作品タイトル不明
353 復讐の弾道 10
「そんな馬鹿な!」
あれから、話の主導権をカークさんが奪い取り、依頼主の少女から色々と根掘り葉掘り聞きまくった挙げ句の言葉が、これだ。
「小麦だけではなく、全てのものに7割5分の税が掛けられているだと!
収穫量が大幅に下がっている今、そんな税を掛ければ、民が生きていけぬじゃろうがッ!」
「……それで今、事実、そうなっている件について……」
うわ、ぎろりと睨み付けられたよ、人を殺しそうな目で……。
「しかも、若い娘を連れ去るだと!!」
そう。実は依頼主の少女にも、『お召し』の命令が来ているらしいのだ。
自分には間に合わなくとも、妹に『お召し』が来る前にと、様々な伝手を頼って相談したところ、ある人に勧められたのが、『姫巫女様への直訴』だったらしい。
……いや、切羽詰まっていたのは分かるよ?
でも、その余計なことを吹き込んだヤツ、後で調べて、シメる!!
ちなみに、母親と妹は、畑仕事に行っているらしい。
妹は、仕事をさせるためではなく、なるべく人目につかないようにして、『お召し』が来るのを防ぐためだとか……。
「……それで、子爵がそれを解決するという依頼を引き受けたわけだな、ええ?」
「……ハイ、ソノヨウデスネ……」
(助けて、サビーネちゃん!!)
私が、サビーネちゃんの方に援護要請の視線を送ると……。
にやり……
(あああああああ! 借りがどんどん増えていくうぅゥ〜〜!!)
「引き受けたのは、ミツハ姉様と私だよ。
ミツハ姉様は、雑貨屋ミツハの相談依頼部門の担当者として。そして私は……」
そこでサビーネちゃんが、軽く握った右手の拳を左胸に当てた。
「我が国に住まう民草を守る義務を背負う者、ゼグレイウス王国第三王女として!!」
ばっ!
カークさんが、直立不動になった。
そして、サビーネちゃんと同じく、右手の拳を左胸に当てて……。
「ゼグレイウス王国に、栄光あれ!!」
うひゃあ!
これって、騎士が王女様に忠誠を誓うとか、そういうヤツ?
サビーネちゃん、おっさんの忠誠心を煽るの、上手すぎ!
……サビーネちゃん、恐ろしい子!!
でも、どうやらカークさんは本当にこの状況を知らなかったみたいだ。
……ということは、当然のことながら、カークさんの直下の者から、直接村人達から過剰な税を取り立てている末端の徴税作業員までの間の、誰かが元凶というわけか。
いくら法外な税を取り立てていても、末端の者が悪党だとは限らない。
下っ端は、直近の上司からそのように命じられれば、それに従うしかないのだから。
そのあたりをカークさんに尋ねたところ……。
「税の取り立てに関しては、代官、その部下、下働きの徴収員、といったところだ。警備兵も代官の下に付くが、税の徴収には関わらん」
「あ〜、これは代官に決定ですねぇ……」
そう、他の者であれば、複数の部下や徴収員の足並みが揃わないだろう。おかしいと気付く者も出るだろうし……。
代官ならば、領主からの命令である『小麦だけ7割5分』というのの『小麦だけ』という部分を うっかり伝え忘れる(・・・・・・・・・) ということも可能だろう。
そして、領主からの命令書を持っているのは、自分だ。その自分からの言葉を疑う部下はいないだろう。
……すべては、そんなヤツを代官にした上、その後現場をきちんと確認しなかった、カークさんの責任だ。
「……他に、まともな人材はいなかったのですか? そんなのを代官なんかにしたら、領地が滅んじゃうでしょうに……」
そう、思いっ切り嫌みを言ってやったところ……。
「死んだ」
「え?」
「……死んだ。ちゃんと教育し、育て上げた家臣や文官、息子に娘婿、領軍幕僚陣、全部死んだわっ!
もう、身分や立場的に代官に任命できる者で手が空いていたのが、あれぐらいしか残っておらんかったのだ!
そしてあれも、能力は凡庸ではあるが、こんなことをしでかすような馬鹿ではなかったのだ!
……それが、なぜ……」
心底悔しそうに、握った両拳をぶるぶると振るわせているカークさん。
「……ごめんなさい……」
何も知らずに、酷いことを言ってしまった。
ほんと、ごめん……。
このお詫びは、必ずするよ。納得してもらえる形で。
「じゃ、とりあえず、今日は帰りましょうか」
「え?」
カークさんがぽかんとしているけれど、もうここではやることがない。
「あ、あの……」
途中から話について行けず取り残されていた依頼主の少女が、どうすればいいのか分からずにおろおろしている。
私達の話の内容から、カークさんがただの護衛じゃないことくらいは分かっているだろう。
……余程の馬鹿でなければ。
そして、今回の直訴モドキの手際から、この少女がそんなに馬鹿ではないということくらい分かってる。
なので……。
「あなたの依頼は、受理されました。そして本件は既にあなたの手を離れ、対処が進んでいます。
あなたは、本件の依頼人が自分であることを秘匿し、元凶達に対処が始まったことを悟られないよう、本件に関することは一切喋らないように。……全てが終わった後も、です。
ただ、あなたの行動がこのエスノール伯爵領と領民達を救ったのだという誇りをそっと心の中に 抱(いだ) き、幸せに生きるのです」
「……は、はいっ!」
よし、チョロい! 感動して、瞳をうるうるさせているぞ。
これなら、『姫巫女様からの命令』を守らないということはないだろう。
「子爵、いったい何をするつもりだ?」
私が何をするか?
うん、最初は、調査確認をして、然るべき筋……腐敗部分の直近上位の部署に知らせるか、王宮の大臣あたりに報告するとか、そういった『伝言役』だけにするつもりだったんだ。
いや、私はか弱い少女…… 二十歳(はたち) になったけど……なんだよ、それが精一杯だろう!
……でも、気が変わった。
「サビーネちゃん、とりあえず王宮に送るね」
さすがに、王女様を、いや、サビーネちゃんを危険に晒すわけにはいかない。
……たとえそれが、千分の一、万分の一の確率であろうとも。
「あははっ! 面白い冗談だね、ミツハ姉様!
……私が、我が国の民草のために姉様……、『雷の姫巫女様』が動こうとしているのに、ひとりだけ安全な場所へ逃げ帰るとでも?
……怒るよ?」
あ、サビーネちゃん、笑顔だけど、目が全く笑っていない……。
これ、いくら言っても無駄なやつだ。
そして、無理矢理転移で王宮へ連れていって置き去りにしたら、……絶対駄目なやつだ……。
「おい、子爵、先程からいったい何を……」
うん、カークさんや領民達が辛い目に遭っているのは、侵略してきた帝国軍のせいだ。
……それは分かってる。
そして領主であるカークさんが事実を知った今、私達がこのまま引き揚げても、問題は解決するのかもしれない。
税が当初の予定通りに修正され、全てが本来あるべき状態となり、国からの支援を少しばかり引き出す。
そして、数年後には皆が幸せに暮らせるようになる。
……但し、みんなが何とか領地を復興させようと頑張っているのに、それを食い物にして台無しにしようとした者達。
てめーは駄目だ!