軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

366 留 学 8

「えええええっ! 帰宅途中に襲われたああァ!!」

呆然。

淑女(レディー) 呆然(ボーゼン) !

どこの高級アイスクリームかっ!!

カティとロレーナも、驚愕に目を見開いている。

……いやいや。

いやいやいやいやいや!

何のために、学院の超至近距離の物件を借りたと……。

そして、地球では見たことのない虫1匹と引き換えに、某国の諜報……、いやいや、情報部門の人から特殊装備を借りたと思ってるんだよ!

あ、なぜかあの人達、私が『諜報部門』って言うと、必ず『情報部門です!』って訂正してくるんだよねぇ、割とムキになって……。

大して変わらないじゃん……。

それに、どちらかといえば、『情報』より『諜報』の方が高度で価値がありそう……、って、いや、そんなことはどうでもいい!

とにかく、迎えが来て晴香ちゃん達が帰った後にサビーネちゃんから報告された、とんでもない話。

「……詳しく!」

そして当然のことながら、詳細説明を要求した。

* *

うむむむむ……。

幸いにも、ただのひったくり犯……ほんの少し間違えれば、強盗致傷罪、凶悪犯罪……だったけれど、もしこれが変質者や通り魔、異世界の王姉殿下である 私(ナノハ) の弱味を握るための 誘拐(ハイ〇ース) とかだったら……。

イカンイカンイカンイカン!!

「どうして防犯グッズをすぐに使えないようなとこにしまい込むの! それに、護身術を習っているから素人ひとりの初撃くらい 躱(かわ) せるって言ってたじゃないの!!」

「……ごめん……」

ああっ、しまった!

サビーネちゃんはしっかりしているけれど、まだ11歳の女の子、それも、大切に育てられた王女様なんだ。

いくら護身術を学んではいても、それは王女様の訓練だから、殺意どころか、敵意や悪意なんか 欠片(かけら) もない温厚な練習相手とのはちみつ授業だったに違いない。

それに、安全だと思っていた時にいきなりぶつかられて、 咄嗟(とっさ) に反応できるわけがない。私でもどうしようもないよ。

反応できた、忍ちゃんが異常なんだよ……。

なのに、腹立ち 紛(まぎ) れにサビーネちゃんを怒鳴りつけちゃった……。

そして、私の言葉が理不尽なものだと分かっていながら、それがサビーネちゃんとコレットちゃんを心配してのものだと知っているから、何も言い返さずに、泣きそうな顔で俯き、謝ったサビーネちゃん。

……悪いのは、私の方じゃん……。

「……ごめん……。謝るのは、私の方だった……。

もっと、装備の着け方とか、きちんと相談すべきだった。私もよく分からなかったから、使い方の説明だけで、具体的な装備の仕方とかは考えなかったよね……。

それに、ここじゃ見知らぬ他人が数十センチの近くを通ったって、誰も警戒なんかしない。そう説明したの、私だよね。

そんなのでいきなり体当たりしてきた者をうまく捌くなんて、余程のプロだって無理だよね。

ごめん、無茶言った……」

私の謝罪に、ぶんぶんと首を横に振るサビーネちゃん。

「ううん、そんなことない! ミツハ姉様は、ちゃんと私達のことを考えて、安全面に関しては充分……いささか過剰……に配慮してくれてる!

それをうまく活かせなかったのは、私のせいだから……」

……別に、下手をすれば日本留学が打ち切られるかもしれないから、というわけじゃない。

本当に、申し訳なさそうな様子のサビーネちゃん。

コレットちゃんも、落ち込んでる。

平民である自分が盾になってサビーネちゃんを護るべきだった、とか考えてるな、こりゃ……。

「コレットちゃん、今回は別にサビーネちゃんの護衛をさせるために一緒に留学させてるわけじゃないからね。サビーネちゃんは将来国のために活動する王女様として、そしてコレットちゃんはヤマノ子爵領を支える家臣として、それぞれ勉強するために留学させているんだよ。

だから、日本にいる時は、本国での身分は関係なし! ふたりは姉妹として、対等の立場で活動するように言ってあるよね。クラスメイトから疑念を抱かれないように、って理由もあるけれど……」

