作品タイトル不明
420 招 待 9
「「「「「「…………」」」」」」
うああ、誰も、何も喋らないよぉ……。
いかん。居たたまれないぞ……。
よし、ここは、アレしかないか。
「……では、お 後(あと) がよろしいようで……」
そう言って、サビーネちゃんとコレットちゃんに手で合図して、そっと後ずさり、その場を後にしようとしたのだけど……。
「……待て! 待て待て待て待て待てええぇっ!!」
国王に、引き止められた。
まぁ、そう簡単には逃げさせてくれないか……。
「いや、病気の子供がいるのは、本当だ!
見るだけでも良いから、頼む!」
ん~?
『病気の子供がいるのは、本当だ』?
ここ、普通なら『孫が病気なのは本当だ』とか言うんじゃないの?
それを、『病気の子供』ねぇ……。
でも、まぁ、ウイスキーのCMみたいに、『よかった。病気の子供は、いないんだ……』ってわけじゃなかったか。
「私、御使い様とか呼ばれていますけど、別に癒しの力を持った聖女様ってわけじゃありませんよ。
だから、怪我人や病人を、何でも簡単にホイホイ治せるってわけじゃありません。
私に関する噂に、そういうのってありました?
大抵は、破壊と人死にの話ばかりだと思うんですけど……」
いや、新大陸では、ラルシア貿易の件で、怪我をしたラルシアと従業員をマッコイさんに診察してもらったし、こっちでも、アレクシス様やコレットちゃん、それと事故で怪我をした火薬開発の技術者のみんなを地球の病院で治療させたけど、あれはこの世界の人達の前で治したわけじゃないし、女神の力で一瞬のうちに治したというわけでもない。
そもそも、それらは『たまたま、運良く致命傷じゃなかった』というだけであり、別に私とは何の関係もない、ってことにしてある。
そして、そう公式に告知してあるのだ。
普通、そういうのは大袈裟に盛って宣伝するものらしく、まさか過少申告だなどと思う者はいないだろう、って、王様も宰相様も言っていた。
じゃあ、なぜ過少申告したかというと……。
うん、大怪我をしても、重病になっても治してもらえるなんて話が広まれば、どうなるか分かってるからねぇ。
平民も、そして貴族や王族も、自分や妻子、その他大切な人が死にそうになった時に、それを救える者がいると知れば、どうなるか。
誘拐、脅迫どころか、戦争すら躊躇わない者もいるかもしれないよねぇ。
……って、この国王もその手の者って可能性もあるか……。
「「「「「「…………」」」」」」
ああ、また、静寂が広がってるよ……。
いや、病人を助けてもらうのに、死に神呼んでどうするねん!
ここは、死と破壊の担当者じゃなく、癒しの方を担当している者を招喚しろよ……。
「……で、そのミーシュナ王子は……」
「あ、いや、男ではない、少女だ」
……。
やはり、話し方が不自然だなぁ……。
普通、そこでは『ミーシュナは』と、名前を付けないか?
ミーシュナは王子ではない、王女だ、とか……。
何か、違和感があるんだよねぇ……。
こりゃ、病人は本当にいるのだけど、孫だっていうのは嘘かな?
「まぁ、姉様を引っ掛けようとするなら、病人は女の子だよね~」
「常識だよね!」
うん、サビーネちゃんとコレットちゃんから、 至極(しごく) 尤(もっと) もな意見が……、って、うるさいわっ!
「……で、その子の病気って、どんな病気なんですか?」
まあ、その子のところへ行くかどうかはともかく、一応、参考のためにそれくらいは聞いておくか。
会いに行って、本人の前で『この病気は治せません』って言うのも可哀想だしね。
いや、私にも、何とかなる病気と、どうしようもない病気とがあるんだよ。
寄生虫や毒素、病原菌とかなら、転移で異物だけ取り除ける。
地球の医学で簡単に治せる怪我や病気なら、少し時間は掛かるけど、何とかならなくもない。
……でも、内臓が駄目になっているとかいうのは、どうしようもないよ。
私は、癒しの能力を持つ聖女様でも、治癒魔法が使える魔術師でもないんだから……。
「病名は分からん。どこかにぶつけたわけでもないのに青あざができたり、歯ぐきが腫れて紫色になって出血したり、ふらついて倒れたり……。
そして、身体の節々が痛んだり、だるくなったりするらしいのだ」
え? それって……。
船乗りに多いやつなのでは?
でも、子供だし、この大陸には長期航海ができるような船はないはずだけど……。
あ、でも、現代日本でも、すごく偏った食生活を継続したり、ビタミンCを大量に消費する高ストレス下の環境が続いたりすると、発症するとか聞いたなぁ。
食事量が少なく、食事内容はパンや豚肉、魚とかが中心で、野菜や果物はほぼ含まれていないとか、鉄鍋ではなく、ビタミンCが破壊されやすい銅の鍋を使ったり、煮込みすぎたり、とか……。
その他、ビタミンCが少ない、カップ麺やら乾物やらばかり食べていたら……。
「それって、 脚気(かっけ) ……じゃないね。壊血病じゃないかな、姉様……」
うん、サビーネちゃんは、地球の帆船関係の本や小説を色々と読んでいるんだよね。
自国にとって、これから先、重要なことだからって……。
だから当然、帆船乗りの2大死病である、脚気と壊血病についても、ある程度知っている。
勿論、同じように勉強している、コレットちゃんも……。
脚気と壊血病は、船乗りに多く発生するという共通点があるし、ちょっと似たような病気だけど、全くの別物だ。
ビタミンの不足、ということでは同じだけど、症状も違うし、脚気はビタミンB1、壊血病はビタミンCの不足だからね。
「その女の子に惨状を招いた病気は……、」
私が、そう言いかけた時……。
「コレっと惨状、コレっと壊血!」
ぶはっ!!
サビーネちゃんと一緒に、噴き出した。
……やられた……。
腕を上げたな、コレットちゃん……。
コレットちゃんのネタ台詞は、日本語でそのまま発音したため、 地元の人々(じもピー) にはワケが分からず、国王達はきょとんとしている。
でも、まぁ、病気というものは、素人がその程度の症状を聞いただけで、軽々しく判断していいようなものじゃないよね。
似たような症状の病気は、たくさんあるから……。
それに、私に対して無礼で強引なことをすれば言いなりになる、なんて成功体験をさせるわけには行かないし、そんな成功例を世間に知らしめるわけにも行かない。
もしそんなことになれば、次々と同じようなことを企む連中が現れるだろうし、その中には、私には本当にどうしようもない怪我や病気の者もいるだろう。
そして、助からなかった者の家族は、『他の者は助かったのに、どうしてうちの子だけ!』って、怒るんだよなぁ……。
『姫巫女様に診ていただいて、駄目だったのだから』、『それがこの子の寿命、運命だったのでしょう』、とか言って、やれるだけやってもらったことを感謝するんじゃなくて、恨まれ、憎まれるんだよ……。
お医者さんとかも、そうだよね。
昔は、『あの先生に診ていただいて、駄目だったのだから……』と言って、諦め、感謝していたのに、今じゃ『医療ミスだ!』、『賠償金を払え!』だもんねぇ。
これじゃあ、リスクが大きすぎて、やってらんないよね。
だから私も、素人なのに医者の真似事をしたりはしない。
そういうのは、 本職(プロ) の仕事だ。
……まあ、この世界の 本職(プロ) は、神官や祈祷師なのかもしれないけれど……。
「あ~、壊血病かな? はい、解散解散!」
勿論、これは日本語で言った。
さすがに、いくら不愉快であっても、こんなことを言うとマズいからねぇ。