軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

362 留 学 4

「え? 私達をおうちに?」

「ええ。他の方もお招きしておりますの。もし、よろしければ……。

うちの車と 忍(しのぶ) ちゃんのところの車、2台で行きますから、十分乗れますわよ」

クラスメイトの晴香ちゃんからのお誘いである。

……しかも、何と、お友達のおうち訪問イベントである!

ミツハのところを除けば、ふたりとも、初の『お友達のおうち訪問イベント』であった。

……そして、ミツハのところは、雑貨屋ミツハも領地邸も、『お友達のおうち訪問』というような感じではない。

なので、実質的な初イベントである。

ふたりの返事は、勿論……。

「「喜んで!!」」

綾小路晴香は、雇っている運転手により自宅から車で送迎されている。

なので、一緒に乗せてもらって晴香の自宅へと向かい、帰りも送ってもらえるそうなので、安全面では何の問題もない。スマホでマンスリーマンションのロレーナとミツハに連絡すれば大丈夫である。

ふたりに友達ができることを望んでいるミツハが反対することなどあり得ないということは、サビーネもコレットも充分承知している。

そして……。

『承認!』

一発で承認された。

今はマンスリーマンションにいるらしく、ロレーナに連絡する手間は省けた。

そしてふたりが普段と違う行動を取るため、帰宅までの間、ミツハはこのままマンスリーマンションにいるものと思われた。

今日は金曜なので、ふたりが帰ってくれば、向こうの世界へ戻る予定である。

夕食は、向こうで食べる。

週末は毎回向こうへ戻るというわけではない。日本での休日を楽しまなければ、留学の醍醐味の何割かがなくなってしまう。

ふたりは以前にも日本での休日を楽しんだことがあるが、ここでの『休日』というのは、勿論、クラスメイト達と一緒に過ごす休日のことである。

そしてたまに向こうへ戻るのは、勿論、そうしないと王様がうるさいからであった。

* *

「やっぱり、小さくて狭いんだ……」

晴香ちゃんの家を訪問して早々に、ついうっかりと失礼な感想をブチかましたサビーネ。

……それは、王宮と較べれば、大抵の個人住宅は小さくて狭いであろう……。

サビ・コレコンビは、日本の民家の内部はミツハの自宅しか知らない。

しかしサビーネは、あれはミツハが世界各地に持っている 隠れ家(セーフハウス) のひとつだと思っているため、そう気にしてはいなかった。隠れ家が大きくて目立っては意味がないと思ったので……。

しかし、ここは上流階級である綾小路晴香の自宅、『本宅』のはずである。

なのでサビーネは、少なくとも子爵家の王都邸くらいの大きさを予想していた。

それが、建物も庭も、男爵家や大店の商会主の自宅程度にも及ばぬものであったため、思わず溢した、まったく悪気のない言葉であった。

しかし……。

「「「「…………」」」」

綾小路家は、豪邸であった。

……日本の常識では……。

(ほ、ほら、外国の豪邸というのは、日本とは桁が違いますから!)

(しかも、おふたりは貴族ですからね! 多分、御実家はお城か何かなんですよ!)

(ノイシュヴァンシュタイン城とか、ああいうおうちですよ、多分!)

(…………)

晴香は、別に気を悪くしたりはしていないが、……ほんの少し、引いていた。

「ここが、私の部屋ですわ。応接室より、こちらの方が皆さん気を使わずにのんびりできるかと思いまして……」

晴香は、そう言って自室に皆を招き入れてくれた。

子供部屋ではあるが、友人が遊びに来てもいいようにとテーブルと椅子が置いてある。

広さも、充分である。

……そして、晴香のサビ・コレコンビ用の喋り方も女学院でのものがそのまま継続されている。

おそらく、家族には事前に事情を説明してあるのだろう。

でないと、病院へ連れて行かれかねない。

「では、飲み物を用意しますので、しばらくお待ちくださいまし……」

「「え?」」

晴香の言葉に、サビ・コレコンビが疑問の声を上げた。

「使用人やメイド達は?」

そう疑問を口にした、サビーネ。

「「「「…………」」」」

「ちょ、ちょっとお待ちくださいまし!」

そう言って、急いで部屋から出ていった晴香。

そして、しばらくして晴香が戻ってきた。飲み物とお菓子を載せたトレイを持った、ふたりの男女を連れて……。

「ようこそお越しくださいました。私、当家の執事見習いでございます」

「私、 客間女中(パーラーメイド) でございます……」

(こ、このふたりって……)

(ええ、晴香ちゃんのお兄さんと、お姉さんです……)

(((晴香ちゃん、無茶しやがって……)))

心の中でそっと涙を 拭(ぬぐ) う、クラスメイト達であった……。

現代日本においても、 執事のようなもの(・・・・・・・・) 、 メイドのようなもの(・・・・・・・・・) は存在するが、それは秘書とか家政婦のようなものであり、漫画に出てくるものとは少し違う。

……そして、私服を着ている。

そもそも綾小路家の使用人は運転手ひとりだけであり、執事もメイドもいないので、関係ないが……。

電化製品が発達した現代では、快適な生活を維持するために大勢の使用人を雇う必要がない。なので、使用人の纏め役である執事もまた、雇う必要がないのである。

せいぜい、運転手ひとり、家政婦ひとりがいれば充分であり、奥様が専業主婦であれば、家政婦の必要すらなかったりする。広い家の掃除のため、週1回ピンポイントで依頼することはあっても。

他国では、まだ複数の使用人を雇っている国もあるが……。

しかし、異世界のゼグレイウス王国においては、昔の西洋のように大勢の使用人を使っている。

炊事洗濯、掃除、お菓子作り、馬の世話等、全て人海戦術なので、快適な暮らしのためには多くのお金が、そして多くの使用人が必要なのである。

なのでサビ・コレコンビが綾小路家くらいの家であれば数人の使用人がいるのは当然であり、晴香が自分で飲み物の用意をすると言った時に疑問に思ったのは仕方ない。

使用人がいるのに令嬢が自分で飲食物の用意をするなど、令嬢自身にとって恥ずべき行いであるし、自分達がやるべき仕事を令嬢にやらせたメイド達の立場がなくなる。

主人からの叱責程度で済めばよいが、最悪の場合、解雇もあり得る。

なので、サビーネのあの言葉は、晴香と使用人の両方のためを考えての、忠告として口にした言葉だったのである。

そして執事見習いと 客間女中(パーラーメイド) の正体を知らないサビーネは、晴香とメイドの双方の失態を回避させることができたと思い、友のために役立てたと、にっこりと微笑むのであった……。