軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

385 ベアトリス 2

「だっ、だって、もしミツハの秘密が漏れたら……」

自分が言い出したくせに、動揺しまくっているサビーネちゃん。

私が拠点を新大陸に移して、自分が置いて行かれるのがそんなに嫌なのかな。

……いや、嫌なんだろうな……。

私だって、そんなことはしたくないよ。

それに、サビーネちゃん以外にも、ヤマノ領のみんな、王都のみんな、その他大勢の仲良くなった人達がいる。

だから、拠点を移すのは、転移の秘密がバレたらすぐに、というわけじゃない。

その後、もし貴族や王族からの要求が殺到したり、それが強制や脅し、ゴリ押しとかになった場合だ。

もし秘密がバレても、おかしな要求をされなければ問題ない。

そのあたりは、みんなの欲望と、私、『雷の姫巫女』に対する敬意や恐怖、その他諸々との兼ね合いで、どうなるか分からない。

みんなが大きな欲望を我慢して、私から得られるささやかなメリットだけで満足してくれるならいいんだけどな……。

そのあたりを王様が上手くコントロールしてくれるのか、それとも、率先して要求してくるのか……。

まあ、ベアトリスちゃんが秘密を漏らさなければ、何の問題もないんだ。

その辺りは、サビーネちゃんがきちんと説明してくれるだろう。

……多分、超真剣に、脅しを交えて……。

バレなければ、どうということはない!

うん、そういうことだ。

* *

「えええええええ〜〜っっ!!」

今、ボーゼス家の人達は全員、王都邸に滞在している。例の、『社交シーズン』ってやつだ。

なので、ベアトリスちゃんを 雑貨屋ミツハ(うち) での夕食会に招待した。

イリス様も来たがっていたけれど、『子供達だけでのお泊まり会ですので』と言って、断った。

かなり粘られたけど、さすがに子供達だけでの親睦会の邪魔をするのはどうかと思ったのか、何とか諦めてもらえた。

もしその理由がなければ、絶対に 退(ひ) いてもらえなかったよねぇ、アレは……。

勿論、参加者は私とベアトリスちゃんの他に、サビーネちゃんとコレットちゃん。

そして私が作った地球の料理で夕食を終え、お茶とジュース、お菓子を並べてから、ベアトリスちゃんに説明したわけだ。今日の本題である、私の転移能力のことを……。

いくら距離が離れていても、他の者が一緒でも、荷物が多くても、生命力にはほんの僅かしか影響なく、それも何の後遺症もなくすぐに回復すること。

侵略艦隊の母国がある大陸に、裏工作のために潜入していること。

自分の母国とは別の、文明が進んだ国に緊急時の亡命用の拠点を持っており、そこには美味しい食べ物がたくさんあり、デビュタント・ボールの時の異国料理はそこから持ってきたものであること。

その他、諸々……。

「何よ、それええぇ〜〜っっ!!

い、今まで、私だけがそれらから仲間外れだったってワケ?

ふっ、ふっ、ふっ、ふざけないでよおおおおぉ〜〜っっっ!!」

ベアトリスちゃん、髪を振り乱しての、激おこ状態。

……まぁ、無理もないよねぇ……。

サビーネちゃんだけでなく、ベアトリスちゃんがうちの領地邸で結構気を使ってくれていた、平民であるコレットちゃんも こっち側(・・・・) だったのだからねぇ……。

裏切られた感、騙された感が半端ないのだろう。

いや、ゴメン……。

サビーネちゃんも、申し訳なさそうな顔をしてるよ。

コレットちゃんは、まぁ、……普通の態度だ。別に、自分のせいじゃないもんね。

「いや、ベアトリスちゃんに教えると、ボーゼス侯爵様やイリス様に伝わる可能性があったから、仕方なく……」

「そんなの、サビーネ殿下も同じじゃない! サビーネ殿下から王様達に伝わる心配はしなかったくせに、私からはお父様達に伝わるかもしれないと思ったってこと? え?」

「あ……」

しまった! 言われてみれば、確かにそれは、サビーネちゃんは信用できるけれどベアトリスちゃんは信用できない、って言ったも同然だ!

「ミツハ……」

うわわ、ヤバい!

