軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

355 敵 2

瞬間的な連続転移で、この邸の敷地内にある、人間が身に付けているもの以外の金銀宝石を、全て日本の自宅へ持っていった。

……隠し部屋や地下室にあるものとか、金庫の中身、地面に埋めてあるものとかも、全部。

いや、勿論、これは一時的なものだ。この状態のエスノール領の財産を 掠(かす) め取るというのは、さすがに私でもハードルが高すぎる。

ああいう手合いは、蓄えた財産は手元に置いているに決まってる。

だから、今までに貯め込んだお金や宝石を隠し場所から回収するために、あとでこっそりと戻ってくるに違いない。

無人となった邸など、証拠書類とかを持ち出した後は無価値だから、見張りや警備の者なんか配置されるはずがないからね。

……で、財産を持ち出そうとして戻ってきたら、何もない。

そりゃ、領主が見つけて自分の邸に持ち帰ったと思うよね。

そして、絶対に取り返そうとするに決まってるよね。

2年もかけて違法に蓄えた財産だけでなく、元々自分が持っていた分も含めた、文字通りの全財産なのだから。

今の代官は、巾着袋すら持たずに逃げ出した、文字通りの一文無しだろう。

そんな状態で他国に亡命しても、どうしようもない。

……だから、来る。

自分のお金を取り返すために。

私が、代官が逃げるのを追わなかったのは、そういう 理由(わけ) だ。

そして勿論、迎撃する。

私が。

雷の姫巫女が。

……山野光波が。

護衛の兵士さんが殺されたことの責任の一端は、私にある。

いざとなれば転移があるし、拳銃もある。

だから、敵対者を糾弾することに関しての危険を甘く見ていた。

この領地が人手不足で苦しんでいる中、忠誠心溢れる兵士を死なせた。

家族がいるであろう、兵士を。

……人の命を。

「……ヤマノ子爵?」

伯爵が、困惑したような顔で私を見ている。

女の子が涙を流すのが、そんなに珍しい?

……それとも、珍しいのは、修羅の顔をした女の子、かな?

「この件は領内のことであり、領主様の部下、身内の犯罪であり、反逆行為ですよね?

そしてその事実を、領主様本人が知っている。

もう、それ以上の証拠やら証人やらは必要ないのでしょう?

後はただ、領主様が死罪を申し渡すだけで……」

「うむ」

「そして、国から領地を任された領主様と王女殿下を殺そうとして襲ってきた場合、国家反逆罪として死罪、ですよね? その場で返り討ちになって死んだ場合を除いて……」

「うむ。本人と家族は死罪、一族郎党もただでは済むまい……」

「戦いの場で殺しても、罪に問われることは……」

「ない。それどころか、褒賞が貰えるであろう」

よし、オールクリア!

我が前方を遮る障害物なし!

「……奴らは潰す」

私の言葉に、こくりと頷くサビーネちゃん。

「山野一族の、怒りを見よ!!」

* *

代官を追っていった護衛兵士が、戻ってきた。

「……逃げられました。申し訳ございません……」

「まぁ、仕方あるまい。逃げるルートは予め決まっていたであろうし、奴は邸の構造を熟知しておるからな。おまけに、奴は帯剣しておらぬから、逃げるには有利だ。それに……」

領主は、敵兵の死体の足先の部分を、自分の足でコツコツと軽く蹴った。

別に、死体を 貶(おとし) めるようなつもりではなく、何やら確認しているような感じだ。

「このブーツ。それと、剣。

……帝国製だ」

「え?

帝国って、あの、アルダー帝国のこと?

いや。

いやいやいやいや!

この国とゲゲゲ姫の国、2回の侵略戦争でズタボロになって、私による帝都空襲を受けて、皇帝の強制退位と後継者争いでメタメタの、あの帝国?

まだ他国に戦争吹っ掛ける余力があったワケ?

皇帝の座を狙っている者達のうちの誰かが、実績欲しさに?

そんな馬鹿な!!」

「……ゲゲゲ姫? 帝都空襲? 何の事だ、それは……」

ありゃ、あの件はまだ知らないのかな?

