軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

351 復讐の弾道 8

「カツラ、ヨシ! 衣服、ヨシ! 靴、ヨシ! メーキャップ、ヨシ!

変装、オールオーケー!!」

よし、準備完了だ!

……私の、じゃないよ。

「……ヤマノ子爵。儂にこんな珍妙な恰好をさせて、いったい何を企んでおる?」

「私の護衛としての扮装、立派で頼もしい感じで、似合っておりますわよ!」

「……そ、そうですかな? 光栄の至り……」

私に文句を言いかけたのに、サビーネちゃんにちょっとリップサービスをされると、これだ……。

伯爵が単純なのか、大人を手玉に取るサビーネちゃんが、『恐ろしい子!』なのか……。

とにかく、準備完了だ。

社会勉強のため国内各地を旅して廻っている商家の姉妹と、護衛の凄腕傭兵。

……そういう設定なのである。

いや、伯爵家の生まれなんだから、幼い頃から剣の修行をさせられていて、当然強いよ、伯爵は。

剣の師匠は、勿論、領軍のトップクラスの遣い手だろうし……。

領地持ちのまともな貴族は、普通、一般兵よりずっと強いのが当たり前なんだよね。

怠け者の馬鹿息子か、家督を息子に譲って、『もういいや。貴族としての義務は果たした。あとは、遊んで、人生を楽しむぞ〜〜!!』とかいって、はっちゃけて贅沢で怠惰な生活を始めた年配者以外は……。

「それじゃあ、お忍びで旅をしている商家の娘、という設定である私達の護衛役である伯爵の偽名……仮の名は、私の祖国の有名な船長の名から取って、『カーク』ということにしましょう」

私の提案に、こくりと頷く、サビーネちゃん。

「良い名ですね、カーク……。

では、参りますよ、カークさんや……」

「なっ、何ですかな、その、怪しげな発音は……」

サビーネちゃんの、『カークさんや』という部分の発音に、何やら言いたいことがあるらしい、伯爵。

でも……。

「い〜んですよ、細けぇこたー!」

「は、はい……」

うん、伯爵は、サビーネちゃんには逆らえないのだ!

ふはははは!

……そしてサビーネちゃん、私の口真似をするのは、やめるのだだだ!

あ、そうだ……。

「あのぉ、カークさん、この印籠を持っていてくださいませんか?」

「意味が分からんわっ!!」

そういうわけで、伯爵邸を後にした、私達一行。

……勿論、少し距離を取って、平民に扮した隠れ護衛が何人も付いている。

伯爵本人はともかく、王女殿下の護衛が自分ひとり、というのは、伯爵には許容できなかったらしい。

うん、ま、そりゃそうか。

伯爵は、私が『危険を感じたら、みんな一緒に転移で脱出する』という必殺技が使えるということを知らないのだから……。

さすがに私も、これがなければ、そう簡単にホイホイとサビーネちゃんを護衛なしで連れ回したりしないよ。

私ひとりの時にも、もう少し慎重に、安全マージンを大きく取って行動するよ、さすがに……。

まぁ、そういうわけで、私達を基準にして考えたら駄目だよねぇ……。

それに、領内で、領主が一緒にいて王女様に怪我をさせたなんてことになれば、お家お取り潰しもあり得るかも。

……そりゃあ、護衛も付けるか……。

* *

「ここです」

「……ここは?」

伯爵が問い返すのも、無理はない。

典型的な、『ザ・貧乏農家』という感じの、ボロ屋。

少なくとも、貴族や姫巫女、そして王女殿下が訪れるようなところではない。

しかし、ここが私達がこの領地に来た理由なんだよね。

ちゃんと、事前に場所を確認しておいたのだ。

「ごめんください……」

「姉様、貴族や商家の娘が下層平民の家を訪ねて、そんなにへりくだった態度を取っちゃ駄目だよ!」

……初っ端から、サビーネちゃんからの駄目出しを食らった。

いつもは、そんなこと言わないじゃん!

あ、伯爵がいるからか?

一応、『この常識のない新興貴族には、私がちゃんと教育指導をしていますから』という、ポーズなのか?

……うん、まぁ、王女様にも、色々と都合があるのだろう……。

いや、そんなことは置いといて!

「は〜い!」

家の中から少女のものらしき声が聞こえて、すぐに玄関の戸が開けられた。

そして中から出てきたのは、声から予想した通りの、14〜15歳くらいの少女であった。

「え……」

私達の姿を見て、固まる少女。

私とサビーネちゃんは、まだいい。

でも、伯爵……護衛の中年男性、『カークさん』は、かなり 厳(いか) つい。

そして、見た目としては、私達ではなくカークさんが訪問者であり、私とサビーネちゃんがオマケに見えるんだよねぇ。

伯爵様、威厳と貫禄があるから……。

それに、さっき訪問の声掛けをしたの、私だし。

普通、そういうのはお付きの者の仕事だよねぇ……。

そりゃ、見知らぬ怖そうなおっさんがいきなり押し掛けてくれば、ビビるわな。

「あ、あなた方は……?」

あ〜怯えてるなぁ……。

まぁ、それも無理はないか。

こんな 強面(こわもて) のおっさんが、女の子がひとりで留守番している家に予告もなく突然押し掛けたんじゃ、警戒して当然だ。

これで、にこにこと笑顔で迎え入れたら、常識を疑うよね、うん。

なので……。

「雑貨屋ミツハ、相談依頼部門。お呼びとあらば、即、参上!」

「……え? えええ? えええええええええ〜〜っっ!!」

うん、そういうことだ。

……つまり、今、ここにいるのは『直訴を受けた姫巫女様』ではなく、『助けて欲しい、という依頼を受けた、雑貨屋ミツハの相談依頼部門担当者』というわけだ。

これなら、姫巫女である私が直訴を受けて乗り出した、というわけじゃない。ただの仕事の依頼を受けただけだ。

そしてこれなら、他の直訴……『依頼』が来ても、忙しいからとか、依頼の条件が折り合わないからとか、適当な理由を付けて依頼を受けなければいい。

……別に、姫巫女様による無料ボランティアというわけじゃないのだから……。

ただの仕事。依頼人と受注人の関係に過ぎない。

姫巫女としての仕事は、気が向いた時にだけやる、……って、別に私は無償でそんな仕事を引き受けるなんて言った覚えはないよ!

『雷の姫巫女』というのは、あくまでも私が勝手に名乗った称号に過ぎない。別に、無償で奉仕活動をして回るなんてことは、誰も言ってないよ!

神のしもべなら、無償で人を助けて回って当然?

いやいや、だって、神殿にいる大司教様だって、別に人を助けて回ったりしていないよね?

神殿から出ることなんか滅多になくて、豪奢な衣服を着て、贅沢な食事をして、美人の巫女を 侍(はべ) らせているだけじゃん……。

祈祷とかでも、喜捨という名の料金を取るし……。

うん、姫巫女も、無料活動はしなくていいだろう!

『信者』という字をぎゅっと縮めれば、『 儲(もう) け』という字になるが如し……。

……世の中、銭ズラ!!