軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

354 敵 1

とりあえず、伯爵邸へと戻った、私達。

「……で、いったい何を始めるつもりだ?」

当然、それを聞いてくるカークさん。

いや、もう、偽名の『カークさん』は終了だ。

もう、伯爵は普通の貴族の服に着替えたから……。

「勿論、カチ込みです!」

「「カチ込み?」」

あ、適切な翻訳がされなかったか……。

「殴り込みのことです」

「ああ!」

「え?」

今度はサビーネちゃんには伝わったけど、伯爵には伝わらなかった模様。

殴り込み、って言葉に正確に対応した単語がないのかな? 日本語のまま発音しちゃってた?

サビーネちゃんは日本の時代劇や任侠物のDVDを観ているから、認識できたのかな?

「少数精鋭による、敵の中枢部に対する電撃奇襲作戦のことです」

「ああ……」

通じた。

……でも、『電撃』っていうのは通じるんだ……。

「とりあえず、代官のところへ行って詰問。焦ってボロを出すように仕向けて、サックリと。

まぁ、もしボロを出さなくても、この領地における立法権、行政権、司法権を持つ最高権力者である領主様が事実を知っている段階で、自白や証拠の有無なんか関係ないんですけどね」

そう、ここは民主主義国家じゃないし、人権なんか最高権力者にしかない世界なんだよねぇ。

善は急げ。悪はもっと急げ!

「さ、すぐに行きましょう!」

「……お、おぅ……」

カチ込みのメンバーは、私、サビーネちゃん、伯爵、護衛の兵士がふたり。

自分の領地で、すぐ近くにある直属の部下である代官の邸へ行くのに、物々しい護衛を大勢連れて行く必要はない。何せ、代官の邸にいる兵士達も皆、ここの領民であり、領主である伯爵の部下なのだから。

部長の命令で、社長を捕らえる平社員はいないよねぇ……。

それも、話の流れから、明らかに部長の方が悪いと分かった後で。

ま、もし何かあっても、 会長の娘(王女様) に剣を向けるヤツはいないか。

おまけに、私とサビーネちゃんは腋と太腿に護身用の 拳銃(ワルサー) を仕込んでいるし、いつでも転移で逃げられる。

問題、ないない!

「よし、出撃!」

* *

「突然、何の御用で? それに、その子供達は……」

子供 達(・) って、私は子供じゃないけどね! ここの基準でも、日本の基準でも!

もう、 二十歳(はたち) の誕生日は過ぎてるよっ!

とにかく、使用人に案内されて応接の間に通され、しばらく経って代官が現れたわけだ。

……ふたりの兵士を連れて。

いや、自分の邸の中で、上司である領主を迎えるのに、なぜ護衛が要る?

いくら領主が兵士をふたり連れているとはいっても、それは外を歩いてきたからだし、少女をふたり連れているからその護衛のためだと思わないか? 領主自身も帯剣しているけど、それも連れの少女を護るためだと……。

そもそも、訪ねてきた領主が護衛を連れているからといって、自分も護衛を付けるか?

それじゃ、やましいことがあって危機感を抱いていますと言ってるも同然じゃん!

まぁ、さすがに代官自身は帯剣していないけど……。

「小麦だけでなく、全ての税を7割5分にしているそうだな? そして、少女を無理矢理召し出しているとか?」

おおぅ、直球ど真ん中! 様子見のジャブとかはなしで、いきなりの右ストレート!!

まぁ、ここで持って回った言い回しをする必要はないか。

問い詰めて、なぜ領地を滅亡させるような、そして簡単にバレるような無謀なことをしたのか、その理由を……。

じゃっ!

どすっ!

「え……」

わけが分からない。

突然剣を抜いて領主に突きを放った代官の護衛と、領主の前に飛び出してその剣を自らの身体で受けた、領主の護衛。

苦悶の表情で、自分の腹に刺さった剣が抜けないよう、その剣の柄を敵の両手ごと握り締めて離さない。

そしてすぐに抜剣して、襲い掛かった敵兵を切り捨てる領主。

もうひとりの護衛は、同じく敵のもうひとりの兵士と斬り結び、相手を打ち倒している。

……何だコレ?

