軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

365 留 学 7

『『イラッシャイマセ~』』

今日の当番はロレーナであるが、来客対応のため、カティも来ている。

ふたりともデキるメイドなので、既に挨拶の言葉くらいは覚えていた。

そして勿論、ミツハもいる。

サビ・コレコンビが事前にミツハの了承を得ずに他者をここへ連れてくることはないし、ふたりの『お友達が自宅を初訪問』イベントを見逃すようなミツハではない。

「いらっしゃい! 狭いけど、ゆっくりしていってね!」

どこかのアスキーアートみたいなことを言うミツハであるが、別に元ネタを知っているというわけではあるまい。

ミツハが『狭いけど』と言ったけれど、それは相手が晴香ちゃんと忍ちゃんだからである。

ふたりの家は、豪邸らしいので……。

このマンスリーマンションは、3LDK、73平方メートル。メイド込みで4人(メイドの常駐はひとりずつ)で住むには、充分な広さである。それも、3カ月限定であり大した荷物は持ち込まないとあれば……。

どうやらここは、普通の賃貸マンションとして建てられたものがマンスリーマンションとして使われているらしく、ごく普通の造りであった。

(学院の超至近距離で、ごく短期間の契約なら、いくらお金があっても、そんなに広い物件は借りられないよねぇ……)

(サビーネちゃん達、留学の話は急に決まった、って言ってたから、この物件を借りられたのも、何か強いコネがあるからだろうなぁ……)

そんなことを考えている、ハル・シノコンビ。

((……そしてやっぱり、メイドさんがいるんだ……))

3LDKの賃貸マンションに、メイドさんがふたり。

明らかに、過剰戦力である。

世話役として付いているのが、大人ではなく15〜16歳の少女なのは、ふたりがのびのびと暮らせるようにと、 敢(あ) えて姉くらいの年齢の者を選んだのであろう。

そして、生活のサポートはメイドに、ということで……。

国外に短期留学する子供にまでメイドを付けるということから、先日の綾小路家における、サビーネの『メイドがいることを疑いもしない言動』を思い出し、さもありなん、と納得するハル・シノコンビ。

「ふたりとも、勉強は家庭教師だけで、学校には通ったことがないんですよ。だから常識知らずでおかしなことや失礼なことを言うかもしれませんけど、怒らないで……、いやいや、そういう時は叱ってやってくださいね。……でないと、国費で留学させた意味がありませんからね」

「「は、はい……」」

国費、すなわち、税金である。(陛下からも少しお金を出させているので、嘘ではない。)

頭の良いふたり……ハル・シノコンビには、それがどういうことか、きちんと理解できている。

なので、自分達がサビ・コレコンビにどうしてあげるのが一番良いのかを、正しく認識した。

「あ、立たせたままでごめんなさい。どうぞ、お座りください」

そう言って、着席を勧めるミツハ。

接待は、リビングで。

3つの部屋は、それぞれミツハ用、サビ・コレコンビ用、ロレーナとカティの共用として使われている。そしてそれぞれにベッドや机を持ち込んでいるため、自分達だけであればともかく、お客さんを入れるにはちょっと狭い。特に、ベッドも机もふたつずつあるサビ・コレコンビの部屋は。

なので、リビングを使うのが妥当なのであった。

(子供達の話に交ざるのはアレだけど、ふたりのクラスメイトと話せる機会は滅多にないからなぁ。

サビーネちゃん達はいつでも話せるんだから、ここは交ぜてもらうか……)

そう考え、自分も一緒に座るミツハ。

……椅子は、最初から5脚用意してある。

いつもは、ミツハ、サビ・コレコンビ、そして交代時にはロレーナとカティが両方いるため、交代時の情報交換や食事とかで5人になるからである。

領地邸での使用人の食事、特にミツハが不在の時のそれは、決してそう豪華なものではないのである。なので彼女達は、交替のためにこちらへ転移した後で、そして交替して向こうへ戻る前に、こちらで引き継ぎの話をしながら食事を摂ることを希望していた。

