作品タイトル不明
369 カテ・ロレコンビの異世界冒険 3
「コレ。コレ、コレ。コレ……」
そう言って、右手の指を2本立てます。
最後に指し示したのは飲み物で、それをふたり分、という意味です。
何だか綺麗な色の飲み物なので、ふたりともそれにしました。
注文を取りにきたウエイトレスさんは、『おけおけ!』とか言いながら、手に持った四角いものを指で 突(つつ) いています。
私達に与えられている 通信機(スマホ) に似ていますから、あれで厨房に連絡しているのかもしれませんね。
……くっ、我がゼグレイウス王国も、王都であれば、おそらくそれくらいのものは……。
しかし、 お品書き(メニュー) に極めて細密な料理の絵が載っているのは、助かります。
そのおかげで、文字が読めなくても注文には全く困りません。
価格は、ミツハ様から数字とうちのお金との換算レートを教わっていますから、問題なく分かります。
私達の出張が始まる前、つまりコレットとサビーネ王女殿下がこの地へ来られる前に、ミツハ様にこの街で私達が行きそうなところを一通り案内していただき、この店もその時に連れてきていただいたのです。
……さすがに、私達だけでいきなり知らないお店に入るのは少し怖いです。
ミツハ様に連れていっていただいたお店の中には、 お品書き(メニュー) がこのようなものではなく、 小さな板(タブレット) を自分で 突(つつ) いて注文するお店もありましたが、あれはちょっと……。
カティとふたりで、魔法だ、と言って驚いたのですが、ミツハ様 曰(いわ) く、『 狼煙(のろし) や手旗信号で、遠くの人に信号を送れるでしょう? あれと同じで、まだうちの国では普及していない新しい方法というだけのことだよ』とのことですが、そういう 段階(レベル) のものでは……。
って、『渡り』で一瞬の内に遠くへと移動できる、雷の姫巫女であるミツハ様にとっては、 些細(ささい) なことなのでしょうねぇ、……ハァ。
この国で、定食、ジュース、デザートを注文しても、割と安いのです。
……いえ、本当であれば、うちの国の貨幣をこちらの貨幣に換えると大幅に目減りするらしいのですが、そこが、ミツハ様の素晴らしいところなのです。
こちらの国で働いた分の報酬は、この国の貨幣で、この国の賃金水準に合わせて支給してくださるのですよっ!
なので、私達はこの国の者達と同じように、……いえ、それ以上に贅沢ができるのです!
何しろ、私達は住居の賃料、食費、光熱費、その他生活に関する経費が殆どかかりません。
仕事着も、 お仕着せ(メイド服) は無償貸与です。
……つまり、貰った給金、全てが遊びや贅沢に使える、可処分所得なのです。
こんなの、軍の兵隊さんか住み込み従業員くらいしかありませんよ。
だから、メイドは給金が安くても、結婚資金を貯められるのです。
……当分、その予定はありませんけどね。相手もいませんし……。
ええと、ミツハ様が言われるところの、アレです、アレ。……『うるさいわっ!!』
あ、まず先に飲み物が来ました。
定食には『ミソシル』が付いており、これはそれとは別、先に喉を 潤(うるお) すために注文したのです。綺麗な色をしていて、美味しそうでしたので……。
半日、美術館や動物園を歩き廻っていたので、喉が渇いているのです。
さて、お味の方は……。
……美味しい! 美味しいですよ!
あ、カティもゴクゴクと飲んでいますね。そう安くはないのに……、って、働いて稼いだお金、今使わずにいつ使うのだ、というやつですね。ミツハ様がよく使われる言い回しですと……。
飲んでしまえば、また注文すれば良いのです。お腹を下さないようにだけ気を付ければ良いのですよ!!
* *
定食を食べ終え、デザートも食べ、3杯目のジュースを飲み……。
「ろれーらぁ、何か、いい気分られ~……」
ええ、いい気持ち……、って、カティ! ま、まさか……。
店員呼び出しボタン、プッシュ!!
