軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

435 『ソロリティ』の危機 3

「炊き出しをしていた者達は!!」

「「「「「「うわああぁ!!」」」」」」

転移した空き地には、炊き出しに集まっていたらしき者達がまだかなり残っていたけれど、炊き出しを行っていたと思われる者達の姿はなかった。

大鍋やら移動用の 竈(かまど) とかもない。

……ということは、既に撤収済み、ということだ。

「どれくらい前! どっちへ行ったの!!」

「……え? 姫巫女……、さま……?」

「いいから! 炊き出しをしていた者達は、どっちへ行ったの! どれくらい前!!」

「あ、は、はい……。ついさっき、向こうの方へ……」

時計なんかないから、何分前、なんて返事は望むべくもない。『ついさっき』とかいうのも、幅が広すぎる。

……でも、そんなことに文句を言っている暇はない。

構えていたランチャーを 負い紐(スリング) で肩に掛け、全力でダッシュ!

今現在どの 辺(あた) りにいるか分からないから、ここは転移よりも走った方が早い。

転移だと、行きすぎたり遮蔽物のため見落としたりする可能性がある。

行った道が分かっているなら、炊き出しの器材を積んだ荷馬車と一緒にゆっくりと進んでいる者達に追いつくのは、簡単だろう。

よし、走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ走れ!!

* *

……いた!

よし、間に合った!!

……と、言えるのかどうか……。

ここは、貧民区と普通の区域との境目の、やや貧民区寄り。

人通りが少なく、見通しも悪く、そして揉め事があっても、どちらの区域の住民も関わり合いになりたくないから見て見ぬ振りをするという、まぁ、犯罪をやりやすい場所だ。

炊き出し組は、調理器材を積んでいる荷馬車、そしてその後に続く、貴族の令嬢ふたり、及びそれぞれの家の使用人らしき若い男女が4~5人。

……あちゃ~……。

普通、危険な下町に行くのなら、護衛を付けるだろう。

それと、何かあっても対処できるように、ベテラン…… 家令(スチュワード) や 執事(バトラー) とまでは言わないけれど、それなりの経験のある者……も付けるはず。

それらが全くいなくて若手ばかりということは……。

親や年配の使用人達には内緒で、直接若手に指示して行動したな……。

そして、道の前後に立ち塞がった、合計5人のゴロツキ共。

情報通りだ。あの子には、後で追加報酬をやらなきゃね。

さて、どうするか……。

炊き出し組もゴロツキ達も、目の前にいる相手に神経を集中させているから、まだ私には気付いていない。

みんなを見つけた以上、そう慌てることはない。

誘拐の獲物を意味もなく傷付けたり殺したりする誘拐犯はいないし、抵抗しなければ他の者達も危害を加えられることはないだろう。

口封じのために使用人達を殺すという可能性も低い。

そして、私が視認している以上、ふたりを連れて逃げ切ることも不可能だ。

いくら5人いても、女の子ふたりを抱えてそう速く逃げられるとは思えないし、馬車を使ったところで、私の『連続転移追跡術』……馬車が遠ざかる度に、その後ろ数メートルの位置に連続転移する、というのを延々と続ける……に掛かれば、逃げ切ることなど不可能だ。

それに、私の 能力(ちから) が人目に触れることを気にしなければ、人質を取られても転移で安全に回収できる。低致死性ランチャーは、できればあまり転移を見せたくないという理由で用意しているだけなのだ。

これが、新大陸なら、話は違う。

あっちじゃあ、私の能力は秘密だからね。

でも、ここじゃあ、『姫巫女様の「渡り」』のことは、みんなが知っている。

あまり人前でバンバン使いたくはないけれど、別にどうしても使うわけには、って程のことじゃない。

可愛い女の子を助けるためなら全然構わないし、いくら『使うと、生命力を削る』という設定であっても、みんなも『あ~、そういう場面なら、そりゃ使うよねぇ、姫巫女様なら……』と思い、軽くスルーしてくれるだろう。

