軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

340 ソロリティ 5

イリス様の失言を利用して、何とか脱出に成功!

……さすがに、イリス様もあの失言はマズいと思ったらしい。

つまり、それだけあの言葉が私に対して『即死攻撃』だったと思ったわけだ。

あまりにも威力があり過ぎる、致命傷を与える攻撃だったと……。

……うるさいわっ!!

とにかく、そこを衝いて、よよよ、と泣き崩れる振りをしながら走り去る私を止めることは、王都邸執事のルーファスさんにも不可能だったのだ、わはは!

……嬉しかないよっ!

まあ、そういうわけでボーゼス侯爵家王都邸から脱出できたわけだけど、これはあくまでも一時的なものに過ぎない。すぐにまた、イリス様が『雑貨屋ミツハ』に来襲するに決まってる。

なので……。

* *

「馬鹿ですかっ! どうしてそれで ライナー家(うち) に退避してくるのですかっ!!

あのイリス様ですよっ! 女学院時代、ティノベルク侯爵夫人との『ドラゴンとマンティコアの戦い』と 比喩(ひゆ) された壮絶な争いは、今でも学院の伝説として語り継がれているという噂じゃないですか!

うちのお母様は何年か後輩で、在学期間は被っていないそうなのですが、それはもう凄い伝説が目白押しだったそうですよ! そんなの、うちに誘導するなああああァ~~っっ!!」

……イリス様、化け物扱いだった。

そして、普段の温厚な態度をかなぐり捨てたアデレートちゃんに、メチャクチャ怒られた……。

「以前ミツハが言っていた、アレです! 正当防衛……じゃない、緊急避難!

治外法権です、最恵国待遇ですよっ!!」

「アデレートちゃん、何を言ってるのか、分からないよ……」

……しかし、焦るあまり支離滅裂なことを口走るアデレートちゃんであるが、その言わんとしていることは、何となく理解できた。

そう、『 規則(ルール) になんか構っている余裕はない! 何をしても構わないから、とにかく被害を最小限に抑えるべく、あらゆる手段を講じるべし!』ってことだ。

そして今、私達に取り得る方法は……。

* *

「ミツハを出しなさい! 調べはついています。もし隠し立てするなら……」

ぎゃあああ!

聞こえちゃ駄目な台詞が、玄関の方から聞こえてきたぁ!

いくら何でも、貴族がアポなしで他の貴族家に押し掛けて、いきなり玄関で叫んでいい台詞じゃないよ! 下手すると、大問題になるよ!

ボーゼス侯爵様、どうしてイリス様を止めなかったの!

「お、おい、イリス、やり過ぎだ! それはちょっとマズいぞ……」

ありゃ、侯爵様も一緒だったか。

……そして、止められなかったのか……。

ライナー子爵様はご在宅のはずだけど、ボーゼス侯爵様御夫妻の相手をしている様子がない。

さては、逃げたな!

……いや、気持ちは分かる。

当主(じぶん) が顔を出してしまえば、後に引けなくなる。

いくら何でも、アポなしでいきなり怒鳴り込んできた他家の貴族をそのまま家に入らせて、娘の友人である少女……しかも雷の姫巫女、おまけに子爵家当主……を引き渡すわけにはいかないだろう。

そんなことをすれば、『ライナー子爵家が、娘の友人を他の貴族に売った』、『姫巫女様を売った』、『自分を頼ってきた他家の当主を売った』ということになってしまい、信用の失墜と、面目丸潰れである。

かといって、ボーゼス侯爵家を敵に回すのは、ライナー子爵家にとっては致命傷だ。

それを回避するには、どうすればいいか。

……そう、 自分がいなければいい(・・・・・・・・・・) のである。

ならば、ヤマノ子爵家とボーゼス侯爵家だけの問題であり、娘のアデレートが たまたまその場にいた(・・・・・・・・・・) というだけのことだ。

そして、その場所が、 たまたまライナー(・・・・・・・・) 子爵家だった(・・・・・・) というだけのことだ。

……逃げて当然、か……。

まぁ、侯爵家とは喧嘩はしたくないよねぇ、新興子爵家としては……。

しかも、相手があの、今、飛ぶ鳥を落とす勢いのボーゼス侯爵家とあっては……。

……巻き込んじゃって、ゴメン。

そして、 主(あるじ) 夫妻がいない今、使用人達だけでイリス様を止められるはずもなく……。

「いましたね、ミツハ!」

……遂に、アデレートちゃんの部屋までやって来た、イリス様。

「こそこそと逃げ回って……。私から逃げおおせるとでも思っていましたか?

さあ、覚悟を決めて……」

「お待ちしていました、イリス様!」

「……え?」

怯(おび) え、ガクガクと震えている私に向かって、『小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命ごいをする心の準備はOK?』とでも言いたかったであろうイリス様は、アデレートちゃんを背後に 庇(かば) っての私のその台詞が予想外だったのか、おや、というふうに片眉を上げて黙られた。

……よし、ここだ!

ここでの勝負に、私の命が懸かっているのだ!

「イリス様のために研究を重ね、準備しておりました製品が、ようやく完成したところです!」

「……え?」

意表を衝かれたのか、きょとんとしているイリス様。

よし、相手を呑んだ!!

「これをどうぞ!」

そう言って私が差し出したのは、4枚の額装写真。

イリス様のとベアトリスちゃんのが、それぞれ2枚ずつだ。

実は、『ソロリティ』の準備期間に、そうとは教えずにイリス様とベアトリスちゃんの写真を何枚か撮っておいたのだ。冗談半分の振りをして。

そしてそれを加工屋さんにお願いして修正。

更に、あの美容部員のお姉さんに加工前、加工後の写真を監修してもらって、『化粧技術で何とかなる範囲内』にぎりぎり収めたのが、これだ。

「なっ……」

イリス様、絶句。

侯爵様も、ぽかんと口を開いて固まっている。

そりゃそうだろう。実は自分が女神様だったとか、実は自分の妻が女神様だったとか知れば、そりゃ驚いて、固まりもするだろう。

「こっこっこっ……」

「こっこっこっ……」

鶏さんが2羽……。

「こっこっ、これは……」

「はい、イリス様とベアトリスちゃんがうちの化粧品でお化粧して、腕を上げた場合にはこうなるであろうという、予想図です。

でも、そのためには、おふたりに合った化粧品や化粧道具を選び、肌に合うかどうかを検証し、時間をかけて研究する必要があります。

小娘達にバラ撒く、大量生産の汎用品とは違いますからね、ええ!」

「……許します。直ちに試用準備に入るように!」

そして、イリス様と侯爵様は帰って行かれた……。

* *

「何て 危な(ヤバ) い橋を渡らせるのよ! 死ぬかと思ったじゃない!!」

まだ心臓がバクバクしている様子の、アデレートちゃん。

……でも、今日はアデレートちゃんの色々な素顔が見られたから、良しとしよう。

今までにないフランクな喋り方は新鮮だったし、何だか、親友度が増したみたいな気がして、ちょっぴり嬉しいな。

……しかし、裏口から逃げたらしいライナー子爵夫妻は、いつになれば戻ってくるのだろうか……。

今日はライナー家での夕食に招待されているんだけどな。

マルセルさんが、張り切っていたのに……。