軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345 復讐の弾道 2

「あ〜……」

サビーネちゃんが参謀に。

そりゃ、確かにつよつよだなぁ……。

「とりあえず、直訴状をよく読んで、検討してみようか。

受け取って、宛名と差出人を確認して、中身は一度さらっと読んだだけなんだよ。

木簡だし、崩れた字だから、よく読めなかったし……」

書いた者も、木簡に文字を書くのは慣れていなかっただろうし、筆記具の問題もある。

いくら私がこの国の文字の読み書きができようとも、それはまた別の問題だ。

日本語の読み書きができても、筆で書かれた達筆の崩し字が読めるかどうかとは別問題なのと同じだよね。

まあ、この字を書いた人と話をすれば、この崩れた字の読み書きもできるようになるのだろうけどね……。

「でも、どうしてわざわざ木簡なんかで送ってきたのかな? いくら田舎でも、紙が全く出回っていないわけじゃないでしょ? そりゃ、そう安くはないかもしれないけれど、買えないほどじゃないだろうし……。

木簡だと書きにくいだろうし、送るのにも 嵩張(かさば) って、却って高くつくんじゃあ……」

私が、そう疑問を呈すると……。

「ああ、それは、直訴の作法に関しては大昔に決められたままだから、『提出は、木簡にて行うこと』って規定がそのまま生きているから、提出媒体が木簡のままなんだよ。

直訴なんて、貴族にとっては嫌なことだから、規則を改定して便利なようにしようなんて誰も考えないのよ。そういうのを決めるのは、上の者達だからね。

そして下の者達も、直訴がやりにくくなるように改悪されるのを危惧して、あえて改定しようとは言い出さないのよ」

「なるほど……」

物事には、皆、それなりの理由がある。

それを理解した、私であった……。

「……で、この崩れた文字、読める?」

「大丈夫。碌に読み書きできない平民が書いた陳情書も読めるように、崩し字、悪筆、何でも読めるように勉強させられてるから」

さすサビ!

……って、待てよ?

サビーネちゃんがこの字を読めるなら、こうしてサビーネちゃんと会話している私にはその読み書きの能力が得られるから、私にも読めるようになっているはずじゃないの?

どうして、私にはこの字が読めないままなの?

やはり、『文字の読み書き』と『崩れた字を読み取る能力』は、別物?

くそ、面倒な……。

* *

「読んだよ」

おお、サビーネちゃんが、無事、木簡の解読に成功!

「……やっぱり、直訴というか、嘆願状だね。

いや、木簡である時点で、それしかなかったけれど……。

そして内容は、悪代官による高い税率、器量の良い若い娘の召し出し、刃向かう者の粛清という、まぁ、直訴状あるある3点セットだねぇ」

「うわぁ、やっぱり……」

「そして、勿論これは、自領の領主に出すべき直訴状だね。それが姉様のところに来たということは……」

「いうことは?」

「誰か、余計な入れ知恵をした者がいる、ってことかな。

ヤマノ女子爵ではなく、御使い様、『雷の姫巫女』としての姉様なら、訴状が届く確率が高く、そしてこの内容を知れば放っておけないだろうと見越した、悪賢いヤツが……」

「あ〜……」

確かに、これを見た時のサビーネちゃんの最初の言葉の通りだ。

やられた……。

* *

「……で、どうするの、姉様」

サビーネちゃんが、そんなことを聞いてくるけれど……。

「どうするもこうするも……。こんなの受け取って 無視(スルー) すれば、子爵家当主としての私はともかく、『御使い、雷の姫巫女様』としての私の評判に関わるよねぇ……。

内緒にしようにも……」

「うん、姉様の動きがなかった場合、『姫巫女様が、直訴状をお受け取りになったらしい』という噂が出回るかもしれない、ってことだよねぇ、 どこからともなく(・・・・・・・・) ……」

