作品タイトル不明
333 婚 約 2
(なっ……! ど、どうしてミツハは淡々とそんな話ができるのだ?
ミツハはアレクシスと良い感じなのではなかったのか?
ミツハに一番近い男はアレクシスであり、他には男の影など一切なかったはず……)
勿論、ミツハを狙う者は多い。
しかし、ミツハにはそんな気は全くないため、パーティーとかで若い男に声を掛けられても、その場限りでの軽い会話や交流に留まり、後日会うための約束をすることも、個人的な繋がりを持つこともなかったのである。
ミツハがパーティーとかで真剣に話をするのは、ヤマノ子爵領の生産物を買ってくれそうなところの領主とか、面白い話を聞かせてくれたり役に立つことを教えてくれたりする年配者、……つまり結婚の対象とはならない者達であった。
また、ボーゼス侯爵や国王一派がミツハに若い男性が近付きすぎるのを阻止していたし、若い男性同士での牽制合戦も、ミツハに特定の男性ができるのを防いでいた。
そもそも、ミツハは自分に近付く男性は全て、ミツハ自身を好きになったわけではなく、御使い様、雷の姫巫女、優れた技術を持つ大国の王姉殿下、神器を持つ神兵を呼び寄せることができる軍事兵器、等の利用価値のみを見て寄って来ていると思っていた。
それに、ミツハはこの辺りでは自分が12~13歳くらいに見られているということを知っている。
なので、そんな自分に近付いてくる男性は、ロリコンか利用価値目当てに違いないと考えて、避けまくっていたのである。
婚約の打診であれば、分かる。貴族ならば、利用価値目当てに家同士の繋がりを求めるのはおかしくはないし、成人前の者に申し込むのも、ごく普通のことである。
……しかしそれは、ボーゼス侯爵と王様によって握り潰される。
婚約の申し込みは、本人にではなく、親か後見人に対して行うものなので……。
そう。ボーゼス侯爵達の目をかいくぐって、ミツハに悪い虫が付くことはないはずであった。
(なのになぜ、アレクシスが第一王女殿下とくっつくことに対して何の感情も示さず、それを当然のことのように話す?)
ミツハをボーゼス家の娘に、という、自分と妻の望みが 潰(つい) えようとしている。
そのことに、動揺を隠せないボーゼス侯爵であるが……。
(いや、しかし、第一王女殿下とアレクシスが結婚するということは、それはそれで良縁ではある。
……それに、ミツハは可愛いものが好きだ。
ならば、アレクシスではなく、テオドールと結婚させてはどうだ? 歳も近いし……。
侯爵家を継ぐテオドールの嫁になってくれれば、私やイリスとも、ずっと一緒に暮らせる。
両親を亡くし、弟とも会えないミツハに、私達が新たな両親と 弟兼夫(・・・) になってやればいいのではないか? テオドールの方が年上だが、優しく、少し小柄で童顔のテオドールであれば、ミツハの弟に対する想いの受け口になれるだろう。
そうだ、それがいい! 何たる名案か!!
すぐにイリスと相談せねば……)
ミツハの 与(あずか) り知らぬところで、何やら不穏な陰謀が生まれつつあった。
そして……。
(すぐにテオドールと婚約させて、ミツハが成人すれば、……あれ?)
ボーゼス侯爵は、違和感を覚えた。
(……ミツハは、今、何歳なのだ?)
そして、記憶を呼び起こす、ボーゼス侯爵。
(初めて会った時、ミツハは12歳前後に見えた。
……勿論、いくら未成年の子供とはいえ、女性に年齢を尋ねるのはとんでもない失礼なので、年齢を確認したりはしていないが……。
あれから2年近くが経ったが、その間、ミツハから自分の年齢や誕生日の話が出たことは一度もない。
そして今、ミツハは……、12歳前後に見える。
子供にとって、2年というのは大きい。
その間に、もう年齢的に身長が伸びきっていたアレクシスはともかく、テオドールとベアトリスはかなり大きくなった。
そしてミツハは……。
あの時のまま(・・・・・・) 、今も12歳前後にしか見えない……。
そしてミツハは、『渡り』の秘術を使うと生命力が、とか言っていた。
後に、本当は別に寿命が縮んだりはしない、と言っていたが、生命力というものは、別に寿命だけに関係するものではあるまい。
……たとえば、身体の元気さとか、成長する力とか……。
……おい。
おいおい。
おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!)
ボーゼス侯爵、ようやく気付いたようである。
「ミツハは、今、何歳なのだ……」
「……え?」
ミツハは、痛恨の一撃を受けた!!
「あ……、えっと、その……」
「……」
「そ、それは、淑女にしていい質問では……」
「…………」
「乙女の尊厳というものが……」
「………………」
「「……………………」」
室内が、静寂に包まれた。
静謐(せいひつ) な静寂ではなく、嫌~な雰囲気の静寂である。
……たらり。
額から汗を流すミツハ。
(ま、ままま、マズい! 遂に気付かれた! 私が全然成長していないということに……。
しょっちゅう会っていれば、成長していようがいまいが違和感はないと思っていたけど、さすがに物事には限度というものがあったか……。
子供の吸血鬼は成長しないからすぐに人間達に違和感を抱かれるので、しょっちゅう引っ越しをしなきゃならないので大変、というのは、コレか……)
エドガーの家族(ポーツネル家) の苦労に気付いた、ミツハ。
(そういえば、20代の背が低くて童顔の可愛い系日本人女性が、外国で『あの子は何年経っても全然歳を取らない』、『きっと妖精に違いない』と言われて、 崇(あが) められていたとかいう話もあったなぁ……。
崇められるならまだしも、魔女とか吸血鬼とか言われたら、迫害されちゃうんじゃあ……)
そんな心配をしているミツハであるが、ミツハの場合、疑われるのは『御使い様ではないか』、『女神の御寵愛か御加護を受けているのではないか』ということになるに決まっている。
(駄目だ、逃げ切れない!!)
そしてミツハは、遂に観念した。
「あ、あの~、その~、……せ、成人したばかりです……」
日本とは違い、この辺りの国では、成人年齢は15歳である。
なので、こういう言い方をすれば、日本での成人年齢なんか知らないボーゼス侯爵は、ミツハが15歳になったばかりだと思うだろう。
そしてミツハの言葉は、『余計な情報は含まれていない』というだけであり、嘘は言っていない。
初めて会った時には12歳前後の外見であり、それから2年弱、という状況からも、矛盾はない。母国では大事にされており、『渡り』の力を使わされることなど滅多になかった、ということであれば、この国に来た時点では年齢相応……やや小柄だが……の外見だったとしても、何もおかしくはない。
(よし、最小限の被害だけで、何とか乗り切った!)
そう思い、安心したミツハであるが……。
「……で、何歳なのだ?」
(しつけーぞ、テメー!!)