作品タイトル不明
356 敵 3
「……というわけです」
「何が、『というわけです』だ! そして、この怪しげな男達は何だ!!」
あ〜、領主……、エスノール伯爵がそう言うのも無理はない。
迷彩服に戦闘装備を着けた5人のむさいおっさん達は、怪しく見えるよねぇ、この世界だと……。
いや、地球でもそうか……。
ついて来ちゃったんだよ、ウルフファングの隊長さんと、隊員4人が……。
私は、今回の件は私達だけでやるつもりだったんだ。
亡くなった護衛の兵士さんと約束したのは、私だからね。
……でも、私の保有分だけじゃ少し武器が心細かったから、予備の重機や軽機その他を貸してくれって言ったら、食い付かれた。
そして、連れてけ、絶対に行く、弾薬や消耗品、整備代金とかは貰うが依頼料や人件費は取らないから、と縋り付かれて、やむなく連れてきたのである。
『敵の人数も分かっていないんだろうが!』って言われたのも、少し効いてる。
確かに、敵が10人なのか100人なのかも分かっていないや。
但し、危機に陥らない限り手出し無用、と言ってある。
ウルフファングのみんなには、私とサビーネちゃんの護衛に努めてもらう。積極的な攻撃には参加させない。
渋られたけれど、ここは譲れない。
これは、私の個人的な約束を果たすためのものだ。
本当は連れて来たくなかったけれど、戦いは水物、何が起こるか分からない。
……もし、サビーネちゃんの身に何かあれば。
そう考えると、断りきれなかったんだよねぇ。
ただ縋られただけなら、却下したんだけど……。
「……神兵です」
「え?」
「だから、神兵ですよ。王都絶対防衛戦で古竜を倒し、帝国軍を蹴散らした……」
「…………」
胡散臭そうな目でウルフファングの5人を見る、伯爵。
いや、まぁ、とてもそうは見えないよねぇ……。
みんな、眼付きも顔付きも、悪党みたいだもんねぇ……。
神兵と言うより、悪魔の手先と言われた方が納得できそうだ。
ま、温厚で優しそうな傭兵は、あまりいないか。
地球でも、……そしてこの世界でも。
そういうわけで、私達が危機に陥らない限りは、オブザーバーというか観戦武官というか、とにかく手出し無用というわけで、オマケがくっついてきたというわけだ。
* *
「ああっ、待て! 動くな! そこを触ろうとするんじゃない!!」
色々と 準備(・・) をしていると、隊長さんがうるさい。
「頼む、それは俺達に任せろ! お前は触るんじゃない!」
え〜……。
* *
明け方。
皆、準備を整えて、紅茶を飲んでいる。
戦いの前に腹に食べ物を入れる馬鹿はいない。
領主邸では、見張り以外は皆、夜の間は仮眠を取っていた。
襲撃は夜明け頃だと思っていたけれど、敵がこちらの考え通りに動いてくれるとは限らないので、勿論兵士達は完全装備のままで浅い眠りに就いていたのであるが、夜間の襲撃はなかった。
まぁ、こっちは建物の内部構造に詳しいし、暗闇での戦闘は少数の側に有利に働く。
見張りがいないわけがないから、奇襲でネコミミ……、いやいや、寝込みを襲うということもできない。この世界の武器や防具は、隠密行動には不適だしね。
……これでは、敵が夜間に襲撃する利点がない。
逃亡する時に夜間の方が、というのも、追撃を指示するはずの伯爵や邸にいた者達が全員殺されれば、大混乱でそれどころではないし、ここは国境からそう遠くはない。
ならば、襲撃は明るい時で、どこかに隠れ潜んでいる帝国軍の一派を呼んで準備してから、ということを考えると、陽が沈む前ではなく、翌日の夜明け後だろうと読んだわけだ。
暗くなってから、代官邸に隠してあった財産を回収しようとしただろうしね。
伯爵も、その考えに同意してくれたし。
邸には、そんなに多くの兵士がいるわけじゃない。
職業兵士の数は元々そんなに多くなく、戦争の時には農民達が臨時に召集される。
なので平時である今は、兵士として活動している者は少ない。
そして、今は2年前の帝国軍の侵攻で多くの兵や一般民を失い、壊滅状態の軍を再建することよりも領地の運営を立て直すことが優先されている。
そのため、減った職業兵士は碌に増員されておらず、それどころか、兵士達は各村々に派遣されて農作業を手伝っていたりする。
……つまり、領主邸には今、最低限の使用人と僅かな警備兵しかいないというわけだ。
そして当然ながら、代官はそれを知っている。
ならば、領軍の兵士が呼び戻される前にと、朝イチで来ると思ったのだ。
あ、各村々に兵士を呼び戻すための伝令を送ろうとした伯爵に、それはやめるようにと進言した。
どうせ、街道には伝令を殺すための兵が伏せられているから、と言って。
なので、こっちの戦力は、伯爵と警備兵6人。
……プラス、 雷の姫巫女(わたし) と 第三王女殿下(サビーネちゃん) 。
圧倒的じゃないか、我が軍は。
ウルフファングの5人?
