軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

371 お友達 1

「 海月(みつき) さん、明日、うちに来られませんこと? サビーネちゃ……さんとコレットさん、忍さん達も来られますのよ?」

((((((晴香ちゃん、いつまで 演技(ソレ) 、続けるつもりなの……))))))

そろそろ辛くなってきている筈である。

それに、時々ボロが出かけたり、ついうっかりと『さん』ではなく『ちゃん』と言いそうになったり……。

皆、何とかしてあげたいと思ってはいるが、誰も言い出せず、『お嬢様喋り』を続けている晴香ちゃんであった。

それと、縦巻きロールの髪型も……。

晴香ちゃんの家族と学院の者は、教師を含め全員が事情を知っているため、問題はない。

しかし、街を歩くと、注目を集める。

無遠慮に注がれる、奇異の視線。

無断で写真も撮られる。

その度に、羞恥で顔を赤くしてぷるぷると震える晴香ちゃんが可愛いため、クラスメイト達の中には『もうしばらく、このままでもいいかな』などと考える、非情の 輩(やから) も存在する。

……そのうち、泣きが入りそうである。

「あ、ごめんなさい。私、明日は 曾祖母(ひいおばあさま) のお見舞いで、病院へ行くので……」

ちなみに、海月ちゃんの名前は、御両親が見た『海面に映って揺らぐ、幻想的なまでに美しい月』から取ったそうである。

御両親は教養のある常識人なのであるが、『海月』が『くらげ』と読まれることを知らなかったそうである。

それを知った時、御両親は『くらげは「水母」でしょおおおおぉっ!』と叫び、その後、海月ちゃんに泣いて謝ったそうである。

海月ちゃんは、『綺麗な名前で、気に入っている』と言って微笑んだとのことであり、親戚一同、その優しさに涙したという……。

昔は今よりも結婚や出産の年齢が低かったとはいえ、曾祖母となると、かなりの高齢だと思われる。病気であっても怪我であっても、入院からそのまま寝たきりになる可能性もあり、心配であろう。頻繁にお見舞いに行きたいのも、無理はない。

「それなら、仕方ないですわね。また、次の機会に。

早く良くなられるといいですわね……」

晴香ちゃんの言葉に、微笑みながらこくりと頷く海月ちゃんであるが、その表情には陰があった。

「…………」

そして、何やら考え込んでいるサビーネちゃん。

「……海月ちゃん、 曾祖母(ひいおばあさま) はどんな御病気なの?」

「「え……」」

他家の家族の病気についてズケズケと聞くのは、良家の子女としてはあまり褒められたことではない。無神経、かつ相手の心情を思い遣ることのない興味本位の質問は、はしたない行為であろう。

しかし、そう言って 咎(とが) めることもまた、余計な 軋轢(あつれき) の元となる。

それに、サビーネちゃんは他国の少女である。日本とは違い、相手の病名を聞いて治るよう祈祷の言葉を口にする、というような宗教的習慣があったとしても、おかしくはない。

なので、海月ちゃんはサビーネちゃんの質問に対し、素直に答えた。

「肺炎です。ええと、 誤嚥(ごえん) 性肺炎と言って、食べ物や唾液が食道や胃袋じゃなく気道……肺の方へ行っちゃって、それと一緒に口の中の細菌も行っちゃって、炎症を起こす、とか……。

お歳だから、心配で……。

曾祖母(ひいおばあさま) は、私をとっても可愛がってくださったの……」

そう言って、悲しそうに目を伏せる海月ちゃん。

肺炎は、文明国での死因のベスト5……、いや、ワースト5に入るくらいの、危険な病である。

曾祖母となればかなりの高齢であろうから、心配なのも無理はない。

「ゴッドボイス・ユー……」

サビーネちゃんの言葉に、皆、『ああ、やっぱり快癒のお 呪(まじな) いの言葉が言いたかったのだな』と思った。

一部の帰国子女や英会話の塾に通っている者達は、『ゴッドブレスじゃないの?』と首を捻っていたが、英語圏のものではなく、ふたりの母国での言い回しであろうと思い、特に気にすることはなかった。

……少なくとも、『どこの古代文明ロボットの必殺技ですかっ!』と口にする者はいなかったようである……。

* *

「姉様、妖怪並みに長生きしてるお年寄りの病気、治してもらえないかな……」

ぶはっ!

げほげほげほ!

「食べ物を口に入れてる時に、変なこと言うな〜!!」

食事中にとんでもないことを言われて、口の中のものを噴き出しそうになったよ!

ぎりぎり踏み止まったけど……。

「気管に入って咳き込んだじゃないの! 誤嚥性肺炎とかになったらどうするのよ!

死亡率、高いんだからね……」

あ、マズい!

サビーネちゃんとコレットちゃんが、サアッと蒼褪めた。

しまった、言っちゃいけない冗談だった。

「ミツハああああぁ〜〜!!」

コレットちゃんが飛んできて、私を椅子から引きずり落とし、思いっ切り背中を叩き……。

「ぐへぇ!」

私は床に叩き付けられて、潰れたカエルのような声を出した。

いや、分かるよ?

背中を叩いて、気管に入ったやつを吐き出させようとしてくれたんだよね?

……でも、コレットちゃんの一撃の方が、ダメージが大きかったよ……。

* *

「……悪かった! 確かに誤嚥性肺炎は怖いけど、体力や抵抗力が落ちている人や怪我人、病人、お年寄りとかでなければ、自然に排出できるからそんなに心配しなくていいんだ……」

「怪我人も?」

「うん。咳き込むと凄く痛むような怪我をしていると、咳をせずに我慢しちゃうでしょ? そうすると、自然に吐き出せずに、奥まで行っちゃうとか……」

「「なる程……」」

私の説明に、納得したらしい様子のサビーネちゃんとコレットちゃん。

「……で、さっきの話だけど……。

妖怪並みに長生きしてるなら、それ、寿命じゃないの? 無理に延命させても……。

それに、私は魔法使いじゃないよ。治癒魔法は使えないし、魔法のポーションとかも持っていないよ。そんな手段があれば、コレットちゃんが刺された時に使ってる」

「うん、それは分かってる」

分かっとるんか〜〜い!

「確かに、転移能力を使って私が治せる病気もないわけじゃないよ。細菌とか寄生虫とかのやつならね。そのあたりは、以前説明したよね?

……でも、身体が衰弱しているとか、臓器の機能不全とか、老衰とかは無理だよ。

そういうのは、お医者様に任せるしか……」

「誤嚥性肺炎」

「…………」

あ〜、そういうことかあ……。

だからの、あの反応かぁ……。

ちょっと反応が過敏過ぎるとは思ったんだよなぁ……。

「……詳しく!」