作品タイトル不明
363 留 学 5
「……で、3人のクラスメイトと一緒に、晴香ちゃんの家で女子会を開いたのよ!」
「いいなぁ……」
私が最後にクラスメイト達と馬鹿話をして盛り上がった時から、もう2年以上経っている。
卒業後も、みっちゃんや他のクラスメイト達と個別に会うことはあったけれど、大勢で集まったことはない。何だか、ちょっぴり寂しいような気が……。
「次は、姉様も来る?」
「……いや。いやいやいやいや!」
いくら何でも、小学生の女子会に 交(ま) ぜてもらう20歳女子、というのは厳しいものがある。
ここは異世界のゼグレイウス王国や地球の西欧とかじゃない。
日本では、さすがに私も小学生に見られることはない。中学生か高校1年くらいには見られるのだ。
そんなのが小学生の群れの中にひとりポツンといたら……。
世間の冷たい目に耐えられないよっ!!
「おうちを案内してくれたんだけど、晴香ちゃんち、 厩(うまや) ……じゃない、 車庫(がれーじ) にクルマが5~6台あったよ。
台所は大理石を使ってあった。お風呂は浴槽が小さくて、狭かった……。
そして全体的に、こぢんまりしていたなぁ……」
「他人の家を、隅々まで探検して廻ったんか~い!
……いや、まぁ、見たいのは分かるけどさ……。
ま、お 家(うち) の人も、外国人が日本の家に興味があって見たがるというのは分かってくれてるだろうけど……。
そして、王宮の王族用のお風呂と日本の一般家庭のお風呂を較べるな!
そんなの、うちのお風呂を温泉やスーパー銭湯と較べるのと同じだよっ!!」
綾小路家も、まさか自分の家が王宮と比較されるとは思ってもいなかっただろう。気の毒に……。
「って、クルマが5~6台に、台所が大理石いぃ? 豪邸じゃん!」
……って言っても、サビーネちゃんには分からないか……。
私が、あの学院に通っているのは上流階級の人が多い、って言っちゃったからなぁ……。
サビーネちゃんにとっては、『上流階級』っていうのは、イコール、貴族だ。
だから、あの学院は貴族の御令嬢が通うところであり、ごく一部、優れた平民が特待生として通っている、とか思ってるのかも……。
そして、クラスメイトの家を『貴族の家』を基準として見ている、と……。
サビーネちゃんは家庭教師に教えてもらっていて、学校には行ったことがないらしいからなぁ。
だから、学校については異世界と地球を合わせても、アニメと漫画でしか知らないはず。
……でも、アニメと漫画でも、日本の学校は平民が通っているはずだよなぁ。一部の、特殊な作品を除いて……。
あ、もしかして、ライトノベルの異世界物を読んで仕入れた知識か?
それとも、最初から先入観があったため、偉そうな生徒会長は公爵家の長男、取り巻き達は家臣の子息だとでも思ったか? 一般の生徒達は子爵家や伯爵家の者で、貧乏人と 蔑(さげす) まれ苛められているのは、男爵家や騎士爵家の者達だと思っているとか……。
いや、日本には身分制度がないということは教えてある。
……というか、アニメや漫画で、それくらいのことはサビーネちゃんには分かっているはず。
それもあって、日本は私の母国じゃないと説明してあるんだよね。でないと、私に関する今までの説明が嘘だと分かっちゃうから……。
身分制度もだけど、私は国を 出奔(しゅっぽん) したと言ってあるから、母国には戻れないはずだしね。
もしかすると、日本には貴族や王族、平民というような身分制度はないけれど、それに代わって、財力や知識階級とかいった、家系固定ではないけれど厳然たる身分の差がある、とでも思っているのだろうか……。
まさか、デパート以外のビルを個人のお屋敷だと思っていたりは……。
いやいや、頭のいいサビーネちゃんが、まさかそんな勘違いをするはずが……。
……しかし、いくら頭がいいといっても、所詮は中世並みの文明レベルの世界の、12歳の女の子に過ぎない。きちんとした基礎知識や周辺情報もなしに、フィクションであるアニメや漫画からの断片的な知識だけを基にして考えているとすれば……。
いくら高性能のコンピュータであっても、入力された情報が誤っていたり、情報量が少なかったりすれば、正しい答えは出せないよねぇ……。
これは、系統立った知識を私から色々と教えるべきか?
