作品タイトル不明
332 婚 約 1
「とりあえず、パーティーを開かねばならん」
「えええええ!」
他の人のパーティーは何度か仕切ったけれど、自分のパーティーなんかやったことがないよ!
だって、自分がパーティーなんか開いたら……。
「……お金がかかりますよね?」
私が、情けなさそうな顔でそう言うと……。
「それは後見人が主催者となるので、うちが払う。
……あ~、そんなに申し訳なさそうな顔をするな。後見人というのはそういうものなのだ。
ミツハに自分で払わせたりすれば、うちの面目丸潰れとなり、その方が大迷惑だ」
「あ、なるほど……」
言われてみれば、その通りだ。納得。
でも……。
「どういう名目で開くのですか、そのパーティー……。
まさか、私の婚約者選定パーティー、とかいうわけじゃないですよね?
うちの国では、女性の結婚年齢は、早くて24~25歳、遅ければ34~35歳以上ですから、私はまだ当分、結婚する予定はありませんよ?」
「……遅っ! 結婚年齢、遅っっ!!
……いや、いくら嘘でも、それは少し、いや、かなり無理があり過ぎるだろう……」
いや、まあ、ボーゼス侯爵様が信じてくれないのも無理はない。この世界じゃ、結婚適齢期は成人年齢である15歳から、23~24歳くらいだもんなぁ……。
25歳以上なんか、再婚か、何か余程の事情があった者だけだ。両親の介護とか、親を亡くして幼い弟妹を育てねばならなかった、とかね。
まあ、女性がひとりで生きて行くことを想定していない社会形態だし、子供の死亡率が高いから、若いうちに大勢の子供を、って考えだし、高齢出産を支えられるだけの医療体制もないしねぇ。
現代地球と較べちゃいけないか……。
でも、ここでは12~13歳くらいに見える私には、さすがに結婚はまだ早いだろう。
しかし、貴族や王族は生まれてすぐに婚約が決まるとか、別に珍しいことじゃない。
両親が申し込みを撥ね返しているベアトリスちゃんとか、婚約者を亡くされて傷心の一の姫様のことを考えて子供達全員の婚約の話を排除している王様一家が異常なだけなんだよねぇ。
……というか、さすがに王太子殿下は婚約してるか。まだ婚約していないのは、王女様3人と、まだ幼いルーヘン王子だけかな。
新大陸でも、ソサエティーのメンバーの多くは婚約者持ちだったし……。
ソサエティーのせいで本人の商品価値が上がったから、婚約を破棄してもっといい相手と、とかいう野望に燃えている子もいるし……。
スマン、元の婚約者さん……。
ホント、スマンかった……。
「まあ、それはともかくとして、私、まだ当分は婚約者を決めるつもりなんかありませんよ!」
……というか、私、ここで結婚するのか?
結婚相手は、地球で見つけるんじゃないの?
各国の言葉がペラペラになった今、別に日本に限定する必要もないから、割と選択肢は広いんだよね、地球での結婚……。
いや、今のところ、別にアテがあるわけじゃないんだけどね。
そして、別にこっちの世界の人は嫌、というわけでもない。
こっちの人達は、地球の科学知識はないけれど、別に頭が悪いというわけじゃないんだ。
地球のチャラ男やら、くだらない連中よりずっと聡明で立派で逞しい男性は、大勢いる。
飛んでくる矢弾に立ち塞がって、私を護ってくれる……、って、ナシナシ、今のナシ!!
とにかく、こっちでは結婚したくない、というわけじゃない。
その場合、日本じゃ私はずっと独身か、未婚の母だと思われちゃうだろうけどね。
子供の戸籍は、私生児ということになるのかな……。
まぁ、地球での戸籍は、ある方がいいだろう。何かの場合に備えて……。
教育は、地球で受けさせたいし……。
「……ツハ。ミツハ、戻って来~い!」
「あ……」
イカン、みんなが言うところの、『妄想タイム』に入ってた……。
……そして、何、真剣に子育てのことまで考えてんねん、私……。
「どうしても婚約しなきゃマズいようなら、どこかの貴族と裏取引をして、名目だけ私と婚約してもらい、数年後に婚約解消して、その人には別の女性と結婚してもらえば……。
真実の愛を見つけた、とかいうことにして……」
「馬鹿もん! 貴族の結婚は、家同士の繋がりのためのものだ。本人の意志など関係ない!
