軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370 カテ・ロレコンビの異世界冒険 4

あの後、お手洗いの個室から出ると、なぜか入る時に騒いでいた女性達がそのままの位置で私達が入っていた個室の方を注視されていました。

……何だか、眼をキラキラさせて……。

いったい、何なのでしょうか……。

その後、休憩用のベンチでしばらく休んでいると、カティの顔色が大分良くなってきました。

「もう大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ……」

うん、まだちょっとげっそりした感じだけど、あれだけ吐いたならそれくらい当たり前ですよね。

我が栄えあるヤマノ子爵家のメイドたる者、これくらいでへたばることなどありません!

「じゃあ、行きますよ。ゆっくりと自分の買い物ができる機会は、あまりないのですからね」

「うん……」

よし、次は服屋です!

* *

大漁です!

最初に私服を買うためにミツハ様に連れてきていただきました、この大きな服屋。

何でもあります。

……本っ当に、何でもあるのです!

ヤマノ領でも、現在洋裁工房が稼働しておりますが、アレは王都や他領に売って領地の財政を潤すためのものです。

それに、以前の安い綿による縫製は練習のためだったらしく、今は高価な絹で作っているとかで、多少出来が悪くても、王都で割引販売するとか……。

綿で作っていた時には、失敗作は領民に安く売ってくれていたのですが、さすがに絹製品となっては、多少ミスをした部分があっても、王都でそれなりの価格で売れるそうなのです。

……勿論、平民にはとても手が出せないお値段で……。

まあ、もしそれらが買えたとしても、この地で買う方が、ずっと種類が多くて、素敵な服で、……そして安いのですけどね。

領地の工房産のものを買わねばならない理由など、 欠片(かけら) もありません。

カティも、いくら体調が優れなくても、こんな機会を無駄にするような者ではありません。

そのようなことをする間抜けには、我がヤマノ子爵家メイド隊に所属する資格などありません。

ですから、私と同じくらい大量に買い込んでいます。

勿論、私と同じく、その大半は兄弟姉妹の分です。

私達はお屋敷ではいつも 戦闘服(メイドふく) ですから、私服を着る機会など滅多にありません。

それくらい、最初にミツハ様が『これはここで暮らすのに必要なものだから、経費で落とすからね』と言って買ってくださいました、上着3着と下着、靴下、そして3足の靴だけで充分です。

……今着ているもの以外の2着は、嫁入り道具として持って行くため、袖を通さずに保管しておきますよ、ええ。勿体なくて、普段着などに使えるはずがありません!

体型が変わって着られなくなっては大変ですから、太らないように注意しなければ……。

……しかし、下着!

あの、下着!

正気ですか、この国の奴ら!!

破廉恥です、淫靡です、淫猥です!

防御力皆無、紙装甲ですよっ!

あんなのうちの男共が見たら、死屍累々、出血多量で死んじゃいますよ、鼻血で!!

しかも、ミツハ様が言われるには、『誘惑用の勝負下着とかを売っている専門店のものは、こんな生易しいものじゃないらしいよ。私は行ったことがないから、聞いただけだけどね』って……。

淫魔の巣窟ですか、伏魔殿ですかっっ!!

はぁはぁ……。

……い、いえ、ミツハ様がこういう下着をお召しになっていることは知っています。

それは、ご入浴とか洗濯とか、色々とありますから……。

しかし、ミツハ様は姫巫女、御使い様であらせられるのですから、あれは 天女(てんにょ) の衣装、 羽衣(はごろも) です、天使の衣です! 聖なるものであり、みだらな感情とは無縁のものなのです!

その証拠に、ミツハ様は男性の情欲とは全く縁のない体型をなさっておいでです。

私も一応、何かあった場合に備えて、ここにある中ではおとなしめ、うちの国だと痴女扱いされそうなやつを、2~3枚……。

……って、『何か』って、何ですか! いったい、何に備えると言うのですか、私っっ!!

はぁはぁはぁ……。

い、いえ、動きやすそうですから、仕事の効率が上がるかもしれないと思い、試してみるだけです。

……カティ、あなた、どうして10枚くらい買い物かごに入れているのですかっ!

え、『動きやすくて仕事の効率が上がるかもしれないと思い、試験用に』ですか?

そうですか、それなら仕方ありませんよね、ええ……。

* *

最後に、商店街でお惣菜を買って帰ります。

ミツハ様達は、夕食は外食で済まされて、遅めにお戻りになる予定です。

なので私達はお惣菜を買って帰り、ふたりだけで夕食を摂ります。

……ミツハ様御不在の時の領地邸の賄いは割と手抜きなので、その方がマシなのです。好きなものが食べられますし……。

それに、2回も外食を続けるのは、さすがに贅沢が過ぎます。

経費で購入しました、にほん邸に貯蔵してある食材は自由に使えますし、買って帰った総菜とかも経費で落とせます。さすがに、私達だけでの外食は経費にはなりません。まあ、当たり前のことですが……。