しかし、そうなるとサビーネちゃんに色々なことがバレる確率が急上昇する。私が実は自国の若き国王の姉ではなく、そして貴族でもない、ただの平民であることが……、って、ちょっと待てよ?
今の私は、 異世界懇談会(イセコン) 参加国のうちの複数の国から貴族の称号を貰ってるじゃん!
その中で一番上位なのは、伯爵だよ、伯爵!!
勿論、領地も参政権も貴族年金もない、ただの名誉爵位だけどね。
その代わり、納税の義務も兵役の義務も、とにかく義務や縛られるようなことは一切免除なのだから、文句はないよ。国籍もくれたから、大助かりだ。
とにかく、今の私は、地球でも立派な貴族なのだ。
時系列が少しおかしいけれど、向こうの世界ではそれに気付ける者はいない。うむうむ。
そして私は、自分が王族だなどとは一度も言っていない。私の『そう誤解される可能性がなくもない言動』から、向こうが勝手に勘違いしただけだ。……私のせいじゃない。
うん、問題、ないない!
そして本当に問題なのは、私が向こうの世界のことを考えて持ち込むまいとしている知識や技術が、国の政策を左右できる人物に対して大きな影響力を行使できる者の手に渡ることになる、ということだ。
自国を発展させ、国と国民を守ることが己の義務だと考えている、とても頭が良い支配階級の者の手に……。
それって、大丈夫なのだろうか……。
うむむむむ……。
……いや、今更か。
既にサビーネちゃんとコレットちゃんは、向こうの世界の者としては充分に危険な知識を得ている。
それは、私がふたりを信用して与えた……というか、 得る機会を(・・・・・) 妨げなかった(・・・・・・) ものだ。
だから、ふたりがその知識を使って向こうの世界を征服したとしても、私は後悔しない。
……『反省』はするかもしれないけれど。
私は常に、その時に自分が持っている全ての知識と情報を基にして判断する。
だから、後知恵で後悔しても仕方ない。
その時の私は、それが最善だと考えてその判断を行ったのだから。
……それに、ちょっと見てみたい気もする。
サビーネちゃんとコレットちゃんが支配し君臨している世界というものを。
おそらくそれは、女神と天使に統治された、理想郷……。
「……そろそろ終わりそう?」
「え、何が?」
「ミツハ姉様の、妄想タイム……」
うるさいわっ!
「さ、この週末は王様の御機嫌を取る日だから、さっさと着替える!」
「は~い……」
急にテンションが下がった、サビーネちゃん。
隣で私達の会話を聞いていたコレットちゃんも、同じく。
うん、この週末は、サビーネちゃんは王様夫妻やお姉さん、お兄さん達に愛でられながら、王女教育だ。
留学期間の3カ月で勉強に遅れが出ないよう、戻っている間は勉強なんだって……。
こっちで過ごす週末は、遊び放題、食べ放題。
お腹を壊したり太りそうになったりするラインに近付くと、私からのドクターストップがかかる。
……いや、別に私は 医者(ドクター) じゃないけどね。
だから、まぁ、サビーネちゃんがあっちへ戻る週末を嫌がるのは、分からなくはない。
そしてコレットちゃんは、うちの領地邸ではなく、実家に戻る。
数回に一度、週末にだけ戻ってくるというのに、仕事をさせてもあまり意味がないからね。
コレットちゃんに身に付けて欲しいのは、力仕事や単純作業じゃない。だから、前後の繋がりがない単発仕事を休養すべき週末にやらせても、百害あって一利なし、だ。
なので、御両親とゆっくり過ごして欲しい。何せ、まだ10歳の少女なのだから……。
サビーネちゃんは休めないのでは、って?
王族の教育方針に、私如きが口出しできるわけがないでしょうが!
……そしてコレットちゃんのテンションが下がったのは、アレだ。
10歳の女の子が、御両親と会えるのが嬉しくないはずがない。
ただ、あの村のトイレはアレで、たらいのお風呂もなかなか入れないし、食事もアレだ。
決して両親と会うのが嫌だというわけじゃないのだろうけど、もう、コレットちゃんはあの村では暮らせない身体になってしまったのだ……。
人間、一度味わった贅沢や快適な生活は手放せない。
贅沢は『素』敵だ!!
……いや、ごめん、トビアスさん、エリーヌさん……。
こうして、トビアス家からのコレットちゃん奪取計画は、順調に進んでいるのだだだ!!