「--、- --?」
何を言っているか分からないけど、とりあえず、会話ノートを開いて、とある文字列を指し示します。
『これはお酒ですか? はい いいえ』
そして店員さんが指し示す、『はい』の文字。
あうち!
いや、私達は成人ですし、お酒を飲んではいけないというわけではありませんが……。
この国では未成年になるらしいですけど、ここの人種からは私達は年齢が高く見えるらしいですし、言葉が通じないから年齢を確認されることもないでしょう。しかし……。
カティは、弱いのですよ……。
食前酒(アペリティフ) 1杯で酔っ払うのです。
……なのに、こんな大きなグラスで、3杯も……。
ああ……。
「ろりぇいにゃ~、じゅーしゅ、おきゃわりぃ~……」
あああああああ……。
* *
酷い目に遭いました……。
酔っ払いを連れ出すのにも苦労しましたが、それ以上に苦労したのが、何やら『お手伝いしましょうか?』というような態度で近寄ってきて、カティを 抱(だ) き 抱(かか) えようとしたり、私達をどこかへ連れていこうとしたりする男性達が次々と現れて、それを追い払うのが大変だったことです。
カティを抱えようとした人は、裏拳を貰ってひっくり返っていましたけどね。
……いい気味です。
私達貴族家のメイドは、暗殺者や暴漢から奥様やお子様方を護るための盾となるために、最低限の格闘術は身に付けています。『メイド流交殺法』というのですが……。
訓練を受けたプロの暗殺者とかには到底敵いませんが、ただの暴漢程度であれば、護衛が駆け付けるまでの数十秒くらいは稼ぐことができます。
なので、いくら酔っていても……というか、カティは酔うと理性の 箍(たが) が外れるから、相手のことも力加減も気にせずに、フルパワーで技を放つのです。
……迷惑もいいところです!!
……まぁ、そういうわけで、さっさと支払いを済ませて、鼻血を流したり下半身を押さえたりして床に転がっている数人の男達を放置して、カティを引きずって店を後にしたのです。
ああ、恥ずかしい……。
もう、あのお店には行けませんよぉ……。
お店の方達は、私達がお酒だとは知らずに注文してしまったらしきこと、そして男達が良からぬ魂胆で私達に纏わり付いたことを理解してくださったらしく、問題ない、というふうに笑いながら手を振ってくださいましたので、出禁になったというわけではないようですけど……。
その後、『じはんき』でブヨブヨ容器に入ったジュースを3本買って、お手洗いに。
女性用のマークを確認して奥へと進み、ふたり一緒にひとつの個室に入りました。
何やら、 学究の徒(がくせい) らしき女性達が、私達を見て『きゃあきゃあ』と嬉しそうに騒いでいましたが、何だったのでしょうか……。
そして、カティの口をこじ開けて、ジュースの容器を突っ込み、どぽどぽと流し込み……。
喉の奥に指を突っ込んで……。
「うげええええぇ〜〜」
もう1本。
どぽどぽどぽ……。
喉の奥に……。
「うげええええぇ〜〜」
もう1本……。
「やめ、やめええぇ〜〜! もう醒めた、醒めたよぉ! ごめんよ〜」
残念、1本残ってしまいました……。
「ロレーナが青筋立ててにっこり微笑んでいる時には、逆らっちゃ駄目なんだよぉ……」
「ん? 何か言いましたか?」
「いえ、何でもありませんッ!!」
じゃあ、次は買い物に行きますか……。
え? 食べたもの全部吐いたからお腹が空いた?
知りませんよ。晩ご飯まで我慢しなさい。
……でも、まぁ、あの綺麗な飲み物がお酒だとは私も気付きませんでしたから、不可抗力ですかねぇ……。
たまたま私はお酒に強く、カティが弱かったというだけで、事故でしたからね、あれは……。
この件は、業務日誌には書かないことにしてあげましょう……。