どういうことだ?

いや、状況は分かってる。

碌に会話が進まないうちに、代官が指示したわけでもないのに、向こうの護衛のひとりがいきなり領主に向かって斬り掛かってきた。

こっちの護衛も、まさかそんな馬鹿なことがあるなどとは思いもしていなかったからか、反応が遅れて抜剣が間に合わず、領主を護るために自らの身体を盾とし、自分の身体から剣を引き抜いた敵が再び領主に斬り掛かるのを防ぐために、敵の剣を押さえ込んだ。

領主を突き飛ばして、という方法を取らなかったのは、そんなことをすれば、まず無防備な体勢の自分が斬られ、その後、転んで剣を抜くこともできない状態の領主に剣が振るわれると判断したためであろう。

自分が盾となり敵の剣を封じれば、自由に動ける領主が簡単に敵を倒せる。

もうひとりの敵については、同僚の腕を信じていたのであろう。

敵も連携が取れておらず、もうひとりの兵士も仲間の攻撃を予測していなかったのか、こっちの護衛と同じく反応が遅れたため、ほぼ同時の抜剣となり、……腕の差で、こちら側の勝利となったわけだ。

……それは分かってる。

いきなりの斬り合い、殺し合いの推移は。

超至近距離で、ふたつの眼で、しっかりと見ていたから。

でも、分からない。

どうして、代官が言い訳もしないうちに。

代官の判断や指示も仰がずに。

代官より上位である領主にいきなり斬り掛かったのか。

なぜ代官は、すぐにバレるような 杜撰(ずさん) な、そしてもしバレるのが遅れたとしても領地が潰れるような馬鹿な真似をしたのか。

分からない……。

「あれ? 代官は……」

いつの間にか、代官の姿がない。

「逃げた。アランが追っている」

領主は、死んだ敵兵の検分をしながら、そう答えてくれた。

アランというのは、護衛の兵士の名前らしい。

そして、私達の足元には……。

「かっ、閣下、ごっ、御無事、です、か……」

我が身を盾として領主を護った、瀕死の護衛兵士が……。

どうやら、目がよく見えていないらしい。

そしてその傷では、到底助かるとは思えない。

「無事だ! お前のおかげで、 掠(かす) り傷ひとつないぞ! 大儀であった!

……家族のことは心配するな。決して悪いようにはせぬ。お前の忠義に報いると約束しよう」

「あ、ありがた……き、しあ、わせ……」

そして、もう殆ど目が見えないのか、見当違いの方へ顔を向けて……。

「ひめ、み……、エスノー、ル…… あす、ひか……り……」

苦しい息の中、必死に私に言葉を伝えようとする、護衛兵。

……分かってる。

「そなたの願い、聞き届けよう。

我、雷の姫巫女。サビーネ王女殿下。エスノール伯爵閣下。

この3つの光を輝かせ、敵を蹴散らし、エスノール領の明日を照らそう。

それは、そなたが命を懸けて掴み取った未来である。

誇るがよい。

そなたは 勇敢なる戦士達の楽園(ヴァルハラ) で、女神のお側から、自らがもたらしたエスノール領の夜明けを見るのだ……」

そして、護衛の兵士は私の言葉に幸せそうな笑顔となり、……事切れた。

その開かれたままの両眼にそっと指を添え、まぶたを閉じてやる。

「今まで多くの者を看取ってきたが、このような満足そうな死に顔の者は初めて見る……。

たとえ口先だけの 戯(ざ) れ 言(ごと) に過ぎなくとも、部下への 手向(たむ) けの言葉、感謝する……」

「え? 口先だけの戯れ言? 誰かそんなことを言ったのですか?」

「……え?」

そう、私は死にゆく者に嘘を吐いたりはしない。

……まぁ、私が輝かせるのは、火薬の炸裂による『汚い花火』だけどね。

じゃあ、仕込みを始めるか……。