作品タイトル不明
391 コレット村
「あ、コレットちゃん、次に御両親のところに帰るのは、いつだっけ?」
「次は、7日後だよ。週末と年休? 有休? を合わせて、4日間の連休にしてるから」
うむうむ、『休みを取るのは罪悪』とか考えていたコレットちゃんも、ようやく年次有給休暇というものを理解し、使ってくれるようになったか……。
勿論、往復は私が転移で送り迎えするから、往復に必要な日数は関係ないし、道中の危険もない。
まあ、歩いても半日の距離だけどね。
「コレット村も、コレットちゃんがお土産に持ち帰る鉄製の農具だとか、腐葉土を畑にすき込むことを教えてあげたりして、作物の収穫量が少し増えたらしいよね。
命を懸けて姫巫女様をお護りした忠義の少女が生まれ育った村、とかで評判になって、村の農産物にプレミアが付いたりしてるとか……。
今じゃ、コレットちゃんは村の英雄なんだってね?」
「えへへ……。
でも、当たり前のことをしただけだから、ちょっと恥ずかしいよ。
私じゃなくたって、あの時ミツハと一緒にいたなら、誰だって同じことを……、って、うちの村はそんな名前じゃないよ!」
ふふふ、コレットちゃんがそんなことを言ったけれど……。
「え? あの暗殺未遂事件のすぐ後、正式に決まったよ? 村の名前、『コレット村』に変更するって……。
村から要望が上がって、ボーゼス侯爵様が了承したらしいよ。
その時点で、既に国民の大半があの村のことを『コレット村』って呼んでいたそうだから、ただ現状を追認しただけ、みたいな感じらしいけど……」
「な、ななな、何よそれええぇ〜〜っっっ!!」
うむうむ、私の野望のひとつが 叶(かな) ったのである!
アレだ、アレ! 『また一歩、野望に近付いた……』ってやつ!
「いやいや、今やコレットちゃんは有名人物だし、色々と大きな功績を上げているからねぇ。
まず、この国に来た時に行き倒れていた私を助けてくれたし、狼に襲われた時も、気を失って倒れた私を助けてくれた。
命懸けで暗殺者から私を護ってくれたし……。
うちの領内における貢献や、公表することのできない新大陸での貢献を省いても、充分に村に名を残すだけの活躍をしてるよ。
もしコレットちゃんに助けられていなきゃ、以後の私がやったことは全部『なかったこと』になるんだよ?
つまり、私の功績は全部コレットちゃんのおかげであり、コレットちゃんがやったも同じことなんだよ。
だから、村の人達みんなが望んだことなんだ。
村の名をコレットちゃんに 肖(あやか) って改名し、……その知名度に便乗して、金儲けに繋げようと!!」
「うわぁ……」
村の名が変えられた理由が、自分に対するリスペクトではなく、ただの打算であると知って呆れる、コレットちゃん。
うん、世の中、そういうもんだ。
「……ミツハ、お願い。私の前では、あの村のことはただ『村』とだけ言って、村の名前は言わないで……」
「……分かった」
うん、私も、自分が住んでいた町が『ミツハ町』とかいう名前になったら、恥ずかしいよね。
もう、二度と帰省なんかできなくなるよ、うん。
俳優の森繁久彌さんが住んでいた通りの名が『森繁通り』と命名されたらしいけれど、御本人は、嬉しかったのか、恥ずかしかったのか……。
まぁ、御本人の生前は通称でそう呼ばれていただけで、正式名称になったのはお亡くなりになった後らしいけどね。
あ、米海軍では、昔は艦艇に人物の名を付ける時には存命の人の名は避けていたらしいけれど、最近は存命の人の名もどんどん付けているよねぇ。
あれも、嬉しいのか、恥ずかしいのか……。
乗員が不祥事を起こしたり、事故で死者が出たりすると悲しいよね、……って、そんなことはどうでもいいよ!
