作品タイトル不明
384 ベアトリス 1
やっと終わった。
サビ・コレコンビの、日本留学が……。
いや、別に嫌だったわけじゃない。
ふたりには色々とお世話になったし、王女教育や家臣教育で勉強漬けじゃなく、少しは子供らしい生活を楽しんでもらいたかったし、留学はふたりの将来に絶対に役立つと思ったから。
サビーネちゃんは、平民であるコレットちゃん以外には、年齢が近くて話が合う、おかしな野心を抱いていない気が許せるお友達、というのがいない。……本当に、全く、ひとりも!!
まぁ、天才少女サビーネちゃんには、『年齢が近くて話が合う』という時点で、ほぼ対象者がゼロなんだけどね。
そして、もし奇跡的にそういう子供が現れても、『おかしな野心を抱いていない、気が許せる』という時点で、ほぼ確実にアウトだろう。
そりゃ、王女様に近付ける上級貴族の娘なんて、全部親の意向を受けた者達ばかりだよね……。
コレットちゃんも、領地邸には『ヤマノ子爵家メイド少女隊』の仲間達がいるけれど、コレットちゃん以外のメンバーは全員がメイドであり、コレットちゃんはそうじゃない。
だから、遊びや子供としての会話はできても、それ以上の会話は成り立たない。
そういうわけで、ふたりの短期留学は、私の望みでもあったのだ。
……だから、それはいい。
それはいいんだけど……。
滅茶苦茶忙しかったんだよ!
地球では、自宅とマンスリーマンションとウルフファングの 本拠地(ホームベース) 。
異世界(むこう) では、旧大陸ではゼグレイウス王国の王都と領地。新大陸では、ヴァネル王国と周辺国、そして女性事業主国際ネットワーク加盟店への商品の納入、ソサエティーのお茶会、幼年組の方への顔出し、メンバー達からの購入希望品の手配、その他諸々。
お茶会の飲食物も、私の担当だ。
その他にも、孤児院の練習の様子を見たり、ギャラリーカフェ『Gold coin』の視察に行ったりと、色々ある。
それら全てをワンオペで回しているというのに、サビ・コレコンビが学校に行っている間は、不測の事態に備えるために、私は日本から離れられなかった。
もう、メチャクチャ行動が制限されていて、手が回らなかったんだよ!
だから、サビ・コレコンビがゼグレイウス王国に戻れば、私はいつでも好きな時に好きな場所にいられるわけだ。地球だろうが、異世界だろうが。
……ああ、この解放感! 何て素敵なんだろう……。
「姉様、お願いがあるんだけど……」
ぎくり!
久々の解放感に浸っていると、後ろから、サビーネちゃんの声が……。
改まったこの喋り方は、厄介なことを言い出す時のやつだ……。
そして、サビーネちゃんはまだ、私に対する 貸しポイント(・・・・・・) を残している。
「……な、何かな……」
警戒心バリバリMAXの私の様子に気付いていながら、それを完全にスルーしているサビーネちゃん。
そして……。
「あのね、……ベアトリスちゃんも仲間に入れて欲しいな、って思うの……」
「え」
要求するのではなく、やけに弱い言い方をしてきた、サビーネちゃん。
いつものサビーネちゃんらしくない。
……でも、その理由は、分からないでもない。
これは、『私の秘密を、ボーゼス侯爵家の娘であるベアトリスちゃんに教える』ということだ。
そしてそれは、故意にしろ過失にしろ、秘密がボーゼス家に漏れる確率が跳ね上がるということだ。
簡単に、デメリットなく他者や大量の物資を『渡り』によって自由に運べる。
この大陸を遥かに 凌駕(りょうが) する文明の利器を、無制限に持ち込める。
……その中には、勿論武器や 謎の便利道具(魔導具) とかも含まれる。
いや、ボーゼス侯爵様には、あまり負担なく転移できるということは教えてある。
……でも、それは自分自身が比較的近距離……国内の移動程度……を転移する時の話であって、大きな荷を運ぶとか、母国がある大陸に行くには生命力が、ということにしてある。
