽(きゅうきょ) 犯行を思い立ったということだろう。
……ヤバい。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
目標(ターゲット) が あのふたり(・・・・・) である確率が、メチャクチャ高い!!
いや、たとえそうではなかったとしても、狙われた者がいるという事実には変わりない。
この街で、……いや、この国で、私や、私の関係者に手を出そうとする者は、あんまりいない。
でも、一般の人達に名が知られるような実績が全くない『ソロリティ』のことは、貴族の間でしか知られておらず、平民の、それもチンピラやゴロツキ達にはその存在すら知られていない。
そしてたとえ存在を知っていたとしても、そのメンバー達の顔が知られているわけじゃない。
新大陸の『ソサエティー』であれば、そんなことはないのだけど……。
ここで、『ソロリティ』の知名度の低さが 徒(あだ) となったか……。
とにかく、誘拐は事前に防がなきゃなんない。
誘拐なんだから、その場で殺される可能性はゼロだけど、 無事な状態で攫われた(・・・・・・・・・・) 、という事実さえ見せておけば、攫った後でどうしようが、身代金の要求には支障ない。
お金を受け取る時に、邪魔になる人質を連れてきたりはしないだろうし、自分達の顔やアジトの場所を知った者を返すのは、危険が増えるだけだ。
お金を受け取って、あとは殺すか他国で売り払う、というのが、一番安全で、儲けも多い。
それに、もしちゃんと人質が返されたとしても、……一度誘拐されてしまった時点で、その子の人生は台無しになっちゃう。
貴族の令嬢が、悪漢と長時間一緒にいたりすれば、たとえ何もなかったとしても、『純潔を汚されたもの』として扱われてしまう。
どんなことをしてでも、誘拐そのものを阻止しなきゃ駄目だ。
……そもそも、『ソロリティ』のメンバーが奉仕活動中に襲われたなんて噂になったら、評判がガタ落ちだよっ!
いや、そんなことはどうでもいい。
ただの親睦組織である『ソロリティ』なんか、潰れようがどうしようが、そんなのどうでもいい。
今はただ、何としてもふたりの名誉を守らないと、あのふたりの人生がメチャクチャになっちゃうよ!
炊き出しの場所である空き地は、知っている。
私も、何度か支援活動に使った場所だ。
……よし!
「転移!!」
* *
ウルフファングの 本拠地(ホームベース) 内で借りている、私の武器置き場。
そこに転移して、いつでも使用可能な状態にしてある武器のうち、以前使ったことのある低致死性セミオートランチャーを掴んだ。
もしティーテリーザちゃんとラステナちゃんが既に賊に捕まっていた場合、私の腕じゃあ敵だけに当てるのは難しいから、普通の銃だと撃てないからね。
……まあ、このランチャーにしても、 低致死性(・・・・) というだけで、別に死なないとは言っていない。当たり所が悪ければ、普通に死んじゃうだろう。
でも、まぁ、首より上や心臓とかに当たらなきゃ、小さな子供やお年寄り、病人とかでなければ、大丈夫だろう。……多分……。
100パーセントの破滅を防ぐためなら、数パーセントの危険を冒すのはやむを得ないだろう。
ランチャーの弾倉に装填されているサボット弾は、15発。
敵は5人だから、ひとり当たり3発。
超至近距離で撃つなら、2発は当たるだろう。
向こうは撃ち返しては来ないから、落ち着いて狙えるからね。
それに、もし撃ち漏らしがあったとしても、私が人質がいても躊躇なく撃てば、向こうは人質が無意味だと思って、抱え込んでいては戦闘の邪魔になるからと人質から手を離すかもしれない。
そうなれば、左腋と腿に装備しているワルサーPPSが火を噴くぜ!!
相手にしているのが 雷の姫巫女(わたし) だと知って、素直に投降してくれればいいのだけど、望み薄だよねぇ……。
これが、窃盗とかなら、そうなる可能性は結構高いだろう。
でも、貴族の御令嬢を誘拐しようとしたとなると、いくら未遂であっても、捕らえられれば間違いなく死罪だ。
絶対に起こさせてはならない犯罪を抑止するためには、大きな刑罰が必要となる。
なので、貴族や王族に対する加害行為、国に対する裏切り等は、問答無用で極刑だ。
そして、本人だけでなく、家族どころか、一族郎党全てに累が及ぶこともある。
こういう文明レベルの世界じゃあ、当たり前のことだ。
だから、多分、降伏することはないだろう。
いくら女神の御寵愛を受けていても、私はただの小娘だ。剣で斬れば死ぬ。
そして無事逃げ延びれば、何とかなる。自分達の身元が分かっているわけではないのだから……。
そう考えるだろうなぁ、多分……。
……と、色々考えているけれど、口に出しているわけではなく脳内で考えているだけなので、ほんの一瞬だ。
その間に、サボット弾がフルに装填されていること、CO2が充填されていること、安全装置が解除されていること等の、最低限の確認作業を終えて……。
「転移!!」