作品タイトル不明
433 『ソロリティ』の危機 1
「……え? 今、何て言った?」
「ですから、ティーテリーザ様とラステナ様が、何やら不審な行動を……」
次の『ソロリティ』の定例お茶会の打ち合わせに来た、ライナー子爵家。
アデレートちゃんの私室で、紅茶と茶菓子を置いたメイドさんが退室すると同時に、アデレートちゃんの口から放たれたのが、この不穏な話だ。
「まさか、謀反とか……」
「それはありません。おふたりとも、『ソロリティ』のためによく尽くしてくださっておりますわ。
特に、上級貴族の方々と下級貴族の方々の間に立って、良き関係を築いてくださっておりますわ。
……そして、不審な行動と言いますのは……」
アデレートちゃんの話によると、そのふたりの御令嬢は、少々焦っているらしいのだ。
ふたりは、以前、アデレートちゃんや私達に対して、やらかしたことがある。
その件は、貧乏男爵家の7女であるカトルナちゃんや、ベアトリスちゃんの機転によって、何とか丸く収まった。
……でも、そのことが負い目になっているらしく、何とかその分を『ソロリティ』に対して貢献することによって、罪滅ぼしと、あの時助けてくれたみんなへの恩返しを、と考えているようだと。
そんなの、気にすることないのになぁ……。
そもそも、『ソロリティ』は私の個人的な思惑で作られた親睦会に過ぎないし、ただ問題なく存続し、魅力的な御令嬢が量産されて目立ってくれれば、それだけで充分なのだ。
だから、それに大きく貢献してくれているという現在の状況だけで、ふたりは充分役に立ってくれているんだよね。
……でも、上級貴族の娘としては、受けた恩は返さねば、とか思っちゃうのは、仕方ないか……。
「そういう動機なら、『ソロリティ』にとってマイナスになることはしないんじゃないの?
ということは、当然私達に迷惑がかかることも、悪事も働かないでしょ。
みんなの役に立つ、良いことを考えているなら、別に何も問題ないんじゃないの?」
うん、アデレートちゃん、いったい何を心配しているのやら……。
「それはそうなんだけど……」
ありゃ、アデレートちゃん、言葉が砕けてきたぞ。
貴族令嬢おすましモードが終了して、タメ口で喋る、お友達モードに移行したな。
……ということは、本音で喋る、ということだ。
「おふたりだけで、何やら 空回(からまわ) りしたり、大きな負担が掛かったり、……そして無理や無茶をしたり危険なことをしたりするんじゃないかと、心配なのよ……」
あ~……。
貴族の、それも上級貴族のお嬢様は、知識は豊富だけど、それはあくまでも上流階級、貴族の世界での知識だ。
……それは、平民、一般庶民に通じるような知識や常識じゃない。
危険というものに関しても、貴族にとっての危険と、平民にとっての危険は、その種類も危なさの度合いも、全く違う。
それも、高価な衣服や装身具を身に着けた、美しい少女ともなれば……。
うん、そりゃ危ない。
「……ちょっと、様子を見ておこうか……」
* *
とりあえず、『ソロリティ』のメンバー達にお願いしておいた。
あのふたりが、無理をしたり危険なことをしようとしたら、すぐにアデレートちゃんか私に報告するように、と……。
みんなも、ふたりが悩んだり焦ったりしていることに何となく気付いていたみたいで、ティーテリーザちゃんとラステナちゃんが不在の時に私が本音での事情説明をした時に、協力を約束してくれた。
ちゃんと、あのふたりが悪い子達じゃないこと、そしてみんなのために頑張っている良い子であることを分かっており、仲間だと思ってくれているみたいだ。
……だから、焦る必要なんかないのになぁ、あのふたり……。
大体、あの件だって、みんなに貧乏くじを引かされただけであって、ふたりだけの責任じゃないじゃん。
あと、私の顔が利くフリーの……孤児院の世話になっていない……孤児達や、地回りのチンピラ連中にも、 私の仲間(・・・・) が困っていたら手助けするようお願いしておいた。
