作品タイトル不明
419 招 待 8
30分くらいで、案内の人がやって来た。
さすがに、今度はそんなに待たされなかったね。
案内の人は、それなりの立場がありそうな男性だ。
まぁ、私達と一緒に謁見の間の中まで入るのだろうから、下っ端兵士やメイドさんというわけにはいかないか。
ただの付き人だと思われているであろうサビーネちゃんとコレットちゃんも、待機室に残るよう指示されることなく、私に同行するのを黙認されている。
まあ、ふたりは人畜無害に見えるし、幼い少女をここに残して行け、とは言われないか。
サビーネちゃんはまだデビュタント・ボールを終えていないから、正式行事に参加することも、他国の要人に会うこともなく、そのため他国の者には顔を知られていないとか……。
うちの国では、私と一緒によく王都をうろついているし、遊戯盤大会で司会を務めたりしているから、王都の者は割と知っているのだけどね。
まあ、それも、私と行動を共にするようになったり、遊戯盤大会が開かれたりした後のことだ。
普通、デビュタント・ボールや成人の儀を迎えていない王女様や王子様は、王宮の奥深く、国王一家のプライベートな居住区画で大事に育てられるものであって、家族や世話役のメイド、家庭教師とか 先輩指導員(チューター) とかの一部の者を除き、あまり外部の者とは接触しないらしいのだ。
だから、以前はサビーネちゃんの顔を知っている者は王都にも殆どいなかったとか……。
勿論、地方の者は、今でもサビーネちゃんの顔を知っている者は殆どいないらしい。
というか、当たり前だよね、それって。
写真もテレビも新聞もないし、本人の安全のためということもあるし。
誘拐とか暗殺とかを避けるためにね。
顔が知られていなければ、身代わり、……『影武者』を立てるのも容易になるし。
そういうわけで、まさか子爵風情の付き人が王女殿下だなどということは、この国の人達には想像もできないだろう。私達が教えない限り……。
……うちの国の王宮内なら、サビーネちゃんがビットやファンネルみたいに、常に私の周りを飛び回っていることは、みんなが知っているのだけどね。
そして勿論、サビーネちゃんは私に近付く敵をメガビーム砲で撃墜してくれるのだ。
今回はコレットちゃんもいるから、ダブル・フィン・ファンネルかな。
……などと考えているうちに、謁見の間に到着。
案内の人の指示で、扉を護る衛士が大きく開扉。案内の人に先導されて、室内へ。
案内の人に私が続き、サビーネちゃんとコレットちゃんは、ふたり並んで、私の右後方と左後方に付いている。
そして案内の人が右側方に避けて前方を空けてくれたので、私達はそのまま少し進んだ位置で停止。そこで私だけがカーテシーで御挨拶。
「御招待をいただき参上いたしました、『雷の姫巫女』こと、ミツハ・ヤマノでございます」
所属国名も、爵位も、そして貴族であることを示す『フォン』も名乗らず、ただ名前と家名と『雷の姫巫女』という肩書きのみを名乗る。
そしてその家名も、叙爵時に与えられたものではなく、ゼグレイウス王国で生まれた者の家名でもない。
……つまり、ここにいる私は『ゼグレイウス王国の子爵』ではなく、『女神の愛し子』としての立場で話しているということだ。
そして、私のことを調べているなら、私が別の大陸にある大国、それもここより文明が進んだ国の王姉殿下だという噂を掴んでいるかも。
……掴んでいないかもしれないけどね、今までの私に対するふざけた態度から考えると……。
まあ、とにかく、格下国の女子爵として馬鹿にするつもりだった女が、大国の王姉殿下、かつ女神の寵愛を受けし愛し子としてやって来たわけだ。
そして、既に 舐めた真似(・・・・・) をしてくれた後。
どう対処するつもりかな?
「うむ、よく来てくれた、ヤマノ子爵。歓迎するぞ」
あ~、さっきの私の自己紹介を丸々無視して、あくまでも私を『格下国の 下級貴族(おんなししゃく) 』として扱うつもりか……。
まあ、そうしないと、上から目線で偉そうに命令……は、さすがにできないか、他国の貴族には。
とにかく、ほぼ命令みたいなゴリ押しをするためには、上下関係をはっきりと示しておきたいわけだね。
でも、そうは行くか!
「……その割には、一昨日は何時間も放置されましたけど……」
「「「「「「なっ……」」」」」」
列席者達の間から驚きの声が漏れたけれど、国王は動じた様子もない。
40代と思われる、それなりの渋みは出てきているけれど、まだ若さの片鱗が残っている国王。
これくらいのジャブじゃあ、動揺しないか。
「で、お招きいただきました御用件は?」
社交辞令や前置きなんか、どうでもいい。さっさと本題を始めてほしい。
別に 初(しょ) っ 端(ぱな) から喧嘩を売りたいわけじゃないけれど、不愉快であるということはハッキリと示しておこう、うん。
「……実は、孫が病気でな……。女神の御寵愛を受けし愛し子、雷の姫巫女であれば、何か手立てがあるかと思い……」
列席者や衛士達が、悲しそうな顔をしたり、俯いたりしている。
…… 胡散臭(うさんくせ) ええぇ〜〜!!
さっきまで平然としていたくせに、王様、急にしおらしい顔をしやがって……。
「どう思う?」
私が後方を振り返ってそう問うと、サビーネちゃんが答えてくれた。
大きな声で、謁見の間にいる者達全員に聞こえるように、ハッキリと……。
うん、私の声が大きかったからね。それに合わせてくれたわけだ。
「典型的な、詐欺の手口だね。これで、いきなり扉が押し開けられて誰かが飛び込んで来て、『大変です、殿下の御容体が!!』とか叫んでくれたら、完璧なんだけど……」
ばたん!
その時、扉が押し開けられて、ひとりの兵士が飛び込んで来た。
……いや、ここ、謁見の間で、他国の貴族の謁見中……。
国王に緊急の報告があるなら、もっと偉い人が、こっそりとメモを渡すか、耳打ちするもんだろうが!
こんな、他国の貴族との行事の最中に乱入しても許されるのは、サビーネちゃんだけだよ!
それも、本当に緊急の報告が必要だった場合は、だ。
そして……。
「陛下、大変です! ミーシュナ殿下の御容体が!!」
「「「「「「…………」」」」」」
列席者全員が、気まずそうな顔で俯いている。
王様も。
……そして、大事故を誘発させたサビーネちゃんも……。
さすがに、これは大事故にも程がある。
「……ごめん……」
いや、ここでサビーネちゃんに謝られても……。
「「「「「「…………」」」」」」
……どうすんだよ、この状況……。