もし婚約破棄とかになれば、それはどちらかの家に大きな問題があったということであり、家名に傷が付く。
跡取りの長子とかであればまだしも、女性の方はもう社交界では相手にされなくなるだろう。
そんなに簡単に婚約したり解消したりできるものか!」
ありゃ、そういうものか。
でも……。
「……自分は恋愛結婚だったくせに……」
「なっ! どこでそれを!!」
「あ~、やっぱり、本当の話だったんだ……」
「ぐうっ……」
「それも、まだ世間知らずの女学院の学生に、断りづらいように大勢の前でプロポーズしたとか……」
「ま、待て! 誰に聞いた! それは明らかに悪意がある者による説明だ!!」
「へぇ……。じゃあ、 相手(イリス様) はその時、女学院には在籍していなかったと? プロポーズの時に周囲には誰もいなかったと?」
「くっ……」
ふはは、旗色が悪くなって、言い逃れができなくなったな、侯爵様……。
「……ま、まあ、うちのアレクシスとであれば……」
ありゃ? それでいいの?
あ、ボーゼス侯爵家は弟のテオドール様が継ぐから、子爵家を創設して家を出たアレクシス様ならば、婚約解消しても実家であるボーゼス侯爵家が汚名を被ることはない、ってことかな。
……でも、アレクシス様にそんな形での迷惑は掛けられないよねぇ。
それに……。
「え? でも、アレクシス様は上姉様……、一の姫様が狙っているのでは?」
「え?」
「え?」
「えええ?」
「「えええええ?」」
どうやら、ボーゼス伯しゃ……いやいや、侯爵様は、それに気付いていなかった模様。
……未だに、ついうっかりと『伯爵様』って言っちゃうよねぇ……。
爵位の言い間違い、それも下級の爵位と間違えるのは凄い侮辱行為になるらしいのだけど、今までずっと呼び慣れているのが急に変わるのだから、そりゃ間違えても仕方ないよね。
伯……侯爵様も、私が時々間違えても、別に気にしていないみたいだし……。
ただ、『余所では間違えるなよ!』と釘を刺されたけれど……。
私が一の姫様の年齢を10歳近く誤認していたということが露見した時には、サビーネちゃんとちぃ姉様……二の姫様……に、たっぷりとお説教されたよ。
いや、欧米系の女性の年齢を見分けるのは、日本人には難しいんだよ……。
その時に聞いた話だと、一の姫様は10歳の時に婚約した相手にべた惚れで、婚約者にふさわしい女性になろうと努力を続けて、決して天才肌とは言えない凡人の域でありながら、社交、政治経済、工業、農業、その他あらゆる方面の勉強を続け、『努力の姫君』として称賛されていたらしい。
そしてその容貌も、二の姫様やサビーネちゃんのような癒し系ではないけれど、貴族や王族として意志の強そうな 凜々(りり) しい感じで、充分美人さんだ。
方向性が違うだけであり、……そう、イリス様方面の美人さんだね。
婚約者が亡くなった時には縁談が殺到したらしいのだけど、『娘の傷口に塩を擦り込むつもりか!』と、あの温厚な王様が激怒されたらしく、縁談はピタリと止まったらしい。
……それでも、まだ他国からはたまに来るらしいけれど、それらは全て王様が止めて、握り潰していたらしいのだ……。
そしてサビーネちゃんは、元々天才肌の上、一の姫様の努力と、少し天然が入っていて何の苦労もなくちやほやされている二の姫様の両方の良い部分を 意図的に真似て(・・・・・・・) 、今の 天才小悪魔(サビーネちゃん) になったということらしいのだ……。
……何してくれてまんねん!!
……いや、まぁ、とにかく、そういうわけで、一の姫様は家格的にも年齢的にも能力的にも美貌的にも、侯爵家の長男にして爵位貴族であるアレクシス様の婚約者として、充分な相手だということだ。
……逆に、いくら侯爵家の長男であり爵位持ちだとはいえ、実家は弟に継がせて自分は子爵位を、というアレクシス様の方が少し力不足なくらいだけど、実家が 太い(・・) から、王家の方が望むなら何の問題もない婚姻だろう。
これからこの国を支える立場となるボーゼス侯爵家の息子であり、将来侯爵家を継ぐテオドール様のお兄さんなんだからね。兄弟仲はすごくいいし……。
「…………」
ありゃ、ボーゼス侯爵様、呆然として固まっているぞ?
そんなに驚くようなことかな?
今まで、結構見え見えの態度だったよね、一の姫様……。