作品タイトル不明
352 復讐の弾道 9
「……え? 姫巫女……、様……?
いえ、早すぎる! 日数が合わない!!」
あ。
王都からここへ来るのが一瞬だったから、普通に考えると、日数的な計算が合わないか……。
普通に考えれば、たとえ私が直訴状を受け取ったとしても、今頃はまだ出発のための準備中くらいのはずだ。
この世界では、馬車での長旅には着替えやら食料やら、色々と準備する必要がある。馬車と御者の確保も必要だし……。
また、姫巫女兼領主兼雑貨屋店主が、直訴状を受け取ってすぐに旅に出られるはずがない。
色々な仕事の調整とか、長期不在のための準備やら根回しやらも必要になる。
つまり、依頼を受けて、すぐに出発できるというようなものじゃないのだ。
……私以外は。
そして、移動に必要な日数……。
また、王都から遠く離れた田舎領の平民が、私の顔を知っているはずもない。
あちゃ~。
これって、直訴状を託した人が裏切るか捕らえられるかして、領主の手の者が、って思われるパターンだ!
そして勿論、私は姫巫女の名を騙って直訴の首謀者に自白させる役目。
「あわわわわわわ……」
ああっ、マズい! 完全に誤解してる!!
とにかく、誤解を解かなくちゃ!
「ここへ来るには、秘技、『渡り』を用いました。私達には、もはや距離など関係ないのです!」
「え……」
うむ、某有名アニメ続編の台詞で、誤魔化した!
「我こそは、雑貨屋ミツハの店主なるぞ!」
そして、少女の誤解を解き、安心させるべくそう宣言した私であるが……。
「……いや、そこは、『雷の姫巫女』ではないのか!」
伯爵に、突っ込まれた。
いや、ここでは無償奉仕の姫巫女としてではなく、相談屋として依頼を受けた、ただの商売人として行動するんだよ! 余計な突っ込みを入れるんじゃない!!
「……店主なるぞ……」
大事なことなので、2回言っておいた。
ここ、試験に出るよ!
「何の試験だ!!」
あれ、どうして頭の中にまで伯爵の突っ込みが?
「……全部出てたよ、声に……」
あ、ソウデスカ……。
「とにかく、配達人さんから 依頼のお手紙(・・・・・・) は受け取りました。
……で、御依頼は、『税率が高すぎて、戦争で父親を失った 母子(おやこ) には生きていけない。助けて欲しい』ということで間違いないでしょうか?」
「なっ!」
ふむ、カークさんが驚いて、動揺してるな……。
そうなると分かっていて、自分が課した重税じゃなかったの?
……いや、分かってる。
もしそうならば、こんなに無防備にサビーネちゃんの行動を許すはずがない。
マズい、と思ったり、重税を隠そうとしたりするはずだ。
それに、伯爵はそんな愚かなことをする人には見えない。
そりゃ、私に対する当たりは少々強いけど、それはまぁ、経緯から考えると情状酌量の余地がある。
サビーネちゃんの同伴を知る前の態度だって、不機嫌そうではあっても、一応は最低限のところはキープしてくれていた。
門前で待たされたのも、アポも先触れもなく上位の貴族家をいきなり訪問するという無礼をしでかした新米の格下貴族を 窘(たしな) めるための『教育的指導』としては、そう過激なものじゃない。
本来ならば、『取込み中だ』とか、『こちらの都合も確認せずにいきなり来る馬鹿がいるか!』と怒鳴られるとかで、追い払われても文句は言えないところだ。
それを、快く思っていないであろう私でも、少し待たせただけで『懲らしめるのは、これくらいでよかろう』とでも思ってくれたのか、割と早く邸へと通してくれた。
……そして、 王女殿下(サビーネちゃん) に対する、この忠誠っぷり。
だから、暫定的に、『伯爵、そう悪い人じゃない説』を採用したわけだ。
まぁ、完全に信用したわけじゃないから、『暫定的』なんだけどね。
伯爵はあまり腹芸は得意じゃなさそうだから、もし悪党だった場合には、ついうっかりと口を滑らせてボロを出すかもしれないから、 急遽(きゅうきょ) こういう作戦に変更したわけだ。
……え? 『うっかり八兵衛』はお前の役割だろう、って?
うるさいわっ!!
ま、伯爵が悪い人じゃなかったとしても、自分が出した命令についてどれだけ自覚しているか、そして領民の生活状況についてどれだけ認識しているかということを、私達が、そして伯爵自身が、はっきりと知ることができるだろうからね。
そして、なぜ 直訴が必要だという(このような) ことになっているのかという、原因も……。
* *
……で、少女から詳しい話を聞いているのだけど……。
さっきから、 伯爵(カークさん) の様子がおかしい。
顔色が悪く、そわそわしているというか、落ち着きがないというか……。
いや、理由は分かってる。
さっき私が 依頼主(・・・) に言った、依頼の内容。
アレは、明らかに『直訴状』に書かれるべき内容だ。
……それが、自領の領民から、『雷の姫巫女』に宛てて送られた。
領主たる者に、その意味が分からないはずがない。
警備隊長、代官、そして領主である自分さえ飛び越えて、雷の姫巫女に出された直訴状。
……普通、領主の次は王宮の大臣宛になるそうなんだけど、ここで正規のルートから外れたわけだ。
これで伯爵にも、 ヤマノ女子爵(雷の姫巫女) の、そしてサビーネ第三王女殿下の突然の訪問の理由がはっきりと分かったことだろう。
帝国軍との戦いで夫を、そして父親を失った 母子(おやこ) が直訴に踏み切らねばならないほどの状況となっており、更に警備隊も代官も、領主すら信用できないと考えていることも……。
もし自分がまともな領主、領民に対して誠実な領主だという妄想を抱いていたならば、こんな衝撃的なことはないだろう。
……そりゃ、蒼い顔をして、ブルブルと震えるわな……。
「おかしいだろう! 7割5分の税が掛けられているのは、小麦だけであろうが!
大麦、ライ麦、オーツ麦、芋、トウモロコシや、日保ちしないため他領や王都で売ることのできない葉物野菜、獣や魔物の肉、その他色々とあるだろう!
換金性の高い小麦は大半が税として取られても、食べるものに困るようなことはないだろう!!」
そう言って、突然怒鳴り始めたカークさんに、怯えて 後退(あとずさ) る少女。
「カークさん、ステイ!」
「犬かっ!」
私の制止の言葉に、不服そうにそう返すカークさん。
いや、依頼人を怒鳴りつけて怯えさせられちゃあ、困るんだよ!
「ごめんなさい! この人、私達の護衛なんですけど、ちょっと税を取られることに対して 心的外傷(トラウマ) があって……」
実際には『取る側』の人だけど、そんなことを言えば少女をますます萎縮させちゃうから、適当なことを言っておいた。
まぁ、今のはカークさんが悪い。
だから、私に雑なフォローで適当なことを言われても仕方ないだろう。うむ。