作品タイトル不明
368 カテ・ロレコンビの異世界冒険 2
「……ただの、普通の動物の展示場だった。すごく楽しいけど……。
詐欺だと思ってミツハ様に連絡して問い 質(ただ) したら、『あ〜、ごめんごめん! ただの地名なのに、自動的に翻訳しちゃってたわ〜』と、軽く流された……。
ぐぬぬぬぬ……」
ベンチに座ってひと休みしながら、そんな文句を垂れるカティ。
「いえ、それでも、珍しい動物がたくさん見られましたし、楽しいですよね。カティも思い切り楽しんでいたじゃないですか……、って、それは自分で言っていましたね。
そして、そんなことでミツハ様に連絡するとは、何と無謀な……」
そう。それは、あまりにも恐ろしい行為です。
ミツハ様は、使用人にもお優しい。失敗をしてヤマノ子爵家に迷惑を掛けたり損害を与えたりしても、注意はされるけれど、酷く叱責されるようなことはありません。
……それが、故意や怠慢、心得違いによるものでない限りは……。
そう。こんな下らないことで、3人でお楽しみのところを邪魔するなどと……。
……しかも、雇い主に対するクレームです。よかれと思って、わざわざ私達のためにサービスとして作られ、提供していただいた観光ガイドのメモに対しての……。
ミツハ様を不愉快にさせる可能性が、充分ありました。
コレットとサビーネ王女殿下との楽しいひとときを邪魔してしまいましたけれど、逆に、楽しくて御機嫌が良かったからこその、幸運でしたか……。
あ、いえ、そうではなく、ミツハ様は『もし今自分が怒ったら、ふたりはもう余程のことがない限り連絡してこなくなるだろう』とお考えになり、 我慢(がまん) されただけなのかもしれません。
……ミツハ様は、そうお考えになられる方ですからね……。
「まぁ、それはそうだけどさ……」
カティは、スン、というような顔をしていますけれど、私以上にはしゃいで、充分楽しんでいましたよね……。
勿論、私も驚き、楽しんでいますが……。
何ですか、あの大きくて鼻が長い動物は! あんなに強そうなのに、魔物ではなく普通の動物で、しかも草食?
首が異常に長い動物とかも……。
この様子だと、他に耳が長いのとか、眼が飛び出ているのとかもいそうです。
ミツハ様が、このあたりには魔物はいない、と言われていましたけれど、どう見ても魔物としか思えないような凶暴そうなのもいましたし……。
あれらを無傷で捕らえることができるとは、何という優れた狩人達でしょうか。
いえいえ、我が国も、王都にはそれくらい楽々こなす雇兵や 魔物使い(テイマー) がいるに決まっています! うちの領(ドいなか) の村の猟師と較べても、何の意味もありません!
『--、- ---!』
……あら? また、お付き合いのお申し込みでしょうか?
若い男性……、いえいえ、ミツハ様が言われるには、この国の人達は私達にはかなり若く見えるそうですから、私達には15~16歳くらいに見えるこの方達は、実際には20歳前後だと思われます……の、おふたり連れです。
品のない、 頭の悪(思考能力に不自由) そうな様子はなく、礼儀正しい感じです。
ミツハ様から特訓を受けました、『服装から相手の身分を推し量る方法』で判断しますと、おそらくは 学究の徒(がくせい) ではないかと思われます。
……親のお金で学問の道に進ませてもらっておきながら、女性にお付き合いを申し込むとは、何たる堕落! 何たる忘恩の徒!!
