軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

389 被っちゃうよ!

「ミツハ、お願いがあるんだけど……」

「え……」

雑貨屋ミツハに、ひとりでやってきた……いや、勿論、馬車で来たから御者だとか護衛の兵士だとか、そしてお世話役のメイドさんとかは付いているけど……ベアトリスちゃんの言葉に、私の脳内で非常ベルが鳴り響いた。

……いや、サビーネちゃんとベアトリスちゃんがこういう言い方をする時には、ろくでもないことと相場が決まっているのだ。

そう。私が損をする話とか、私が迷惑を受ける話とか、私が大被害を受ける話とかである。

なので、警戒心バリバリMAXで、何も言わずにベアトリスちゃんの言葉の続きを待った。

「あのね、この前連れて行ってもらった、『にほん』なんだけど……」

むむむ……。

「あそこで売っている商品、大量に仕入れてうちの『ベアトリス商会』で売りたいんだけど……」

えええええええっ!!

「それ、 雑貨屋ミツハ(うち) の商売と丸かぶりするやんけ〜〜っっ!!」

そう。

王都の雑貨屋ミツハと、領地にある領主直営店。

王都でもボーゼス領でも、うちと同じような日本製品を侯爵家に、それも『女神の御寵愛を受けし愛し子』、『大聖女様』のお店で大々的に売られたら、こっちに勝ち目がないよ!

何が悲しゅーて、わざわざ自分の首を絞めるようなことをせなアカンねん!

「……却下!」

当然の判定を下した。

「ええっ?」

いや、どうしてそこで不思議そうな顔をするんだよ。

当たり前のことでしょうが……。

「うちの売り上げに響くから、駄目!」

「あ……」

え? そこに気付いてなかったんかい!

ベアトリス商会(自分のところ) のことしか考えてなかったんかいっ!!

「あ〜、え〜と、そのぉ〜……」

アカンやん! 駄目駄目やん!!

それじゃあ、一人前の商人とは言えないよ!

商売は、自分だけが良ければそれでいい、ってもんじゃない。

仕入れ先、お客さん、同業者、みんなが幸せにならないと……。

「……ベアトリスちゃん、ここのお金を向こうのお金に換金するには、換金レートや手数料でここでの価値の4分の1くらいに目減りする、って説明したよね、体験旅行の時に……」

「あ、うん……」

「こっちで売るには、ここの人達には『にほん』で買う人達の4倍以上に感じる価格になるわけだけど、それでも、売れるだけの商品力があると思ったわけだよね、ベアトリスちゃんは……」

「うん……」

そう考えるのは、当たり前だ。

……だって、私がそれで儲けているんだもの、雑貨屋ミツハと領地の領主直営店で。

それを、大聖女様が、姫巫女様から仕入れて売る。

そりゃ、売れるわ……。

……でも、私の稼ぎのためには、その悪魔の計画を叩き潰さねばならないのだだだ!

現在ベアトリス商会に提供している地球の商品は、最初にベアトリス商会の名前を売るためのブースターとして少しだけ供給している、種類を厳選したごく一部のものだけだ。

その他のもの、つまり主力商品は、ボーゼス領の生産物と、我がヤマノ子爵領の一般的な生産物だけを扱ってもらっているのだ。

いや、そりゃ、『うちの店がベアトリス商会に売る』ということで、うちはちゃんと儲けられる、と言えなくはないよ?

しかし、それだと中間業者がひとつ余計に挟まって、その分、卸元の売り値が下がるか、最終的な購入者の購入価格が上がるだけだ。

面倒が増えて、利益が吸い取られる。

……そんなの、誰が喜んで受け入れるかっ!

更に、現在『ヤマノ商品』のブランドになっているものが、『ベアトリスブランド』になっちゃうよ……。

それはマズい。

そもそも、最初はベアトリス商会は『未成年である伯爵家の娘が始めた、お遊び』でしかなかったから、他の商人に相手にしてもらえるようにと、地球の商品を少し回したのだ。

でも、今のベアトリス商会は、侯爵家御令嬢にして女神の愛し子、大聖女様が経営されている商会なのだ。もう、地球の商品なんてなくても問題ないんだよねぇ……。

まぁ、ボーゼス領発、ベアトリスちゃんが書類仕事を担当している商隊にうちの荷……ペッツさんの店に送る、ヤマノ領産の普通の商品……を運んでもらっているから、少しは美味しい商品も融通しなきゃなんないけど……。

でも、それには限度というものがある。

私が自制して種類や数量を少しだけに抑えているのに、ベアトリス商会に大規模販売されちゃ、堪らないよ。

「あのね、ベアトリスちゃん。もし『にほん』から、この国のものよりずっといい製品がどんどん輸入されたら、どうなると思う?」

「みんな、どんどん買う! そして、ベアトリス商会が大儲け!」

うん、まぁ、そうだよねぇ……。それ、私がやってることだし……。

「で、そうなると、この国で同じような商品を作っていた人達は、どうなるかな?」

「あ……。

で、でも、その仕事に競争力がないなら、別の仕事をすればいいんじゃないの?」

うんうん、そう考えるよねぇ。

でも……。

「そうして、この国ではその品物を作る人がいなくなって、製造設備も技術も全部なくなった後で、私がいなくなったら? 他国から輸入できなくなったら?