飾りだよ。戦いに参加してもらうつもりはない。
その他にも、使用人のうちの何人かが、壁に飾ってあった剣だとか鎧人形が手にしていた槍だとか肉切り包丁だとかを手にして、戦闘への参加を表明している。
伯爵は無駄に死ぬことはないと言って止めたけど、私が参加を許可した。
いや、確かに、敵と斬り合えばすぐに死んじゃうだろう。
おとなしく隠れていれば、敵の目的は財貨だけなんだから、わざわざ使用人を探し出して皆殺しに、なんてことは考えないだろう。
……つまり、生き残れるってことだ。
……でも、そんなことは関係ない。
こちら側には、死人どころか、ひとりの怪我人すら出さないから。
だから、勇敢で忠義心溢れる者達には、『領主邸絶対防衛戦に、武器を手にして参戦した』という、生涯に亘って誇れる思い出を作ってあげよう。
実際に敵と斬り結ぶことはなくても、 己(おの) が勇気と忠誠心を示したことには変わりない。それは戦いに参加したということであり、充分子や孫に誇れることだろう。
準備は、昨日のうちに終わっている。
邸の2階の四方に設置した、5.56ミリの軽機関銃。
弾は、30発入りの 弾倉(マガジン) じゃなく、200発の弾帯によるベルト給弾のにした。
30発なんかすぐ撃ち終わっちゃうから、弾倉交換が面倒だもんね。
多分敵は正面、正門から堂々と来るだろうけど、一応、4方向に軽機を置いているのは、 弾詰まり(ジャム) や弾帯の弾が切れた時、排莢や再装填をするより転移で別の軽機と交換した方が早いからだ。
勿論、そっちの方から敵が来れば、そのままそこにあるやつを使う。
敵が鎧を着ているかもしれないから M2重機関銃(ミートチョッパー) を使おうと思ったのだけど、隊長さんに却下された。
こういう時にフルプレートアーマーを着てくる奴はいない、ってさ。
あれは運んだり着脱したりするのにアシストする従者が必要だし、すぐに逃走しなきゃならないのにそんなの着てくる馬鹿はいない、って……。
そもそも、あんな重いもの、大人数での正面衝突的な戦いの時くらいしか着ないだろうってさ。
革製で金属プレートによる部分的な補強くらいの防具なら、重機関銃の12.7ミリどころか、7.62ミリですらなく、5.56ミリでも充分だろう、って……。
クレイモアは、開幕花火として1個だけ。ワイヤートラップや時限信管ではなく、リモコンで起爆させる。……正門から入ってくれないと、出番がないけどね。
RPGは念の為に用意しているけれど、必要が生じなければ使わない。
……消費すると高くつくからね。
私は軽機、クレイモア(1発のみ)、RPG(必要になった時だけ)を担当。
そして、サビーネちゃんが担当するのは……。
光学照準器(スコープ) を備えた、7.62ミリ弾を使用するオートマチックの狙撃銃だ。
ボルトアクションのものに較べて僅かに精度が落ちるが、超至近距離である今回は、そんな些細なことより連射性能というメリットの方が遥かに上回る。
勿論、非力なサビーネちゃんが銃を保持しやすいように、バイポッド付き。
これで、敵の 指揮官(トップ) を狙撃してもらうのだ。私には皆無の、射撃センスを活かして。
……殺すためじゃない。
殺さず、生け捕りにするための狙撃だ。
殺す時には、私がやる。