作品タイトル不明
361 留 学 3
今日は、実家ではなく、女学院の近くに借りたマンスリーマンションにいる。
ここにいる時は、金髪のウィッグにカラーコンタクト、眼鏡を掛けて、ファンデーションで肌の色を白人っぽくしている。
……某国の諜報部門のお姉さんに教わった、あまり手を加えなくても雰囲気や印象がガラリと変わる方法を試してはいるけれど、変えようのない『平たい顔族』の顔面骨格じゃあ、似合わないんだよねぇ……。
でも、留学の手続きとか色々で女学院の関係者とこの『変装後の姿』で会っているから、女学院の至近距離で行動する時にはこれで行くしかないんだよね。
私が日本人だとバレるわけにはいかないし、私と会ったことのある女学院の関係者といつどこで出会うか分からないから……。
「ミツハ様、お買い物に行きますが、何かご入り用のものはございますか?」
「あ、うん、特にないよ。食材はロレーナの好みでいいよ。おやつとかも任せる」
「 畏(かしこ) まりました。では、今夜は『かれぃ』にいたします」
「……お、おぅ……」
ロレーナは今、カレーに嵌まっている。
週に1度は、必ずカレーなのだ。
……いや、まぁ、いいんだけどね。私もサビ・コレコンビも、カレーは好きだから……。
それに、ロレーナが作るカレーは、私のより美味しいのだ。
まだ、作り始めて間がないというのに……。
……そう、ここには、領地邸のメイドであるロレーナが出張しているのだ。もうひとり、カティとの交替制で。
出張手当を 弾(はず) んでいるし、両替してあげた日本円でこちらのものを買って帰れるようにしてあげているから、ふたりとも、大喜びだ。
……勿論、買っていいものには制限を掛けているけどね。
大抵は、食べ物、化粧品、衣類、アクセサリーとかを買ってるみたいだ。
高価なやつじゃなく、安物ばかり。
多分、両親や兄弟姉妹の分だな。転売とかはやっていないだろう。
いや、別に、それくらいはやっても構わないんだけどね。この子達、真面目だからなぁ……。
普段の買い物は近くのスーパーだから、言葉が通じなくても問題ない。
カゴに入れてレジの人に渡し、事前にチャージしてある専用カードを機械に 翳(かざ) して『ワォン!』って鳴かせるだけだ。ロレーナもカティも、一回で覚えた。
……何度も繰り返し鳴かせたがって、困ったよ……。
お金のチャージは、私が定期的にやっている。
他にも、想定される事態に備えて、異世界語と日本語を併記したカードを何枚も用意して渡し、困った時にはそれを使うように言ってある。
……まだ、一度も使っていないそうだ。
何かあっても、困ったような顔をしたり、にっこり微笑んだり、早口で異世界語で捲し立てたりすれば、大抵のことは何とかなるそうだ。
下手に意思疎通ができると分かれば、しつこい男がなかなか諦めない、って……。
トラブルの大半は、そっちの方か〜〜い!
スーパー以外でも買い物をするそうだけど、このあたりの商店では『メイド服で買い物に来る、外国人の美人さん』として、ロレーナとカティは既に有名らしい。
値引きやオマケ、そして絡まれそうになるとすぐに助けてくれたりで、ちょっとした買い物は商店街で済ませることも多いとか……。
さすが本物のメイドさん、スペック 高(たけ) ぇ……。
あ、サビーネちゃんとコレットちゃんも似たようなものらしく、スーパー以外での買い物はかなり家計が節約できるらしい。
……なぜ、それが私にだけ適用されないのか!
いや、金髪変装時でもダメなんだよ、なぜか私だけ! わざと 辿々(たどたど) しい喋り方をしても、ダメなのだ!
ウィッグをつけているか髪を染めただけの、普通の日本人だと思われてるんだろうなぁ、多分……。
いや、その通りなんだけどね。
商店街のおっさん、おばさんの眼力、恐るべし!!
そしてロレーナとカティは家事を取り仕切ってくれているけれど、ふたりのメインの仕事は、それじゃない。
ふたりの本当の役目は、『雷の鳥5号』と同じ任務を果たすことだ。
……そう、それは『救助要請の受信と伝達』。
マンスリーマンションのベランダに取り付けられた、高性能の指向性アンテナ。
そしてその最大 利得(ゲイン) の方向は、勿論、ステラ・マリス女子学院がある方角である。
サビ・コレコンビに持たせてある、某国諜報部御用達の小型通信機。
腕時計型であるためバッテリーが小さいことと、アンテナが短く内蔵型であるため、電波の飛びが悪い。勿論、受信性能も……。
それをカバーするためには、 相手側(・・・) の性能が良ければいいわけだ。
無線通信は、1に 位置関係(ロケーション) 、2にアンテナ。3に出力、4に無線機の性能。
なので基地局側のアンテナに力を入れたわけだ。
これで、アンテナも出力もショボい腕時計型通信機からの電波を受信できるし、こっちからは大出力の指向性波を叩き付けられる。……力業だな、うむ。
勿論、ふたりにはスマホを持たせている。
でも、何かあった場合、スマホは落としたり奪われたりする可能性がある。
……しかし、誘拐犯も、スマホは奪っても幼女の腕時計までは奪うまい。
よし、完璧の母!
そして、私がマンスリーマンションではなく自宅やお出掛け中だった場合、サビ・コレコンビからの、スマホによる普通の連絡ではなく通信機による緊急連絡があれば、ロレーナかカティがすぐに自分のスマホで私に連絡するというわけだ。
それを受けて、私が直ちに連続転移でマンスリーマンションに駆け付ける。
マンションの無線機は固定局用の大きなやつで、アンテナの指向性もバッチリ。
そして外部スピーカーを繋いで音量を上げてあるから、カテ・ロレコンビが掃除や料理をしていても聞こえるから、大丈夫だ。
買い物とかは、カテ・ロレコンビが揃っている交代時か、私が来ている時、もしくはサビ・コレコンビが帰宅してから行く。
うむうむ、石橋石橋!
* *
「お帰り。ふたりとも、学校はどうだった?」
「「…………」」
「……え? どうしたのよ、暗い顔をして! まさか、苛められたり……」
「ううん……。ただ……」
「ただ?」
「これからの3カ月、学院では色々と楽しんで、はっちゃけようと思っていたんだ。だけど……」
「だけど?」
「礼拝堂に、長期間拷問を受けたらしき痩せ細った男が 磔(はりつけ) にされている像が、見せしめとして飾られてた……。
そしてその側には、それを見て薄笑いを浮かべている、赤ん坊を抱えた女の像が……。
アレを見て、ここでは絶対に教師に逆らっちゃ駄目だと思った……」
サビーネちゃんの言葉に、ガタガタと震えながら、こくこくと頷くコレットちゃん。
「そして、クラスメイトに『あれは何か。処罰を受けた者の像か』と尋ねたら、『 うん(イエス) 、 斬(き) り捨ての像よ』って……」
「何じゃ、そりゃあああ〜〜!!」
まぁ、面白そうだから、何も教えずに黙っておくか……。