「「…………」」

「そしてその場合、『私が直訴状を受け取って動いている、ということを、相手側は知らない』という調査上のメリットがなくなる。

更に、国中の者に『ああ、直訴状は姫巫女様に出せばいいのか!』と認識させられる。

……踏んだり蹴ったりかいっ!!」

そう。本当に、文字通り『やられた』のである……。

でも、おそらく、直訴した人も入れ知恵した人も、悪い人じゃあないのだろう。

これが、自分に取り得る、最も確実性の高い手段だったというだけで。

皆のために自分の命を捨てるなら、少しでも確実性の高い方法を選びたい。

……当たり前のことだよねぇ……。

そして、これからたくさんの直訴状を受け取ることになるかもしれない私にとっては『多くの中の、ひとつ』に過ぎないけれど、その人にとっては、これはただひとつの、仲間達を救うための 乾坤一擲(けんこんいってき) の大勝負なのだろう……。

「で、サビーネちゃん、参謀としての献策は?」

「うん、とりあえず、姉様に直訴があったことが拡散されないよう、絶対に信用できる者以外には秘密にすること。

次に、さっさとこの件を片付けること。

……そして、 やっちゃった後(・・・・・・・) には、どうせ直訴した側と訴えられた側の両方から情報が漏れるに決まっているから、『今回限り』、『次に直訴してきたら、面倒だからその領地自体を滅ぼす』とでも告知して、再発を防ぐ」

むむむ、やはり、それしかないか……。

しかし、サビーネちゃん、チビっこくて腹黒い、まさに典型的な参謀役!

……チビくろ参謀、って、うるさいわっ!

* *

「ここが、エスノール伯爵領……」

……そう。あれから数日後、やってきたわけである。

あの直訴状の差出人というか、訴え人というか、とにかく私に助けを求めた者がいる領地に。

「そんなに急がなくてもいいのに……」

そして、あまり御機嫌のよろしくない、サビーネちゃん。

いや、連れてくるつもりなんかなかったよ、全く!

でも、参謀が付いていなくてどうするのか、とか、姉様ひとりだと何をしでかすか心配で、とか言われて、断り切れなかったのだ……。

さすがに、腹芸が必要な今回の作戦に、コレットちゃんを連れてくることはできない。

なので、コレットちゃんには内緒だ。

勿論、王様にも……。

そんなん、言ったら絶対に止められるやん!

そしてサビーネちゃんは、私とふたりで キャンピングカー(ビッグ・ローリー) での旅、と期待していたらしいのだけど、転移で一瞬のうちに移動しちゃったものだから、御機嫌ナナメ、というわけだ。

この大陸も新大陸も、某国の空軍や海軍の航空機でかなり飛んでもらったから、殆どの場所には転移できるんだよねぇ。

あ、その他の大陸も、色々と飛んでもらったよ。

ずっと飛び続けて世界一周したわけじゃなく、途中は転移でポンポンと飛ばしての飛行。

……うん、『8時間世界一周』だ。

ヴェルヌ先生、ごめんなさい!!

行ったことがなくても、高度を取って遠くが視認できれば『目視範囲内』ということで転移できるし、何もない上空であれば、転移先のポイント情報ではなく、『さっきいた場所から、何度方向、何マイル』という情報でも転移できることに気付いたのだ。

まぁ、位置情報による転移より場所指定に数秒余計にかかるし、空中とかであればともかく、地上だと色々と面倒なことがある。

民家の中に出現したり、大勢がいるところに出現したり、山の中や湖の中に出現したり……。

『いしのなかにいる』は、ご勘弁……。

いや、勿論、それを回避する安全機構があるから、そういう時には連続して次の転移が行われて、第二候補地点か出発点に戻ることになっているのだけど……。

出発点と限定しないのは、危機を避けるために転移した場合、元のところに戻ったとたんに死ぬかもしれないからね。

この数日のうちに、エスノール伯爵領については色々と調べた。

領地についても、伯爵家についても、色々ね……。

支配側は、私に直訴状が届いたことを知らない。

そして直訴した者も、ここから王都までの距離を考えると、私が来るのはもっと先だと思っているだろう。

なので、双方に知られることなく活動できる。

そのため、勿論サビーネちゃんと私は普通の平民の恰好をしているし、私は金髪のウィッグとカラーコンタクトを着けている。

よぉし、サクサク進めるよっ!