とにかく、あの村の名は『コレット村』になり、トビアスさんの家のことは、『トビアスのところ』と呼ぶ人はもう誰もおらず、皆、『コレット家』と呼ぶらしい。
……トビアスさん、かなりヘコんでいるそうだ。
コレットちゃんの帰省の時に、私からも何か、トビアスさんにお土産を持たせよう……。
* *
「……また女の子なのか?」
「また女の子なんだよ……」
そう。今日は、ベアトリスちゃんに射撃訓練をしてもらうべく、ウルフファングの 本拠地(ホームベース) に来たわけだ。
ベアトリスちゃんがひとりの時に魔物とか悪党とかに襲われた場合に備えて、小型の拳銃を隠し持ってもらうためにね。
勿論、サビーネちゃんとコレットちゃんも一緒。
サビーネちゃんとコレットちゃんも、お出掛けの時には拳銃を装備しているよ。
9ミリ弾を使用するサブ・コンパクト・ピストル、ワルサーPPSを……。
ワルサーで、 悪(わる) さーをする……、って、うるさいわっ!
ベアトリスちゃんは、侯爵家御令嬢であり、大聖女様(非公式)であり、王女殿下と雷の姫巫女のお友達だ。他国や自国のけしからん貴族に狙われたり、犯罪者に身代金目当ての人質として誘拐されたりする可能性がある。
たとえそれが0.1パーセント以下の確率であっても、ゼロでない限りはその対策を講じるのは当たり前だ。
私は、自分と仲間の安全のためなら、お金も時間も惜しまないよ。
「……で、また貴族か王族か?」
「うん、侯爵家の御令嬢」
「…………」
隊長さん、黙り込んじゃったよ。
これは、明らかに呆れてるよね……。
「……まあ、 向こう(・・・) は治安状況が悪いし、魔物も出るんだ。備えは必要か……」
「そうそう! 必要、必要!!」
というわけで、ベアトリスちゃんに銃の使い方を教えてもらうのだだだ!
* *
射撃場では、隊長さんがベアトリスちゃんの手を掴んで銃の持ち方とかを教え、私がその言葉を通訳している。
ここは間違いが許されないところだから、サビーネちゃんではなく、正確に翻訳できる私でなきゃ駄目だ。
「こら、腰に触らない!」
そして、ベアトリスちゃんではなく、隊長さんにそう言って怒鳴る私。
「いや、射撃姿勢を修正……」
「うるさい! 15歳の貴族のお嬢様の腰に手を回すとか、打ち首モノだよ!」
「…………」
隊長さんは不服そうな顔をしているけれど、まだお子様であるサビーネちゃんやコレットちゃんとは違って、ベアトリスちゃんは成人女性なんだからね!
ベアトリスちゃんは目が大きくて童顔だけど、身長は概ね向こうの世界での標準くらいだし、胸が大きい。隊長さんから見ても、15~16歳くらいに見えるだろう。
地球では、欧米でも、昔は栄養事情のため人々は今よりずっと小柄だったらしいけれど、向こうの世界ではいくら狩っても減らない魔物の肉のおかげで、あの文明レベルでも現代地球の欧米系人種と同じくらいの体格なんだよねぇ……。
まあ、いくら魔物の肉があっても、ミルクやチーズ、バター、鶏卵とかを得るために牛や鶏は飼われているけどね。
牛肉は魔物肉に較べてすごく高いけれど、貴族や金持ちの中には魔物肉を食べない人もいるから、そこそこ儲かるらしい。
「とにかく、ベアトリスちゃんにはあまり触らないように!」
ベアトリスちゃんには、私が隊長さんに何を言っているかは分かっていない。
そんなことは通訳していないからね。
サビーネちゃんとコレットちゃんには伝わっているけど……。
ベアトリスちゃんの両脇には、隊員さんがひとりずつ付いている。
もしベアトリスちゃんが危険行為……銃を人に向けたり、銃口を覗き込んだり……をしようとしたら、すぐに取り押さえるための要員だ。
そして何となく、そのふたりが ベアトリスちゃんの(・・・・・・・・・) 危険行為を期待して(・・・・・・・・・) いるのではないか(・・・・・・・・) と思えるのは、気のせいだろうか……。
ここ、女性の隊員さんがいないからねぇ……。
あの、ヘリを出してくれた傭兵団は女性メンバーがいたのに……。