作品タイトル不明
338 ソロリティ 3
うむうむ、招待状の返事の状況は、予定通りになっている。
絶対に加入して欲しいところには、こっそりと私とサビーネちゃんが参加することをリークしてあるし、力関係上やむなく招待状を送ったところからは、 ライナー子爵家(アデレートちゃん) の下に付く形になるのは嫌だと、断りの返事が来るか、無視されている。
……計画通り……。
新大陸の『ソサエティー』とは違って、 旧大陸(こっち) では、別に裏で暗躍したり、手の者を貴族社会の中枢へ、なんて必要はない。
……というか、既に王様や王女様、 王子様(ルーヘンくん) 、宰相様、そしてボーゼス侯爵家の皆さんと仲良しなのに、これ以上国の上層部に食い込む必要はないだろう……。
なので、こっちでは暗躍系はナシ、みんなで楽しくやって、メンバーの魅力やメリットを引き上げるのだ。
つまり婚約者を求めている殿方達に、競争率が高い上に全く脈なしの私は諦めて、美しくて条件の良いメンバーの女性達と、というふうに考えてもらうのだ。
そう、私に 攻撃(アタック) しようとした者は、その手前にある 爆発反応装甲(リアクティブアーマー) によって阻止、その爆発によって吹き飛ばされるのである!
ふはははは!
* *
「姉様が、面白いことを始めたと聞いて!」
「出たな、サビーネちゃん!!」
ライナー子爵家でアデレートちゃんと相談をしていたら、サビーネちゃんが突入してきた。
いや、王女殿下の御訪問だよ? 娘への取次ぎのために玄関先で待たせたりするはずがないよ、新興子爵家如きが……。
なので、 子供部屋(ここ) には事前に知らされることなく、子爵様が直接案内しての不意打ちだ。
私から見ると、子爵様の方が偉く感じるのだけど、実際にはサビーネちゃんの方が比較にならないほど上位なんだよねぇ……。
そして、王女様が一介の子爵家を御訪問されるなど、まずあり得ない。
……ヤマノ子爵家を除いてね。
なので、ライナー子爵様はガチガチに緊張して、血の気が引いた蒼い顔をしている。
まぁ、王女殿下の機嫌を損ねたり、何か不手際があったりすれば、どうなるか分かったもんじゃないからねぇ。
紅茶が熱すぎて舌を火傷したとか、自分で勝手に転んで膝を擦りむいたとかいうだけでも。
いや、実際にはサビーネちゃん本人も王様も、そんなことでどうこうするような人じゃない。
でも、それは王様達と仲良くしている私だから言えることだ。
普通の下級貴族にとっての王様は、謁見の間とかで数年に一度、離れた場所からお顔を拝見する程度。そして、真面目くさったお話を聞くくらいだ。
そしていくら温厚な王様だという噂が流れていようと、娘を怒らせたり怪我をさせたりした下級貴族に対してもそうであるとは限らない。
しかも、訪問の目的が分からない。
アデレートちゃんが始めた『ソロリティ』関連だとは思っても、それに対する文句や苦情である可能性もあるのだから。
……そりゃ、焦るか……。
なので、子爵様を安心させるために、まずは一発……。
「サビーネちゃんの役職は、もう決めてあるよ。名誉会員兼 副会長(わたし) の補佐兼マスコット。それと、コレットちゃんが来る時の世話係。……この中に、嫌なのはある?」
「ないよ! さすが姉様、分かってるね!」
笑顔のサビーネちゃんと、ほっとした様子のライナー子爵様。
よしよし……。
安心したライナー子爵様が席を外し……子供同士の歓談にずっと張り付いているほど非常識な大人じゃないらしい。娘が王女様とどんな話をするのかは気になっただろうけど……、あとは3人で悪だくみ。
* *
「じゃあ、第0回のお茶会は、そんな感じでいいよね? その時はコレットちゃんも『お化粧の見本』として参加してもらうからね?」
「「異議なし!!」」
新大陸の時と、ほぼ同じ流れのものを提案したところ、アデレートちゃんとサビーネちゃんの同意も得られた。
実戦証明(コンバット・プルーフ) 済みの作戦は、安心感が違うねぇ……。
そしてまた、あのデパートの美容部員のお姉さんの出番だ。
いや、今回はホテルとかに来てもらうんじゃなくて、最初の時と同様、デパートでコレットちゃんにお化粧してもらうだけだから、通常料金だ。
……あ、その役目、サビーネちゃんでもいいのか!