……いえいえ、それは本人達の勝手、私が気にすることでも、わざわざ忠告してあげることでもありません。
そのような者とは、絶対に関わりたいとは思いませんけれど。
なので、きちんと返事してあげました。
……うちの国の言葉で。
いえ、私達はそれしか喋れませんから、仕方ありませんよね。
そうしたら、今度は喋り方が先程とは少し異なる言葉で話し掛けられました。
……勿論、私達には理解できません。
おそらく、ミツハ様からお聞きした、『えいご』という言葉なのでしょう。
なので、ショルダーバッグから取り出しました。
ミツハ様謹製の、会話カードと会話ノートを……。
会話カードは、両方の手の平を合わせたくらいの大きさのカードに、短文がうちの国の言葉とにほんご、そしてえいごの、3つの言葉で書いてあります。
これには、使用頻度が高い言葉が書かれています。
そして会話ノートは、小さな文字で同じように3カ国語で様々な文章がシチュエーション別に纏められています。それを、該当箇所を指し示して相手に読んでいただく形です。
こちらは、少し込み入った意思疎通が必要な時用です。
……今まで、どちらも今回のようなお付き合いのお申し込みの時とか、食事の注文の時くらいしか使っていませんけれど、せっかくミツハ様が作ってくださったのですから、使う機会があるのは良いことかもしれません。
ミツハ様は、『どうせ今回限り、それも3カ月だけだから、ここの言葉を覚えようとする必要はないよ。これを使えば充分!』と言われておりました。
その、会話カードの方を手にして、あるカードを選んで、おふたりに提示しました。
『日本語も英語も分かりません。ゼグレイウス王国の言葉でお願いします』
それを見て、ぽかんとした顔のおふたり。
このあたりの国では、自国語と、『えいご』という言葉が通じるところが多いそうなのですが、遠方であり国交もない我が国の言葉が喋れる者などまずいない、とミツハ様が言われていました。
なので、大抵の方はこれで私達に話し掛けるのを諦めてくださるのですが……。
『--、--- - --!』
しつこいですね……。
私達がにほんごもえいごも喋れないから、助けを求められないとでも思ったのでしょうか?
それとも、この国で通じる言葉が話せなくて困っている……本当は全然困っていないのですけど……私達を手助けしようとしてくれているのでしょうか?
……いえ、それにしては、笑顔と鼻息の荒さがあまりにもあからさま過ぎますよねぇ……。
困りました。
よし、こうなったら、まだ一度しか使ったことのない、あのカードを……。
『この者達は、我が国の貴族家の者である。もし指1本でも身体に触れた場合、本人による正当防衛攻撃、及び少し離れたところから見守っている護衛の者達が武器による制圧を行う。
なお、その後日本国政府に対し犯罪者の引き渡し要求を行うものとする』
まるで私達が貴族の娘みたいに書いてありますけれど、私達はヤマノ子爵家の使用人ですから、『貴族家の者』という表現に嘘はありません。
……平民が貴族を 騙(かた) れば、斬首刑か絞首刑、間違いなしですからね。こんなことで、嘘は吐けません。
そして勿論、私達にはミツハ様から護身用のものを色々と渡されています。この国で携帯していてもギリギリ違法ではないやつを……。
雑用にも使えて、相手の指を挟んでへし折ったり、身体に突き刺すこともできる らじおぺんち(・・・・・・) 、便利で最高です!
そして、そのカードを差し出しますと……。
あ、おふたりとも、ビクッとして、私に向けて伸ばしかけていた手を慌てて引っ込められました。
……まあ、平民が貴族のお嬢様の腕を掴んだりすれば、ただじゃ済みませんからね。それくらいのことは、当然このおふたりもご存じでしょうから。
この国の休養日でもないのに、昼間から仕事も勉強もせずに男ふたりでこんなところで女性に声を掛けているような男性は、願い下げですよね。
しかし、何とこの国では、7日間のうち2日が休養日らしいのです。
……正気なのですか、この国の貴族や王族達!!
まあ、他国の国力が落ちた方が我が国にとっては有利になるでしょうから、それに異を唱えるつもりはありませんが……。
あ、逃げた!
私達に声を掛けてきたおふたり、全力で逃げ出しましたわ……。
根性なしですわね。
まあ、これ以上意地を張ると、『根性なし』ではなく、『 今生(こんじょう) なし』、つまり 今生がなくなる(・・・・・・・) ということになりかねませんからね。仕方ありませんか。
あ、勿論、『少し離れたところから見守っている護衛の者達』というのは、嘘です。そんな者はいません。
サビーネ王女殿下であればともかく、ただのメイドにそんなものは付きません。
……代わりに、 通信機(スマホ) で呼べば、ミツハ様が『渡り』の秘術を用いて、すぐに来られます。そのために、私達が行きそうな場所は全て事前に確認して覚えられているとか……。
さすが、ミツハ様です! 取るに足りない使用人のために、そこまで御配慮いただけるとは……。
「……じゃ、もう少し見て廻って、その後、食事と買い物に行きましょうか」
「うん!」
いつもの買い出しは、急いで食材を買って回るだけです。
今日は、ゆっくりと見て廻り、家族へのお土産を買いましょう……。