そして、他の者を運ぶにはどれくらいの負担があるかということは言っていない。 王都絶対防衛戦の時にウルフファングのみんなを運んだのは母国の神官達によるものだと言ってあるし、その時に数名の神官が負担で死んだ、って説明したしねぇ……。 勿論、私が新大陸に行っていることや、メイド達を使った『船魂作戦』のこととかは喋っていない。
まあ、それらの説明を侯爵様がどれくらい信じてくれているかは分からないんだけど……。
でも、あくまでも 表向き(・・・) は、私の 転移(渡り) は制約とデメリット(私の生命力的な)が大きいということになっている。
それが、ベアトリスちゃん経由で決定的な情報が流れたら……。
ベアトリスちゃんは私を裏切ることはないかもしれないけれど、まだまだベアトリスちゃんは子供だ。
……いや、先日デビュタント・ボールを終えて大人になったけれど、15歳というのは、私にとっては子供の 範疇(はんちゅう) だ。
だから、家族の団らんの最中についうっかりと口を滑らせる、という可能性は否定できない。
そしてそれを知った時の、ボーゼス侯爵様とイリス様の反応は予測できない。
あのおふたりは、私の味方をしてくれる。
……それが、自分達の不利益にならない場合は。
ボーゼス夫妻はいい人だけど、それは利害関係がないか、自分達にもメリットがある場合は、だ。
もし、領地や領民に大きな利益をもたらすとしたら?
もし、国王陛下からの命令であれば?
頼る者のいない小娘を守ってやろうとした、人の好い貴族の夫妻ではなく、領地と領民に対して責任がある遣り手の貴族として。そして、この国の上級貴族として。
……別に、私を売ろうとかいうわけじゃない。
ほんのちょっぴり、 有効活用(・・・・) するだけであって、私には大したデメリットはなく、それどころか、私にも国から多額の報酬が出るだろう。
ならば、私のことを王様に教えても、罪悪感もさほどないだろう。
そう、大きな問題じゃない。
……私が、そういうのは絶対にお断りだということを除いて、ね。
まぁ、もしそうなれば、この国を引き払って、新大陸のヴァネル王国に拠点を移せばいいか。
領地は国に返納して、できればボーゼス領に組み込んでもらえるよう頼んでみよう。
そうすれば、ボーゼス侯爵領とアレクシス様の領地が繋がるし、ボーゼス侯爵様にならヤマノ領を任せても大丈夫だろう。
領地邸の使用人達もそのまま雇ってもらえるように頼もう。
……勿論、コレットちゃんは連れて行く。
年に2回くらい、転移で村に里帰りさせてあげればいいだろう。
田舎村から町に働きに出た者は、年に1回帰省できれば良い方、という話だから、それで問題ない……、って、うおっ!
「……声に出てた?」
サビーネちゃんは、返事をすることなく、涙目でぽかぽかと私の胸を叩き続けている。
* *
「さっきの件は、なし!」
ようやく少し落ち着いたサビーネちゃんが、そう言ったけれど……。
「いや、それについては、私も前から考えてはいたんだ……。
ベアトリスちゃんは、コレットちゃんに次ぐ、この国での私のふたりめのお友達だからね。
それに、サビーネちゃんの昔からのお友達でもあるんでしょう?
なのに、ベアトリスちゃんのお友達であるサビーネちゃんを私が取って、同じくベアトリスちゃんのお友達である私をサビーネちゃんが取って、ふたりでベアトリスちゃんに隠し事をして、仲間外れにしている。
……これって、少し酷くない?
サビーネちゃんもそう思ったから、ベアトリスちゃんも仲間に、って言い出したんでしょ?」
「……うん……」
まあ、そうだよねぇ。
自分のせいで、ベアトリスちゃんが辛い思いをする。そういうのを許容できるような子じゃないからねぇ、サビーネちゃんは……。
そんなことをするくらいなら、自分が辛い立場になる方を選ぶ。
それが、誇り高き王女様、サビーネちゃんだ。
だから……。
「よし、ベアトリスちゃんを仲間に入れよう!」
「えええええええ〜〜っっ!!」