……ちなみに、交代時の食事は、前直の者が好きな料理を作ることになっている。

他の時はミツハやサビ・コレコンビの希望を聞くが、この時だけは自分の希望が優先できるのである。

食事(これら) のことは、ロレーナもカティも、他のメイド達には一切話していない。

当たり前である。もしそんなことを教えれば、出張希望者が殺到して、今の自分達の立場が脅かされるのは明白である。そのような、自分の首を絞めるような馬鹿な真似をするはずがない。

ふたりは、領内で 選(え) りすぐられた、優秀な人材なのであるから……。

紅茶(おちゃ) とお菓子が出され、晴香ちゃんが口を開いた。

「日本語、お上手ですのね……」

「あ、ふたりの世話役である私がたまたま日本語が得意だったというわけじゃなくて、 日本語が得意だから(・・・・・・・・・) 、 世話役に選ばれた(・・・・・・・・) 、ってことだよ。

いくら小国でも、国中捜せば日本語が得意な者のひとりやふたりは見つかるでしょう? その中で、一番若い私が選ばれた、ってだけだよ。その方が、ふたりが気楽に過ごせるだろう、って。

それに、私は色々な手続きやトラブル対処とかもしなきゃなんないから、日本語でそういうのができないと仕事にならないからね」

「……あ、なる程……」

いつものように、適当に誤魔化すミツハ。

そして、最初は丁寧な言葉遣いをしていたが、小学生相手にそんな喋り方をするのも面倒だし、相手もそんなことは望んでいないだろうと考え、砕けた喋り方に変えたようである。

「あ、念の為に言っとくけど、私、成人だからね。うちの国の者は、みんな小柄だし若く見られるんだよね……」

「「え!」」

ミツハが初めて転移してから、1年と数カ月。

誕生日の関係で、あれからミツハとベアトリスはふたつ年を取ったが、サビ・コレコンビはどちらもまだひとつしか年を取っていない。

なので、現在はサビーネちゃん11歳、コレットちゃんは9歳である。

……共に、もうすぐ誕生日を迎えるが……。

なので、サビーネちゃんに合わせて6年生に編入したが、コレットちゃんは正しくは4年生の年齢である。そのため、平均より少し小柄なサビーネちゃんと合わせて、『国民が全般的に小柄である』という話には、 信憑性(しんぴょうせい) があった。

それに、欧米系の人種には12〜13歳に見られるミツハも、日本人からは15〜16歳に見られる。

(食糧不足で、貴族が率先して粗食に甘んじているから、栄養不足で身長が……)

(貴族も、民と同じ食事を……)

(( 高貴なる(ノブレス・) 者の義務(オブリージュ) ……))

そして、何だかおかしな勘違いをして、感動しているハル・シノコンビ。

((それと、多分、サビーネちゃん達の国の成人年齢は、16歳くらいなんだろうな……))

現代地球でも、成人年齢が14歳の国がある。なので、ハル・シノコンビがそう考えるのは、別におかしなことではない。

そして晴香ちゃんの迎えが来るまで、みんなで色々な話をした。

晴香ちゃんの迎えが遅れたのは、今日はお母さんが用事で車を使っていたかららしい。

……いくら車が数台あっても、それは用途によって使い分けたり、整備の間の替えの車だったりするわけで、お抱えの運転手がひとりしかいない以上、一度に使えるのは1台だけである。

(椅子はたくさんあるけれど、一度に座れるのはただひとつ、ってことか。どんな金持ちや権力者でも……)

綾小路家には数台の車があることを以前サビーネちゃんから聞いていたミツハは、そんなことを考えていた。

しかし、その比喩は、少しおかしい。

椅子は確かにそうであろうが、綾小路家の場合、お抱え運転手をもうひとり雇えば済むことである。

……雇わないであろうが……。

忍ちゃんは、帰りは綾小路家の車で送り届けることになっているらしい。晴香ちゃんの帰路の途中に家がある……というか、綾小路家の近くらしい。なのでふたりは、幼稚園の頃からのお友達だとか……。

とにかく、こうして『ゼグレイウス家日本邸』の面々とハル・シノコンビに面識ができたのであった。