作品タイトル不明
343 ソロリティ 8
アデレートちゃんとライナー子爵御夫妻には、土下座で謝罪した。
いや、謝罪しなきゃならない理由がないのに強要されたりすれば、絶対にそんなことはしないよ。
私にだって、意地や矜持はある。
……でも、大きな迷惑を掛けて、しかもそれが下手をすれば 大事(おおごと) になったかもしれない 危な(ヤバ) い橋を渡らせたとなると、それくらいしても構わない。
それは、別に自分の矜持を傷付けるようなことじゃない。悪いことをしたから、誠心誠意、謝罪する。……何の恥じることもない。
……でも、他の貴族家当主、しかも国家的英雄の雷の姫巫女に、額を床に付けて謝罪させたなんて話が広まれば、ライナー子爵家にとってはマズいことになるはず。
だから、真っ青になって『や、やめてくださいぃ!』、『全然気にしてなんかいませんから! お願いですから、やめてえぇ!!』と言って、許してもらえたのだ。わはは!
勿論、アデレートちゃんも、顔を引き攣らせながら許してくれた。
……この悪魔、とかいう呟きが聞こえたような気がしたけれど、きっと気のせいだ。
あとは、伯爵家と侯爵家のお嬢様方を迎え、なるべく爵位による上下関係をあまり意識しない、新大陸の『ソサエティー』みたいないい雰囲気にできればなぁ……。
* *
「ミツハ、『すーぱー銭湯』というのは、どうなっていますか?」
あああ、来たよ、イリス様からの催促が……。
化粧品の方は何とかなったと思っていたら、マッハの速さで、すぐにコレだ……。
マッハ・コレダー!!
ボーゼス領に色々と造っている、観光施設。
港や造船所を目玉にして、ボーゼス領を観光地にして人を呼び寄せ、お金を稼ぐ計画。
それの一環として、宿泊施設や飲食店と共に準備している、スーパー銭湯モドキ。
その建造の催促として、イリス様がやって来たわけだ。侯爵様と一緒に……。
私が『美容と健康にいい』と言って説明したからなぁ……。
化粧品と合わせて、ガッツリ食い付かれたのだ。
侯爵様は、ラム酒に。ベアトリスちゃんは新しい料理やスイーツに、同じくガッツリと食い付いてるし……。
「は、はい、計画の方は、順調に……」
……大嘘だ。
色々と忙しくて、それどころじゃなかったよ!
でもまぁ、全く目途が立っていないというわけじゃあない。
これが温泉とかだと、掘削だとか、自噴じゃなければ汲み上げなきゃならないとか、色々と難しいことになる。
このあたりは火山地帯じゃないから、火山性温泉とかは期待できないから、非火山性温泉で、深く掘らなきゃならないだろう。
東京は、1500メートルくらい掘れば大抵の場所で温泉が湧き出すと言われている。なので大都市の駅前ビルとかに『天然温泉』なんて看板が立っていたりする。
だから、このあたりでも、それくらい深く掘れば……、って、掘れるかあぁっ!
ボーリング技術も、そんな深度から揚水する技術もないわっ!!
……というわけで、最初から温泉ではなく、『スーパー銭湯』だと言っているわけだ。
『スーパー』と付いているが、銭湯である、銭湯!
なので、湧出水温だとか含有成分だとかは関係ない……って、ここには温泉法なんかないわ!
公衆浴場法も、何にも関係ない!
そして、『スーパー』の文字が付いているからには、ただ浴槽と洗い場があるだけではなく、娯楽施設としての機能がなければならない。
……そう、スーパー銭湯の存在意義、『娯楽と休養』である!