ミツハ様が『ぱっくもの』と呼ばれる、 もう出来たやつ(・・・・・・・) を、数個。

今回は、 ごはん(・・・) やパンは抜きで、『ぱっくもの』の総菜だけでお腹いっぱいになるまで食べようという、経費の無駄遣い、悪行に手を染めるのです、ふふふ……。

あ、 にほん式ピクルス(おつけもの) も買わなくちゃ……。

あれをポリポリと齧りながら飲むにほん茶が、紅茶とは違って、またイイ感じなのです。

そしてミツハ様達がお戻りになりますと、カティを領地邸へとお送りいただき、その後私は出張番としての通常勤務が始まります。

* *

「……でした、と……」

業務日誌は、記憶が新しいうちに書くべきものです。

カティのように、交替日の前日に慌てて数日分をまとめ書きしては、記憶違いや間違いが起きる可能性が高くなりますからね。

なので、にほん邸に戻って食事を済ませた後、ミツハ様達が戻られるまでの間に今日のことを書いているわけです。

この業務日誌は、交代時にカティに渡す引き継ぎ帳とは違い、私とカティがそれぞれミツハ様に直接お渡しするものです。なので、互いに相手に読ませるものではありません。

おそらく、ミツハ様は私とカティが書いたものを見較べて、より正確な情報を得ようとしておられるのでしょう。

なので、ふたりで相談して書いたり、互いに見せ合ったりしてはミツハ様の意図に反することになります。だから、カティには見せるわけには……。

「ロレーナ、何書いてるの? あ、今日の業務日誌かぁ。……どれどれ、何て書いてるのかな?」

「あ、駄目です! コラ、読んじゃ駄目ぇ〜!」

横から私の業務日誌を奪い取ったカティから日誌を取り戻そうとしましたが、既にお酒の影響から完全に回復しているカティには、運動能力では敵いません!

「いいじゃん、どうせ今日の分は、ふたりで一緒にいた時のことしか書かないんだから。

私が書く時の参考にさせてよ。

……どれどれ……、って、ロレーナが私の先輩ィ? 指導するゥ?

どういうことだよ! 同日採用、同日着任だったよね、私達!」

あ〜、そう言うだろうと思って、こっそり書いていたのに……。

でも、私は嘘は書いていません。

「前領主様に雇っていただく時の採用審査の面接で、私は受験番号7番。カティ、あなたは9番だったでしょ?

なので、合格の発表も、職務に対する宣誓も、任命のお言葉をいただいたのも、私の方が先です。

そしてお邸に着任したのはその3日後で同じ日だったけれど、私は午前、カティは午後に来ましたよね? ……つまり、私の方が数時間早くメイドとして働き始めました。

どうです? 正真正銘、私の方が先輩でしょう?」

「……なっ! なななななっ!!

ロレーナ、あんた、そんな細かいことを……」

「……私が先輩ですよね?」

「いや、あんた、そういうのは『同期』といって……」

「わ、た、し、が、先、輩、で、す、よ、ね!」

「ぐぬぬぬぬ……。

で、でも、それは前の領主様にお仕えしていた時の話だよっ! ミツハ様にお仕えしている期間は同じじゃないの!」

そう言うと思っていました。

「それは確かにそうですね。その部分では、互角。

でも、 領地邸(あそこ) での勤務歴としては、私の方が長いですよね?

ひとつの項目で、互角。そしてもうひとつの項目で、私が先輩。ならば、私が先輩ということでしょう?」

「ぐぬぬぬぬ……」

「それに、年齢的にも私の方がお姉さんじゃないですか……」

「誕生日が3カ月と12日、早いだけだよっ!!」

……まあ、何と言っても、私の方が先輩だという事実は 覆(くつがえ) りませんからね。

「……くっ、確かに好みも言動もロレーナの方が年寄り臭いし、男の子達にモテるのは若い私の方だけどさ……」

……え?

コイツ、今、何て言いやがりました?

「それは、私が貴族家のメイドとして気品ある言動を心掛けているからですよっ! 好みは、カティが子供っぽいだけ!

……そしてカティが人気があるのは、文字通りの『男の子』、邸の近所の子供達じゃないですか、5~6歳から10歳少々までの……。

そういうのは、『モテている』とは言わない!!」

ま、ままま、間違いは、ちゃんと指摘して訂正しておかなければなりません、ええ!

「え〜? でも、アイツら、私にプロポーズしてくれたよ? 『ボクが大人になったら、お嫁さんにしてあげる』って……」

「子供の 戯(ざ) れ 言(ごと) を真に受けるなああァ〜〜!

それに、そう言ってた奴ら、みんな数年後には若い女を連れてきて、『俺達、結婚するんだ……』とか抜かしやがるのよっ! ふざけんなッッ!!」

「……ごめん……」

はっ!

「なっ、何よ、その気の毒そうな眼はっ!

……私は、別にヴォンのことを期待して待っていたわけじゃあ……。

とっ、年下の男なんて……」

「いや、ごめん。……本っ当に、ごめん……。

……そして、言葉遣いが乱れてるよ、ロレーナ……」

「うっ、うるさいわっっ!!」

斯(か) くして、私達の自由行動日は終わったのでした……。