そうは言っても、コレットちゃんは自分の身を犠牲にしてでもサビーネちゃんを護ろうとするのだろうなぁ。あの、帝国の暗殺者から私を護った時のように……。

そしてそれは、自分が平民で、サビーネちゃんが王女様だからじゃない。

たとえ相手が見ず知らずの平民であっても、コレットちゃんの行動は変わらないだろう。

……仕方ない。いくら言っても無駄だろう。

だって、それが『コレットちゃん』なのだから……。

まあ、今夜はちょっと、カティとロレーナも含めて、みんなで話し合うか。

臨時の手伝いに連れてきたカティを向こうに送り届けるのが遅くなっちゃうけど、こっちで夕食が摂れる上に出張手当の対象となる時間が延びるから、カティから文句が出る可能性はないだろう。

ちょっと出張手当の条件を良くし過ぎたかなぁ……。

* *

サビ・コレコンビが学院の廊下を歩いていると、隣のクラスの少女が話し掛けてきた。

……早口の英語で。

どうやら、親の仕事の関係で外国生活が長かったのか、ネイティブ並みの会話力である。

隣のクラスに他国の貴族家令嬢が、と聞いて、得意な語学力を使ってお近づきになろうとでも考えたのであろうか……。

その気持ちは分かる。

分かるのであるが……。

「ごめんなさい。私達、英語は日本語ほどには話せないの。自分が喋るのはそこそこできるけれど、早口で喋られると、 聞き取り(ヒアリング) がちょっと……。

それに、ここには日本語と日本のことを学びに来たので、私達には日本語で話し掛けてね」

サビーネちゃんにそう言われ轟沈した、帰国子女らしき隣のクラスの少女。

日本人は、国内で欧米系に見える他国人を見た場合、なぜか相手が英語のネイティブだと思い込む傾向が強い。

世界には、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、その他たくさんの言語があるというのに……。

それに、どう見ても欧米系の他国人なのに、実は日本生まれの日本育ちで、日本語、それも関西弁しか喋れないという人もいる。

まぁ、まだ小学生なのであるから、人生経験が足りないのは仕方ないであろう……。

「ごっ、ごめんなさい!」

相手が英語圏の者だと勝手に決めつけて英語で話し掛けたのは、考えてみれば、すごく無礼なことだったかもしれない。それは、相手の祖国を、そして母国語を馬鹿にした行為なのかも……。

そう気付いた少女は、最初は恥ずかしくて顔を赤くしたが、その後、すぐに 蒼褪(あおざ) めた。

貴族が、自国を馬鹿にされたと思ったら……。

今にも泣き出しそうな少女に、サビーネちゃんはにっこりと微笑んだ。

「いえ、私達が不自由な日本語でばかり喋って疲れているだろうと考えて、使い慣れている母国語で話し掛けようとしてくださったのでしょう? 残念ながら私達の母国語は英語ではありませんが、あなたの優しさは、ちゃんと伝わっていますわ」

「えっ……」

サビーネちゃんの言葉に、じわっと目尻に涙を浮かべる少女。

そして、サビーネちゃんの 心配(こころくば) りに感心する、周りにいた生徒達。

(……よし、これで好感度アップ、間違いなし!)

せっかくの良いシーンなのに、サビーネちゃんの心の声で、台無しであった……。

* *

その後、教室にて……。

「じゃあ、おふたりは母国語と日本語、そして英語もある程度話せると?」

「うん。あ、もうひとつ、我が国と敵対関係にある国の言葉も話せるよ。その中で、英語が一番苦手なの。

敵対国の言葉は、まぁ、死活問題(ミツハに新大陸に連れて行ってもらえない)だから、頑張った。日本語は、アニメを観たりマンガを読んだりするのに絶対必要だから、必死で勉強した」

「「「「「「あ〜……」」」」」」

それならば、英語が一番後回しになるのは当たり前である。

そして、英国や米国ではなく、日本に留学した理由も、納得できる。

……みんな、概ね理解した。

可愛くて、頭が良くて、性格が良くて、現時点で 4言語使い(クァドリンガル) であり、これからもっと覚えて 多言語使い(マルチリンガル) の道を歩む……。

((((((人生、勝ち組じゃん!!))))))

皆、そんなことを考えているが、貴族の娘であるという時点で、既に超絶勝ち組である。

そして更に、コレットちゃんは怪力である。

将来、 重量挙げ(ウエイトリフティング) とかで大きな大会に出場できそうなくらい……。

そして他にも、怪力を活かせるスポーツは色々とあるだろう。

もし何かあって地球で暮らすことになっても、ふたりとも、あまり生活には困らないかもしれない。

向こうの世界の言語知識は無駄になるが、英語と日本語が喋れて、この頭脳と美貌があれば、様々な仕事ができるであろう。

超絶勝ち組。

その地位は、揺らぎそうになかった。