そのためには、風呂場には色々なものがなきゃ駄目だ。
熱い湯、ぬるい湯、水風呂、掛け湯、薬湯壺、サウナ、ジェットバス、その他諸々。
ジェットバスは、電気を使うわけにはいかないから、人力かなぁ。
孤児や仕事のない人を浴室内に待機させておいて、事前に購入しておいた 代用貨幣(トークン) を渡すことにより一定時間足踏み式の機械でジェット噴流を起こさせるとか……。
代用貨幣(トークン) は、他の店や施設でも使えるようにして……。
そしてトレーニングルームや、休憩場所、お食事処、甘味処、バー、その他諸々。
値段は勿論、観光地価格。
うむうむ、儲かりそうだな。
全体設計は、日本のスーパー銭湯を参考にして考えよう……。
建物は、ここの技術で建てて、中の設備のほんの一部だけ、地球で作らせよう。
勿論、修理とかはここの技術で何とかなるよう、ゴムやプラスチックとかは使わずに、皮や木、簡単な金属部品とかだけで。
……そんな仕事、受けてくれるとこ、あるかなぁ……。
「……で、どうなのですか!」
あ、またひとりで考え込んでた。
でも、ボーゼス家の人達はみんな、私が時々沈思黙考に入ることは知っているから、別に怒られるようなことはない。
「現在、色々と内部設備の検討中です。 暫(しば) し、お待ちを……」
うん、化粧品の方が順調に行っているから、イリス様もそんなにスーパー銭湯の方を 急(せ) かしているわけじゃない。目に見える形での進展がないから、ちょっと状況を確認してきただけだろう。
言い方が強いのは、……まぁ、そういう性格だとしか言いようがない。
なので、きちんと説明すれば、それ以上言われることはない。
激昂している時以外は、あまり無茶や無理を言うような人じゃないからね、イリス様は。
「……で、ラム酒とかいう酒の方は……」
「そっちは、サトウキビの栽培が軌道に乗ってからですってば!」
こういう話では、説明を聞いて納得すればサッと退いてくれるイリス様より、侯爵様の方がしつこいんだよなぁ……。
領地経営、領民の暮らしの向上とかを考えるから、それも仕方ないのだろうけど……。
何せ、ラム酒の製造、イコール砂糖の生産、ってことで、両方合わせて、何だか大儲けできそうな臭いがするもんなぁ……。
ま、ボチボチ行こうよ、ボチボチね……。
* *
……ある日、雑貨屋ミツハに直訴状が届いた。
いや、私が何を言っているのか分からないと思うけれど、それは私も同じだ。
数枚の木簡に綴られた、 拙(つたな) い文字。
いくら何でも、木簡というのは……。
そう安くはないとはいえ、紙はそこそこ普及しているし、羊皮紙とかもある。今時、木簡なんて……。
そして、その内容は……。
「ねえ、これって、どういうこと?」
当然のことながら、それを持ってきた者にそう尋ねると……。
「正式な手順を踏んだ直訴状だ」
「えええええ? 直訴状って、 下々(しもじも) の者が手続きを無視して直接すごく偉い人に訴状を渡すという、ルール無視の蛮行だよね? だから、訴状を読んではもらえても、直訴した者は全て死罪になるという……」
「え? いったい何を言っているんだ?」
「え?」
「「えええ?」」
どうも、話が噛み合わない。
「とにかく、確かに渡したからな! 直訴状については、依頼主についての一切の言及は禁止されてる。だから、俺からは何も言えねぇ。
受け取り確認や依頼完了のサインは要らねぇよ。そういうしきたりだ。そしてそれを読もうが読まずに捨てようが、それはアンタの自由だ。
じゃあな!」
そう言って、ドアに向かう配達人。
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
そう言って呼び止めようとしたけれど、それで本当に待ってくれるとは思っていない。
まぁ、形式的なものだ。
なのに……。
配達人は立ち止まり、私の方を向いた。
そして……。
「どうか、あの子達をお助けください、姫巫女様……」
そう言って深々とお辞儀をして、走り去っていった。
私が姫巫女様扱いされて敬語や馬鹿丁寧な喋り方をされたりするのを嫌がることは周知のことなので、普通に話してくれていた、配達人。
それが、最後になって……。
そして、どうすればいいのか。この、 直訴状(・・・) ……。
よし、困った時には、助けを呼べばいいのだ!
「招喚! 物知りサビーネちゃん!!」