やばたにえん……。

* *

「ふうん、そういうワケなのね……」

サビーネちゃんには私から教えたのではなく、気付かれて問い詰められ、誤魔化しようがなかったのだと説明することによって、何とか怒りを鎮めてくれた、ベアトリスちゃん。

更に、条約締結根回しの旅において、サビーネちゃんの危険回避のためには『渡り』を使わざるを得ず、他国にある拠点に一時的に退避する必要があったことも説明して、秘密を明かさざるを得なかったことを納得してもらえた。

セエェ〜フ! セエェ〜〜フウゥ!!

あ、調査船団の元捕虜とかについては、問題ない。あっちから情報が漏れることはないだろう。

彼らが直接ボーゼス侯爵様や他の貴族、王族達と話せる機会なんかないし、彼らは『「渡り」で遠くへ行った』ということは知っていても、それが私にとってどれくらいの負担なのかは知らないからね。

ただ、『多くの命を救うために、私が生命力を削った』と言えば済むことだ。

それに、自分の領主を裏切って他者にペラペラと秘密を喋る者なんか、信用されるはずがない。

知っていることを全て喋らせたあとは、始末されるに決まってる。

自分がその秘密を知ったということを隠すためにね。

馬鹿でなければ、それくらいのことは分かるだろう。

というか、そもそも、信心深い船乗りが、女神様を裏切るはずがないか。

それも、 強突(ごうつ) く 張(ば) りの神官の 胡散臭(うさんくさ) い言葉ではなく、実際にその目で奇跡の数々を見たのだから。

うちの領地邸の使用人達についても、概ね似たようなものだ。

こういう文化レベルの国で、女神様や御使い様を敵に回そうとする者は、あんまりいないよね。

……しかも、今現在自分達の味方で、色々と享受できているというのに……。

だから、ま、そっちは大丈夫だろう。

「あ、ベアトリスちゃん、仲間になったのだから、他の者がいない時には、『殿下』呼びは禁止!

今後、私のことは『サビーネちゃん』って呼んでね。さすがに呼び捨てはマズいと思うから……」

サビーネちゃんが、ベアトリスちゃんにそんなことを言い出した。

……まぁ、気持ちは分かる。

このメンバーで、いちいち『サビーネ殿下』とか『王女殿下』とか呼ばれるのは、面白くないだろう。サビーネちゃんの性格からすると……。

「……あ、いや、他の者がいる時も禁止にしよう! 常時、『サビーネちゃん』で!

そうすれば、周りに私とベアトリスちゃんの仲が特別なものだと思わせられるから、コレットを含めた私達3人プラスミツハ姉様がタメ口で話していても文句を付けにくいだろうし、話に割り込んで自分だけ違う言葉遣いで話すのも躊躇われて、かといって私が許可していないのにタメ口で喋れるわけもなし……。

平民のコレットを追い出して自分がその 位置(ポジション) に、とか考えそうな馬鹿への、いい牽制になるかもね」

「「うわぁ……」」

ベアトリスちゃんは、以前、半年だけだけどサビーネちゃんの 先輩指導員(チューター) を務めていたことがある。

他の貴族令嬢が数日しか保たなかったという、その任務に……。

そして半年というのも、そこまでしか保たなかったというわけじゃない。

サビーネちゃんが天才過ぎて普通の貴族令嬢ではお相手が務まらないこと、サビーネちゃんには大人の 女性家庭教師(ガヴァネス) を付けるべきであることを陛下に上申し、発展的解消となったらしいのだ。

だから、ベアトリスちゃんはサビーネちゃんにとって特別な『お友達』なんだよねぇ……。

大勢の貴族令嬢の中で、サビーネちゃんと話が続く唯一の少女だったのだから。

まあ、年齢が3歳上だったし、今は知恵を付けたサビーネちゃんが『相手のレベルに合わせてあげる』ということを覚えたから、他の令嬢とも話が続けられるようになっているんだけどね。

…… 上辺(うわべ) だけは。

ま、当時のことは別にわざわざ宣伝したわけじゃないから、そのことを知っている貴族は殆どいないらしいのだけどね。

だから、サビーネちゃんがベアトリスちゃんを特別扱いする理由は、皆には分からないらしい。

第三王女殿下、侯爵家御令嬢にして女神の御寵愛を受けし大聖女、異国の王姉殿下にして女神の御使いである救国の大英雄の姫巫女、そしてその家臣候補であり自らの身体を盾として姫巫女を護った忠義の少女。

……うむ、圧倒的ではないか、我が軍は!!

そんな4人の中に強引に割り込めるだけの胆力がある御令嬢は、果たして何人くらいいるだろうか……。

強引に、我が道を往く……。

強引(ゴウイン) グ・マイウェイ……、って、うるさいわっ!