作品タイトル不明
331 孤児院 4
……ま、まぁ、仕方ない。幼女がやったことだ……。
でも、あの子にそう教えたヤツがいるってことだよねぇ、これって……。
多分、大人。
あ、大人達は勿論だけど、5~6歳以上の子達は、ぷるぷると震えている。
さすがに、それくらいの年齢だと、今のはマズかったって分かるか……。
うちの方は、幼年組の子達は何も気にしていないみたいだけど、本体組の方は、顔を引き攣らせている。
……うん、 子供の言うこと(これくらい) で怒るような子達じゃないけれど、ちょっと衝撃が大きかったか……。
下手にフォローするのも、アレだ。
後で、孤児院内で『誰が子供にそんなことを言ったのか』とかの、犯人捜しが始まるのも気まずいし……。
ここは、スルー、何もなかったことにするしかないな。
よし!
「あ、ちょっと忘れ物……」
そう言って、一旦建物に入り、みんなの視界から外れたのを確認して、日本の家へ転移。
こんな時のために用意してある『Aセット』の袋を掴み、掛けていたショルダーバッグに突っ込んで、急いで転移。
そして、庭に出て……。
「さぁさぁ、みんな、飴ちゃん食べようね!」
いつ幼女や猫や小鳥に出会ってもいいように、私はいつもショルダーバッグに飴玉とマタタビの小枝とベビースターラーメンを入れている。
日本の、初代みっちゃんに『大阪のおばちゃんかっ!』と言われたけれど、普通だよね?
チャンスに備えるのは、乙女の嗜みだよ!
……でも、さすがにこんな大勢に行き渡るほどの量は入れていないので、急いで補充に戻ったというわけだ。こういう場合に備えて、バッグは充分な容量があるものを使っている。
ちなみに、大量に用意してある追加物資は、幼女用の飴玉がAセット、小鳥用のベビースターラーメンがBセット、猫用のマタタビがMセットである。
孤児院の子供達だけでなく、幼年組の子達も集まってきた。
いくら貴族の子供でも、レフィリア貿易の商品がそう簡単に無制限に手に入るわけじゃない。
そして日本製の飴は、このあたりで作られている 飴のようなもの(・・・・・・・) とは全然違う。幼い子供達であっても、貴族であればレフィリア貿易が取り扱っているヤマノ領の食べ物がどれだけ美味しいかは知っているのだ。
……それに、幼年組の子供達は、お茶会でうちの食べ物の何たるかは充分理解しているからね。
そして孤児院の子供達は、『お菓子らしい』というだけで、アリンコのように無条件で群がってきた。
……よし、無事、さっきのアルフィーとかいう子の発言はうやむやになった。
まあ、アルフィーちゃん以外の全員が、あの発言を『なかったこと』、『聞かなかったこと』にしたいと思っているだろうから、当たり前か……。
* *
そして、再び交流会が再開された。
誰も、先程のことには触れない。
今日は、みんながこれから目指すものを見せるのと、顔合わせの懇親会のみだ。いきなり練習を始めたりはしない。
楽器を揃えたり、演奏者を集めて鍛えたりするのに時間がかかるから、それまではここの大人達が教えられること……お遊戯とか、歌とか、振り付けの真似事とか……をのんびりやればいいだろう。基本的なことの練習や勉強が大事だからね。
勉強とは言っても、別に譜面を読めるようにするとかじゃない。
ただ、みんなで歌ったり踊ったりして、遊びのように……。
辛い練習なんかさせないよ。
こういうのは、楽しくやらなくちゃ。
嫌々やってるのを観ても、誰も幸せな気持ちにはなれないよね。
そして、それじゃあ観客の心を掴むことはできるはずがないよ。
まあ、後は孤児院側の頑張り次第だ。
あまりここにばかり関わるわけにはいかない。
私達にそんな時間はないし、特定のところに過度に肩入れすると、それを見た色々なところから、うちにも協力しろと無茶な要求が殺到するだろうからね。
このまま投げ出すわけにもいかないから、後のことは、幼年組設立の発案者であるセルミアちゃんに任せるか。
何でもかんでも、全てを私やみっちゃんがフォローしていては、身体が保たない。
仕事は、全てを自分ひとりで抱え込むのではなく、上手く他の者に割り振るのが肝要だ。
セルミアちゃんはちょっと大変かもしれないけれど、子供好きみたいだし、 ソサエティー(うち) の中でも、そして貴族界や平民の間でも、孤児達のために尽力する慈愛の少女として名が売れて、充分な見返りがあるだろう。
……勿論、私からもソサエティーの名を上げた功労者として、報奨の品や功績ポイントを授与するつもりだ。
そして私は、好きな時に子供達と遊びに来る。
……よし、あとは任せた!!
* *
「……え? 婚……約、ですか?」
「そうだ」
ボーゼス侯爵様から、突然そんな話を振られた。
「……誰の、ですか?」
「お前だ、お前!!」
「えええええええ~~っっ!!」
な、何じゃ、そりゃあああああ~~っっ!!
「で、でも、以前侯爵様、私への縁談は全て、後見人である自分が断っている、って……」
「それにも、限界というものがあるのだ……。
ミツハに打診することもなく全ての申し込みを私が握り潰しているとなると、うちがミツハを囲い込んで、とかの勝手な憶測が広まったりしてな……」
「あ~……」
確かに、私が懇意に……というか、頼りにしている貴族はボーゼス侯爵様だけだ。
サビーネちゃんを通じて王様やザール宰相様とも仲良しだけど、それはちょっと違うからね。
雷の姫巫女様と懇意にしたいという貴族は多いだろう。
でもそれは、ミツハという名のひとりの女性ではなく、爵位持ちで、女神の加護があり、異国の技術や製品がオマケに付いてくるという、『手に入れるとメリットが大きい女』という理由で、だ。
嫌だよ、そんなのは……。
「そして、他国の王族や上級貴族からの申し込みは、私が手紙ひとつで断るわけにもいかん。
……勿論、陛下はミツハを他国に嫁がせるつもりなど全くないが、ミツハが祖国を捨ててこの国に来たということは広く知られているから、祖国に幼い頃からの婚約者が、という逃げ口上は使えん。
なので、どうにかせんといかんのだ……」
「あ……」
状況は、理解した。
というか、今までよく持ち堪えてくれていたなぁ、侯爵様……。
普通なら、とっくに揉め事になってるよね、うん。
……で、どうすべえ……。