まぁ、そのことはスルーしてもらおう。

「いや、おそらく、そうではないだろう。

今、帝国がこんな貧乏領に手出しするとは思えん。危険に対して、得られるものが少なすぎる。

なので、おそらく極一部の者達による独断行為であろう……。

領民から絞れるだけ搾り取って、最後に商家や領主邸を襲い私財も領地の運営資金も何もかも、根こそぎ奪って他国へ逃走、とでも考えていたのであろうな……。

今の帝国は、ボロボロだ。国を見限った下級貴族の領兵か、二度に亘る敗戦の責任を押し付けられそうになった部隊が国に見切りをつけたか……。

そして、この領地を見限って、同じくありったけのカネを掻き集めて持ち逃げしようとした馬鹿が、その誘いに乗った、というあたりか……」

「あ〜……」

それならば、分かる。

こんなに 杜撰(ずさん) なやり方だった理由が。

ずっと隠し通さなきゃならないってわけじゃなかったんだ……。

適当にやって、贅沢に暮らして、若い女性を手に入れて、……バレたら、その時点で領主を殺して根こそぎ奪い、逃亡。

元々そういう予定だったから、バレたらしいと分かった時点で、捕らえられる前に領主を殺しに来たわけだ。

案外、さっさと行動に移したかったのになかなか領主が怒鳴り込んでこないものだから、やきもきしていたのかも……。

自分から領主邸に乗り込むより、 代官邸(ホーム) で迎え撃つ方が安全確実だからねぇ。

なので、自分の護衛には領主の手の者ではなく帝国兵を使っており、護衛が代官の指示がなくても自分の判断で勝手に領主に斬り掛かったワケだ。

予め、そういう予定だったから。

利用している相手を護衛を兼ねて見張っているだけであり、別に代官の部下ではなく、本当の上官は別にいるから……。

「そうかぁ〜。そういうことかぁ〜……」

勿論、それが私の行動に何か影響するわけじゃない。

というか、より遠慮なく、より容赦なくやれる。

「よかった、代官の味方をするこの領の兵士は、いなかったんだ……」

「姉様、そんな、『病気の子供はいないんだ……』みたいに言われても……」

お兄ちゃんの、『感動するCMコレクション』を観たな、サビーネちゃん……。

とにかく、上官の命令に従っているだけの、この領の兵士と戦うという目はなくなった。

裏切り者ひとりと、敵国の兵士……、いや、戦争じゃないから、ただの『他国から不法入国した、盗賊団』だ。

ならば、何の遠慮も要らない。

……いや、勿論、宣戦布告があった正規の戦争であっても、遠慮なんかしないけどね!

悪党に人権はない。

「エスノール伯爵領の未来のために命を捧げた兵士さんとの約束を守るよ。

敵は、正規の兵士達に 非(あら) ず。ただの盗賊の群れだよ。

だから、これは戦争じゃない。盗賊達に襲われた貴族の、ただの自衛のための戦いよ。

……だから、陸戦条約も国際協定も関係ないよ」

まあ、ハーグ陸戦条約では『不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること』を禁じているだけだから、 必要な苦痛を与える(・・・・・・・・・) 兵器(・・) なら、問題ないわけだ。

そもそも、この国はそんな条約は批准していないし、ここは地球ですらないけどね!

「 兵装使用自由(ウェポンズフリー) 。オールセーフティロック・オープン。

我ら、悪党共には慈悲もなし!」

「ラジャー!」

帽子は被っていないけれど、挙手の敬礼をする、サビーネちゃん。

よし、準備開始だ!

* *

ウルフファングの 本拠地(ホームベース) には、私が借りている倉庫がある。

そこには、雑貨屋ミツハにも領地邸にも、そして日本の自宅にも置いておけないものが、色々と置いてある。

盗まれるとマズいもの。法律に引っかかるもの。……そして勿論、緊急用の武器弾薬とかも……。

緊急用というのは、転移してすぐに使えるように薬室にも弾が送り込んであり、安全装置も外された、『 裸の銃(アブナい奴) 』である。

勿論、安全装置が掛かったままのやつもある。

M2重機関銃、ミニミ軽機関銃、クレイモア( 指向性対人地雷(剣じゃない方) )、携帯式対戦車擲弾発射機(RPG)、小型迫撃砲、その他諸々……。

迫撃砲は、ちょっと射程距離が合わないか……。

今回の用途に適したヤツは……。

……よし、キミに決めた!!