軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

346 復讐の弾道 3

ここ、エスノール伯爵領は、うちのヤマノ子爵領とは王都を挟んだ反対側にある。

……つまり、内陸側であり、帝国から侵略を受けた時に、かなりの被害を受けたところだ。

そして、当然ながら帝国軍の侵攻時には、足止めで精一杯。突破されたあとに、王都へと向かう帝国軍を追う余力なんかなかったらしい。

そして、その後王都側から逃げてきた帝国軍を、何とか立て直し再編した残存兵力で迎え撃ち、糧食を失っていた帝国軍に村や町が略奪され、更に逃げる帝国軍を怒りの追撃……。

もう軍も農民達もボロボロで、帝国軍が完全に去った後、領民全てが呆然と立ち尽くし、涙も涸れ果てて泣くことすらできなかったという……。

なので、王都における私とウルフファングの戦いは見ていないし、戦後の褒賞で余所者の小娘が一番の功労者として祭り上げられるのが、面白かろうはずがない。

勿論、領主や活躍した騎士、兵士達は勲章や報奨金を、そして領主には復興のための資金援助が行われたが、……何もせず王都でぬくぬくとしていた平民の小娘が担ぎ上げられ、叙爵、国からの金貨数万枚の報奨金、そして各領主達からの礼金が、更に合計数万枚……。

直接目にしていない者には、御使い様だとか神兵様だとか、火を吐く雷の杖、馬なしの 戦車(いくさぐるま) など、信じられるはずがないだろう。

なので、多くの周辺国と同じく、それらを兵士の鼓舞と対外的な政治的・戦力的パフォーマンスのための 仕込み(・・・) であろうと考えた。

ちょっと元気な、異国っぽい風貌の小娘を神輿に担ぎ上げての、国威高揚策。

……いや、そう考えるのも無理はない。

何も見ていないこの世界の者に、アレを第三者の口から言葉だけで聞かされて、はいそうですかと信じられるものではないだろう。

これが、自分には何の関係もないことであれば、笑って聞き流せる。

……しかし、自分達が命を懸けて、多くの仲間、多くの領民達を失って撃退した帝国軍が、わけの分からない小娘と『神兵』達の力によって追い払われたということにされた。

そりゃ、面白かろうはずがないだろう。

一応、国としての方策であることは理解しているのだろう。

だから、私に直接怒鳴り込んだりはしないし、王都でのパーティー等で顔を合わせれば、挨拶くらいはしてくれる。笑顔ではなく、仏頂面ではあるけれど……。

……そういうわけで、まぁ、ここの領主は悪い人ではないのかもしれないけれど、私に対しては、いささか手厳しい。

いや、勿論悪人かもしれないよ、そりゃ。それは私には分からない。

でも、一応表面上はそれを表さないだけの理性はある、ってことだ。

今回の訴状では、領主ではなく代官に関する訴えであるため、領主には関係なく……はないか。

代官の段階での是正が見込まれない場合は、その上、つまり領主に対処をお願いしなきゃならないのだから……。

そして代官の悪事は単独犯なのか、上からの指示によるものなのか。

……謎が謎を呼ぶぞ!!

いやいや、まあ、そういうわけで、とりあえずは『悪いヤツ』を局限しなきゃならないわけだ。

……どこからどこまでが悪いヤツか、ってことの見極めだ。

これをやらないと、動きようがない。

やっとのことで犯罪の証拠を掴んで警官を呼んだら、警察署そのものが敵の味方だった、なんてことになったら、目も当てられない。

そもそも、小さな町の警備隊なんて、代官の手下だよねぇ……。

なので最初は、『普通の平民としての覆面捜査』、キミに決めた!

* *

……というわけでやってきました、町の飯屋。

「大盛りオーク定食!」

サビーネちゃんが、元気な声で注文したけれど、私は……。

「小森のおばちゃま……小盛りのオーク定食で……」

この世界の飯屋の定食は、量が多い。

そりゃまぁ、客の多くが独身男性で、それもその大半が兵士、ハンターとかの戦闘職や、肉体労働者だ。たくさん喰うに決まってる。

そんな客層なのに、定食の量が少なかったりすれば、クレーム物だ。

だから、私が小盛りを注文するのは当たり前なんだけど……。

「どうしてサビーネちゃんは、そんなに食べるのよ!」

「え? 頭脳労働には、たくさんの栄養が必要だからだけど?」

「え?」

いや、確かにそういう学説が一時期広まっていたけれど、最近は『たいして変わらない』ってことになったんじゃあ……。

まぁ、サビーネちゃんはまだ子供で、成長期だ。そんなに太ることもないだろう。

……でも、サビーネちゃんの胃袋の容量は、どうなっているのだろうか……。

「定食を食べている間は、他の客の話に耳を傾けるよ」

「 了解(ラジャー) !」

小さな声でそう囁き、運ばれてきた料理を黙々と食べる、私とサビーネちゃん。

* *

「……いい話は聞けなかったなぁ……」

「そりゃ、誰が聞いているか分からない飯屋なんかで、支配者層の批判やら何やらをペラペラ喋る平民はいないよ」

「それもそうか……」

考えたら、当たり前じゃん!

というか、分かっていたなら先に言ってよ、 参謀役(サビーネちゃん) ……。

「じゃあ、第二作戦に移行するよ!」

「……大丈夫かなぁ……」

サビーネちゃんは心配そうだけど、この妖艶なる悪女ミツハの手にかかれば、男などこの手の平の上よ……。

よし、ターゲットは、今お店に入ってきた、あそこの15~16歳くらいの男の子二人連れ!

「あの〜、ちょっといいですか?」

「え? な、何かな……」

うむうむ、焦ってる焦ってる!

普通の平民の服装だけど、非番や休養日の新米兵士かハンター、それともどこかの勤め人か何かかな。

15〜16歳はここでは成人、大人だけど、日本だと高校1〜2年。まだまだ子供だ。

可愛い女の子に話し掛けられて、嬉しくない男の子はいないよね!

「えぇと、私達、ちょっと旅をしているのですが、この町に来たばかりで……。

何か、この町のことについて面白い話があれば教えてもらえないかな、と思いまして。

あ、お礼代わりに、食事代は持ちますよ!」

* *

世間話を聞かせてくれれば食事代を奢る、と言って、にっこりと微笑みかける、ふたりの美少女。

……平民の恰好をしているが、そんなはずがない。

整った容姿。

日焼けのあともない顔や腕。

擦り傷もアカギレもなく、細くて華奢な指。

艶やかな、長い金髪。

手入れに時間とお金がかかる長髪を維持できるのは、貴族か金持ちの女性だけである。

なので、ふたりの若者がこういう結論に達したのは、至極当然のことであった。

((冒険がしたくて家から逃げ出したお嬢様とお付きの侍女、キタアアアアァ〜〜!!))