軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

360 留 学 2

ふたりのために、定番の自己紹介が行われた。

勿論、先生もクラスメイト達も、一度に紹介されてもふたりは到底全員の名前を覚えきることなどできないだろうと思っていた。なのでこれは、ただの消化イベントに過ぎない、と……。

しかし……。

(ヒロセさんは、額が広いからヒロセ。ホソイさんは、目が細い。クボさんは、……ええと、清楚でお淑やかそうだから……、ううん、裏を掻いて、『ボクっ娘』の反対で、クボ!)

コレットちゃんは、それが事実かどうかは無視して、外見の特徴と名前を強引に結び付けて。

(…………)

そしてサビーネちゃんは、そのまま記憶して、全員の名前を覚えていたのである。

「ようこそ、日本へ! ……日本語、喋れるの?」

「大歓迎よ! ねぇねぇ、どこの国から来たの?」

休み時間になると、友好的に次々と話し掛けられるサビーネちゃんとコレットちゃんであるが、なぜかふたりの顔色が 冴(さ) えない。

「……あれ、どうかした? 日本語が分からないの? それとも、体調が……」

「……いない……」

「いないよ……」

「え?」

サビーネちゃんに続き、コレットちゃんも、何やら不満そうな顔。

「ど、どうしたの? 何がいないの?」

心配そうにそう尋ねるクラスメイトであるが……。

「お嬢様学校なのに、『〜ですわ!』って喋り方をする人も、縦巻きロールの人もいない……」

((((((あ〜〜……))))))

みんな、概ね察した。

よくある、アレである。

海外からの旅行者が、『忍者がいない!』、『みんなが髷を結っていない!』って言うやつ……。

あれと同じで、おそらく翻訳された日本のライトノベルを読んで、色々と期待していたのであろう。

しかし、それは仕方ない。

真実は、いつも今ひとつ、というヤツである。

そして……。

「私が、綾小路晴香ですわ! 仲良くして差し上げてもよろしくってよ! ホ〜ッホッホ!」

綾小路晴香は、勿論、そんなキャラではない。

遠い国から来た少女達の期待を裏切るに忍びず、やむなくそういう役割を買って出ただけであった。

……本当は、物静かな優しい少女なのである。

((((((あああああああっっ! 晴香ちゃん、無茶しやがって!!))))))

皆が心の中で絶叫するが、それはサビーネ達には聞こえない。

「おお! おおおおおおお!!」

「来ました! お嬢様、来ましたよおおおぉっ!!」

……もう、全てが遅かった……。

そして翌日、縦巻きロールの髪型で登校してきた晴香の姿に、クラスメイト達は、そっと涙を拭うのであった……。

* *

「ここが、この街での拠点だよ。そこそこ値の張る、マンスリーマンション!」

サビ・コレコンビの初登校の数日前。

様々な手続きや、ふたりを住居と学院の周辺に慣熟させるため、少し早めにこの街における拠点へと連れて来たのだ。

「「 三人一組(スリーマンセル) ?」」

「……ちょっと違うかな……」

マンスリーマンションとは、短期滞在……少し長めの出張とか、単身赴任とか……で使われる賃貸マンションだ。

似たのに、ウィークリーマンションとかがある。

普通の賃貸物件と大きく異なる点は、必要最低限の家具や電化製品……テレビ、冷蔵庫、ガスレンジ、電子レンジ、洗濯機、その他……が付いていること。

なので、短期滞在のために引っ越しをしたり、新たに色々と買う必要がなくて、便利なのだ。

借りるための手続きも、普通の物件を借りるような面倒さはなく、比較的簡単。

料金が少し高そうに思えるけれど、電気、ガス、水道、ネット回線料とかも含まれていることを考えると、それらの代金や、必要な家具の購入、いちいち契約したり解除したりする手間を考えれば、2~3カ月以内ならばこっちの方が楽ちんだよねぇ。

特に、架空の外国籍の身分で行動している今の私達にとっては、とても便利で、ありがたい。

まぁ、マンションを借りているというのではなく、セルフサービスのホテルに住んでいると考えれば、料金的にはずっとお得感がある。

いや、ホテル暮らしというのも不可能じゃないけれど、それじゃ、面白くないよね。

サビーネちゃんとコレットちゃんが、日本での留学生活を満喫するには……。

今回、割と大胆に行動しているのは、アレだ。

この街は、私の家がある街からはすごく離れている。県をいくつも跨いで。

そして、私達の身元は外国の貴族として、某国の王様が後見人になってくれている。

だから、もし私達の身分がバレたとしても、それは『異世界の王姉殿下(子爵閣下)が、勉強のため家臣の子供を留学させた』ということに過ぎず、辿れるのは戸籍を貰った某国の王宮か情報部までだ。