それが、お酒だとかお菓子だとかの、 なくても困らないもの(・・・・・・・・・・) だったらいいよ? でも、もしそれが生活になくてはならないものだったら? 他国の侵略からこの国を守るために絶対に必要なものだったら?」

「…………」

「それに、いきなり高度に技術が進んだものを輸入して、それを真似てこの国でも同じようなものを作ろうとしても、基礎的な知識や技術がなければモンキーモデル……オリジナルより劣化したコピー製品……すら作れないよ。当然、それを元にした、更に進歩したものを生み出すことなんか出来やしない。

だから、いくら国外から輸入した方が安くていいものが手に入っても、国内産業を守らなきゃ駄目なんだよ。

だから私は、少量の贅沢品とかの、この国の既存の業種と競合せず、もし急に供給が途絶えても誰も困らず、国に大きな影響がないような商品を慎重に選んで取り扱っているの。ほんの少しだけね……。

だから、私以外の者があの国の品物を大量に輸入販売することは絶対に認めないよ。

さっき言った通り、ベアトリス商会は、ボーゼス領の商品と、ヤマノ領の農産物と海産物、そしてベアトリス商会が独自に開発・生産したもので商売をして頂戴。

私の特別な力をアテにするんじゃなくて、ベアトリスちゃんの、自分の力で……」

これでどうだ? 諦めてくれたかな? ちょっとキツい言い方だったけど……。

……って、俯いてブルブル震えてるよ、ベアトリスちゃん……。

泣かせたか? あわわ! 仲間に入ってもらって早々に泣かせちゃうなんて、新人いびりだよ、 苛(いじ) めだよ!

どっ、どうしよう……。

「そっ、そうよ! 他人の力に頼って儲けようだなんて、どうしてそんな馬鹿なことを考えていたのよ、私!!

自分の商会は、自分の力で大きくしなきゃ、何の意味もないわよね!

他者に 縋(すが) って儲けさせてもらった10枚の金貨と、自分の努力と才覚で稼いだ、1枚の金貨。

悪党や貴族、政治家達には前者の方が大事かもしれないけれど、商会主にとって大事なのは、自分の力で得た、1枚の金貨の方よ!

ああ、私は何て恥ずかしい真似を……。

ごめん、ミツハ! さっき言ったことは、取り消し!」

「あ……、うん……」

さすがベアトリスちゃん、商人の鑑!

立派になって……、って、え?

ベアトリスちゃん、あなた、貴族の少女だよね? 他者を働かせて利益を上げる方の人間だよね?

なのに、どうしてそんな、生粋の商人みたいなコト言ってるの?

……まあ、ベアトリス商会はまだ従業員がひとりもいない、商会主のベアトリスちゃんひとりだけの、『名ばかり商会』だけど……。

でも、別にペーパーカンパニーってわけじゃないし、一応、ベアトリス商会が計画し管理している商隊が動いてる。小売り店舗はないけれど、流通業者としては立派に機能しているんだ。

ベアトリス商会は、別に金儲けのために設立した商会じゃないんだけどね……。

ヤマノ領(うち) とボーゼス領の間での、領地間の持ち出し・持ち込み税を誤魔化すためと、ベアトリスちゃんを重要人物に仕立てて嫁入りを阻止、婿取りにするための計画だったのだ。

……まさか、ベアトリスちゃんが『女神の愛し子』、大聖女になるなんて、その時には誰も思ってもいなかったから……。

「よぉし、やるぞぉ! 我がベアトリス商会は、大陸中に、いえ、世界に羽ばたくのよ!!」

……いや、程々にお願いします……。

あ、新大陸との貿易、ベアトリス商会に丸投げしようかな。

勿論、輸送や向こうとの商談は私が担当するけれど、こちら側の輸出商品の取り纏めとか、輸入した商品の販売とか……。

地球の商品ではなく、この世界の商品なんだ。輸送方法が少し特殊なだけであって、別に異世界から持ち込むわけじゃない。

……ごく普通の海外貿易だ、うん。

ま、ゆっくり考えて、ボチボチやろう。

ベアトリスちゃんには、長い間仲間外れにしていた負い目があるし、才能がある良い子だから、自分の力を発揮して、伸び伸びと、充実した人生を送ってほしいからね。

そのためなら、色々とお手伝いしよう。

だって、『仲間』だもんね。

コレットちゃん、ベアトリスちゃん、サビーネちゃん、……そして私の、4人の仲間達。

……そう、アレだ。

皆は私の為に、私は自分の為に!

じゅ〜うすぃ〜!