いやいや、そうするとコレットちゃんの出番がなくなるし、サビーネちゃんにあまり強力な武器や手札を持たせるのは、何か怖い。
ここは、やはりコレットちゃん一択だな。
あ、アデレートちゃんは、あのデビュタント・ボールの時に貴腐人店長作のドレスを着たけれど、お化粧はこの国のものだった。だから、私が『母国のお化粧技術』って言っても、大した反応はしていなかった。
……そりゃ、無理もないか。そもそも、友人達による母国からの支援物資が大量に届く、っていう設定なのに、私自身が基礎化粧品やリップクリーム程度しか使っていない、……つまりこの国の人達から見れば、ほぼ ノーメイク(すっぴん) なのだから……。
この国じゃあ、12歳前後であっても、貴族のお嬢様はちゃんとそれなりのお化粧をしている。
だから、15歳になって成人し、デビュタント・ボールを済ませたアデレートちゃんやベアトリスちゃんは勿論、まだ11歳後半であるサビーネちゃんも、ちゃんとお化粧しているのだ。
さすがに、まだ自然のお肌がピチピチのみんなは厚塗りの化粧はせず、 眉(まゆ) や 睫毛(まつげ) を整えたり、 頬紅(ほおべに) や 唇の光沢剤(リップグロス) を塗ったり、という程度だけど……。
とにかく、王姉殿下だと思われている私が、ほぼ ノーメイク(すっぴん) なのだ、アデレートちゃんが私の母国の化粧技術に期待するわけがない。
サビーネちゃんは、日本や新大陸で、日本式の化粧をした人達を何度も見ている。
それに、テレビやDVD、ブルーレイ、ファッション雑誌とかで色々と知っているはずだ。
……でも、サビーネちゃんは元々美少女だし、お肌の手入れとかは侍女達の手で完璧に行われている。そしてまだ11歳という年齢が無敵の武器となっており、お化粧にはあまり興味がなさそうだ。
そもそも、サビーネちゃんにはまだ、『容姿で男の目を引く』という考えが全くない。
まだお子様だからなのか、『強者の余裕』というやつなのか……。
ここには、『ナチュラルメイク』という概念はない。
化粧は、塗りたくるもの。
その手間と財力を見せつけるもの。
手間とお金をかけたのに、それが目立たないように自然に仕上げる、などという概念は理解されていないらしいのだ……。
がっくり。
あ、勿論、分かってはいる。
ゆっくりだけどあらゆる怪我が完全に治る、という私には、 基礎化粧品(スキンケアアイテム) は必要ないのでは、ということは……。
塗りたくったり加工したりするためのもの、いわゆる『メーキャップ化粧品』はともかく、皮膚を 健(すこ) やかに保ち、お肌を整えることを目的とする基礎化粧品は、私には不要なのではないか……。
いや、しかし!
女性として、何年も続けてきたこの習慣をやめるのは、勇気が要る。
……もし、肌が荒れたり傷んだり、紫外線の影響を受けたり、皮脂、毛穴に詰まった角栓などは自動サポートの対象外だったとすれば。
そしてそれに気付いた時には、すなわち、もう既に手遅れだということに……。
そんな危険、冒せるかあああぁ~~!!
……はぁはぁ……。
とにかく、基礎美容、スキンケアは続けるのだだだ!!