……いや、いるんだよ、チンピラ達の中にも、やけに私に親切な連中が……。
そりゃまぁ、私は一応、この国を守った『救国の大英雄』ってことになってるし、大聖女様や王女様のお友達だから、私に手出しすれば、警備隊どころか近衛兵や国軍が 出張(でば) って王都中のチンピラ連中を殲滅するだろうし、たとえ王都から逃げ出したとしても、国民全てが国中のチンピラ達に襲い掛かることになるだろう。
でも、それなら私に関わらなければいいだけだと思うのだけど、やけに好意的なんだよなぁ、チンピラ連中……。
私が、孤児院やら自力で生きている孤児やらに色々と支援しているからかなぁ。
チンピラ達の何割かは、孤児だった者達らしいから……。
まあ、そういうわけで、私はひとりで裏通りを歩いていても割と安全なのだけど、ティーテリーザちゃんとラステナちゃんは、そういうわけにはいかない。
なので、孤児達やチンピラ連中に、『ソロリティ』は私の組織であること、そのメンバー達はいい人達であることを教え、何かあれば護ってくれるように、そしてその場合は私から働きに応じた報奨品が与えられるということを伝えたのだ。
報奨金だと、金額の算定が難しいし、それなりのお金がかかる。
お金目当てに、良からぬことを考える者が出るかもしれないし、無理をする者も出るかもしれない。
だから、お金ではなく、品物にしたわけだ。
それなら、安くあがるし、他の者に対する報酬と比較して不満が出ることを防げるだろう。
モノは勿論地球の品で、雑貨屋ミツハでは売っていない、非売品。
ちゃんと私からの報奨品だと証明する書付を付けてあげるから、貴族や商人に売れば、かなり良い値段が付くだろう。
どうして孤児や街のチンピラ連中に根回しをしているかというと、……貴族のお嬢様が戦争も大事件もない平時においてやれる売名行為なんて、慈善活動くらいしかないからね。
そして慈善活動となれば、『3大慈善活動』、すなわち宗教団体への寄付や奉仕活動、孤児達への寄付と救済措置、……そして貧困層への炊きだしとかだ。
でも、宗教団体への寄付や奉仕はインパクトがないし、一般民衆への受けもあまり良くない。
そして孤児や貧民相手の活動は……。
普通、そういうのをやるときには、実際に活動する大勢のメイド達……別に、貴族のお嬢様が自分で炊き出しとかをやるわけじゃない。実作業はメイド達にやらせて、お嬢様は優しく微笑んで見守るだけ……、そして神殿の者とか護衛の兵士とか、そういうのを大勢連れて行くものだ。
でないと、炊きだしで振る舞われる食べ物よりもずっと手っ取り早くてありがたいもの、……つまり、お嬢様が身に着けている装飾品とか、身代金とか、人買いに売った代金とか、 そういうもので(・・・・・・・) 救済していただこう(・・・・・・・・・) 、と考える者が、必ず現れるから……。
うん、碌に護衛も連れずに、ほいほいと簡単に孤児達のところに現れても問題のない貴族令嬢なんて、私くらいのものだ。
……あ、サビーネちゃんとベアトリスちゃんも大丈夫かな。
国民全てに愛されているサビーネちゃんに手出しすれば、全ての人々を敵に回して袋叩きにされるし、女神の御寵愛を受けし愛し子に手出しして、国民全てどころか、女神まで敵に回したいと思うような勇者は、まず、いないだろう。
それが、たとえどんな凶悪犯であろうとも……。
……尤も、ベアトリスちゃんは、侯爵御夫妻がそんな危険な真似は絶対にさせないだろうし、サビーネちゃんは、常に隠れ護衛が付いているけどね。
ま、そういうわけで、ソロリティ内部からも、外側からも、ティーテリーザちゃんとラステナちゃんを見守る態勢を整えた、ってわけだ。
うむうむ、これで、ふたりの安全は確保されたな。
多少の暴走をされても安心か……。
……そんなふうに考えていた時期が、私にもありました……。