……そんなの、そこまで辿っても何の意味もないし、それ以上、どうしようもない。

日本人、山野光波とは何の接点もない。

それに、もしバレた場合は、さっさと撤収すれば済むことだ。

うん、危険はほぼないんだよね。

私も、一応変装はしておくし。

金髪ウィッグ、カラーコンタクトに伊達眼鏡、白人ぽい色になるファンデーション、その他諸々。

私自身の化粧技術は低いけれど、某国の諜報部門の女性に手土産持参で頼み込んで、簡単にできて印象がガラリと変わるような化粧……というか、変装というか……のコツを教えてもらったのだ。

お礼として、組織に提出しなきゃならないであろう報酬品とは別に、『これはあなた自身への、個人的な贈り物だから』と言って、小粒の宝石をあげた。

上の方に巻き上げられないよう、ちゃんと『これは個人的な贈り物。巻き上げたら、怒るぞゴルァ! 欲しければ、納得できる価格で買い取れ! その場合、いくらで買い取ったか、後で確認するぞ!』って 認(したた) めた保証書を付けといた。

小粒だから、そんなに高いものじゃない。

……向こうの世界では、ね。

勿論、 地球(こっち) でも、大した価格じゃない。……それが、地球産のものであったなら。

あの小さな宝石は、地球の物と全く変わらないかもしれない。

……でも、もし地球の物とは違う組成であったら?

成分、結晶構造、混じっているかもしれない、未知の物質。

いやぁ、そりゃ、 関係者(・・・) に良い値で売れるだろう。

私、今まで向こうの宝石は一度も持ち込んでいないからね、地球に。

その逆は、何度もやってるけれど……。

とにかく、個人的なお礼としては、充分だろう。

あの諜報部門のお姉さんの、結婚資金にでもなれば重畳だ、うん。

* *

こうして、サビーネちゃんとコレットちゃんは、地球……日本に3カ月間の短期留学を行うこととなったわけだ。

……私達に国籍(爵位付き)をくれた、 異世界懇談会(イセコン) のメンバーである某国の国民として……。

私の実家がある街からは遠くて身バレの心配がなく、そしてふたりに悪い虫が付く心配のない、お嬢様女学院。

本国(いせかい) からの送り迎えは私が転移でやるし、普段は近くに借りたマンスリーマンションから徒歩で通学する。

学院までは徒歩2~3分だし、登校の時間帯も下校の時間帯も、通勤や通学の人達でそこそこの人通りがある。とても、日本において10歳前後の子供ふたりを力尽くで誘拐できるような場所じゃない。途中には交番もあるしね。

借りた部屋は上階だから、通学路の一部はベランダから視界内に収められるし、学院の正門をくぐるところは確認できる。サビ・コレコンビの髪の色は目立つから、双眼鏡なしでも確認は容易だ。

いや、双眼鏡や望遠鏡も用意はしてあるけれど、覗きの不審者だと思われそうだから、使うのは必要な時だけだよ。

送り迎えはしないけれど、まぁ、日本における10歳前後の小学生の登下校としては、安全には配慮している方だろう。

勿論、防犯グッズはたっぷり持たせてある。

留学依頼には、某国の王室からの依頼文書と国王陛下直筆の手紙が絶大な効果を発したよ、うん。

一発でOKが出たね、短期留学の。

この学院は大学までエスカレーター式だから、超一流の大学を目指している者以外には受験戦争の荒波はあまり関係がない。

だから6年生でも、中学受験のためにあくせくしている者はいない。

うん、ふたりのせいで引っかき回されて人生が台無し、なんてことになる心配はないだろう。

……多分。

ま、そういうわけで、治安がいい日本の高級住宅地の近くにある女学院なんだけど、念の為に防犯ベル、防犯スプレー、タクティカルペン、GPS発信器、携帯電話、腕時計型の小型通信機……某国の諜報部の人にお願いしたら、貸してくれた……、その他諸々を持たせておいた。

私が側にいてあげられないのだから、私に助けを求められる手段と、私が駆け付けるまでの時間を稼ぐための手段を持たせておくのは、当たり前のことだよね。

そして、ふたりが私から離れている間は、 異世界(あっち) には戻らずに、私も日本にいる。

自宅か、借りたマンスリーマンションあたりに。

……でないと、ふたりに何かあった時に、連絡がつかないからね。

過保護?

いや、ふたりは以前、地球で誘拐されたことがあるからね。他国でのことだけど……。

各国は、あの事件の 顛末(てんまつ) を充分知っているはずだ。

それで、なおかつふたりに手出しをしたならば、……どうなっても知らないよ。

だからこれは、 不幸な国を(・・・・・) 作らないための(・・・・・・・) 、『優しさ』だ。

うむうむ……。