男達は、まだ前後を塞いだだけで、炊き出し組との間には少し距離がある。

この後、何か脅しの言葉を吐いて、その後ニヤニヤと笑いながら近付いて、という手順だろう。

これ以上近付こうとすれば、私が声を掛けて制止。

そうすれば、一応は、驚いて立ち止まるだろう。

それで、私の名乗りで 退(ひ) けばよし。退かなければ、それ以上接近する前にサボット弾をお見舞いすればいい。

……そう考えていた。もう大丈夫だと。

なので、私は炊き出し組を無事見つけることができたことに、安心していた。

視認できたので、もう何の問題もないと、余裕たっぷりで。

……馬鹿だった。

ここは平和な地球じゃないし、ゴロツキ共は理性的に損得勘定ができる程頭が良くない。

……そして、真面目な使用人というものが、尊敬すべき雇い主とその家族に対して、どれだけの忠誠心を抱いているかということを、理解していなかった……。

「お嬢様に近付くな!!」

……え?

荷馬車の後部を背にして、ふたりのお嬢様を護るように半円を形成していた使用人達の内のひとり、まだ年若い少女が数歩、前に出た。

そして、両手を左右に伸ばして男達の前に立ちはだかった少女から放たれた、力強い叫び。

私は、ゴロツキ共の動きを注視していたため、まさかふたりのお嬢様を護っている側が前に進み出るなどとは思ってもおらず、反応が遅れた。

そして……。

「うるせえ! 邪魔だ!!」

無意味に怪我人を出すと、罪が重くなるだけ。

普通ならそう考えそうなものであるが、何も考えていないのか、それとも貴族を襲って捕らえられれば極刑は確実なので、いくら罪を重ねようが同じことだと開き直っているのか……。

確かに、これ以上いくら罪を重ねようが、上手くカネを手にして逃げられた場合も、捕らえられた場合も、それぞれ結果には全く影響しないであろう。

そして、無造作に抜き放たれ、振り下ろされた、剣。

狙いが少し 逸(そ) れたのか、左手の手の平の真ん中あたりがズバッと斬られ、少女の手の平の前半分が親指と共に飛んだ。

「ぐあっ!!」

あまりの痛みに声を上げたが、それもただ一瞬。

ぐっと歯を食いしばり、右腕と、そして尖端部から血が流れ出す左腕を再び左右にピンと伸ばし、ゴロツキの前に立ち塞がる使用人の少女。

「……こ、このヤロウ……」

ゴロツキは、刃物と『俺たちゃ、平気で暴力を振るえるんだぜ!』という虚勢、威嚇だけで突っ張っている。なので、その威嚇が全く通用しない者の存在を、非常に嫌悪する。

馬鹿にされたと思って。……そして、自分達の優位性が通じないことに対しての恐怖心で。

それでも、さすがに無抵抗の少女に致命傷を与えるのは自制したのか、再度振り下ろされた剣は、今度は同じ左手の、手首と肘の中間あたりを切断した。

反対側、右手を狙わなかったのは、ゴロツキにも少しは情というもののカケラくらいは残っていたのか……。

「……あ!」

しまった!!

あまりのことに反応できず、みすみす目の前で行われたゴロツキ共の蛮行を許してしまった!

しかも、驚愕で固まってしまい、2度に渡る残虐行為を……。

イカン、すぐに病院に! いや、そうするとティーテリーザちゃん達とゴロツキ共をここに残すことになる!

じゃあ、ゴロツキ共を処分して、って、炊き出し側をこんなところに放置すれば、他のゴロツキやチンピラ達に襲われないとも限らない。

……仕方ない、早く片付くやつから、順に全部やるしか!!

もう、転移はあまり見せたくない、などと言っている場合じゃない!

とにかく、早く必要最小限のことを済ませて、この少女を地球の病院へ運ばなくちゃ!

「……転移!」