軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

330 孤児院 3

「……え?」

ぽかんとした顔の、院長先生。

あ、こりゃ、 ソサエティー(わたしたち) に演奏させるつもりだったな……。

「……お、音楽家の方にお願いします……」

「「え?」」

慌てて口にしたらしい院長先生の答えに、私とみっちゃんから疑問の声が漏れた。

いや、だって……。

「音楽家に頼むと言っても、1回や2回ならともかく、これから先ずっと、しかも本番だけでなく練習の時もとなると、難しいでしょう?

趣味でやっている貴族の音楽家は、数回のボランティアとかならばともかく、ずっと拘束される、しかも集金目当ての素人集団のバックバンドなんて引き受けてくれませんよね?

パトロン持ちの平民音楽家は、パトロンの意向には逆らえないし、勝手なことはできないでしょう。

そしてまだパトロンを得られていない平民音楽家は、自分が 食(く) っていくために音楽活動以外の仕事をしなきゃならないから、とてもボランティアなんかやってる余裕はありませんよね。

人助けどころか、自分が助けてもらいたい、っていう状況の人達ですから……。

お金を払って雇うにしても、現時点では孤児院にそんなお金はないでしょうし、そもそもこういうのは、みんなが無償でやるからこそ多少 拙(つたな) くても 微笑(ほほえ) ましいのであって、給金貰って仕事でやってる連中が演奏するとなると、『可愛い孤児院の子供達の活動』じゃなくなっちゃいますよ。

ただの営利活動になっちゃえば、多額の寄付ではなく相場程度の依頼料が貰えるだけになっちゃいますし、そもそも、そんな生臭い話になれば孤児院の子供達を貴族のパーティーに呼んだりしませんよ。普通に、プロの演奏家を呼ぶか、知り合いの貴族や商人がパトロンをやっている音楽家や、自分が見つけて贔屓にしてあげている新人さんを呼んであげるでしょう?」

そう、せっかくの『可愛い天使達』、『孤児達を支援してあげる、素敵な私』という大前提が崩れ、台無しになってしまうのだ。

「え……」

私の説明に、愕然とした顔で固まっている院長先生。

あ~、私達にやらせるつもりだったから、それを否定されたために慌てて代案を口にしただけで、そこまでは考えていなかったか……。

「ミツハさん……」

みっちゃんが、私に視線で指示してきた。

はいはい。何とかしてやれ、ってことね。

分かってるよ……。

「ここの卒業生……というか、ここ出身の人達で、あまり良い仕事に就いていない人達って、います?」

「え、それは勿論……。というか、そうでない者の方が少ないですからね……」

そりゃそうか。

孤児院出身者は、自分のせいで孤児院の名が落ちて、寄付が減ったり後輩達の就職先がなくなったりすることをすごく恐れる。

だから、勤め先を裏切ったり、おかしなことをする確率はとても低い。他の、普通の従業員より遥かに信用できるのだ。

引き取られて養い親に育てられた者も、同様に、義父母に迷惑をかけられない、恩返しをせねば、という思いが強いから、懸命に働く。

でも、そういう事実を知らない者にとっては、孤児を雇うのはリスクが大きいと思われてしまう。

だから、重要な仕事、お金を扱う仕事、客商売とかでは雇ってもらえることが少ない。

なのでどうしても、力仕事や単純作業とかの業種に就く者が多く、賃金も労働環境もあまり良くなく、そして年数が経てば昇給や出世が、ということも少ないらしい。

ならば……。

「そういう人達の中から、15~16歳くらいの人達を何人かスカウトしましょう!

ワイルド系のイケメンや小動物系のショタ、豹や山猫系の少女とかしっかり者の妹系キャラとかを選んで!

ほっこりと癒やされる幼い子供達に、更にバックバンドにアイドル系を揃えて、広い年齢層にアピールしましょう!!」

「……いけめん? しょた? あいどる? ……詳しく!!」

聞き慣れない単語に、はてな、という顔の院長先生。

でも、話の流れから、だいたいのニュアンスは察してくれた様子だ。さすが、年の功だねぇ。

* *

「……というわけで、栄養状態のせいで小柄な者が多い孤児院出身者でも、さすがに15歳くらいならば普通の大人用の楽器でも大丈夫でしょう。

そして、貴族の子女達が少しずつ習う音楽の授業を、朝から晩まで毎日ぶっ続けで学ばせれば、貴族が数年かけて学ぶ分を数カ月で覚えることが可能なはずです。

……何せ、生活が掛かっていますからねぇ……」

それに、孤児院への恩返しや、後輩達の食事量とかを自分が背負っているとなれば、そりゃ死ぬ気で頑張るだろう。嗜み程度のつもりで学ぶ貴族の子女とは、気迫が違うよ!

「貴族の娘も、人生が掛かっているから必死ですわよ!」

みっちゃんに、異議を唱えられた。

「……あ、声に出てた?」

「思い切り、出てましたわよっ!

ミツハさん、あなた、その癖を直さないと、社交界では生きていけませんわよ?」

「へ~い……」

社交界だけじゃなく、商売とかでもマズいよねぇ……。

「とにかく、後輩達のために孤児院出身の少年少女達が戻ってきて協力する、ということであれば、体裁を保つことができます。

その子達は孤児院の職員として雇い給金を払うか、時間の自由が利く別の仕事と兼業させるか、そのあたりは後日検討、ということで。

給金を貰って働いている孤児院の職員が子供達の活動を手伝うとか、他の職を持っている元孤児達が手伝いに来るとかいうならば、イメージは壊れませんからね。その分の給金を払っているかどうかなんて、観客には分からないのですから。

……とにかく、天使と、ちょっと堕天使か小悪魔っぽい魅力のバックバンドの2本立てで、広い層を狙いますよ!」

「……は、はい……」

院長先生は、眼を白黒させながらも、頷いてくれた。

* *

細かいことは後日、ということで、私とみっちゃんは、急いで庭に戻った。

いや、孤児達と幼年組の微笑ましい交流を見ずして、何とする!

今日は、そのために来たんだよ。メインイベントだよ!

おお、みんな、仲良くしてる!

本体組は優しく見守っているだけで、殆ど手出しも口出しもしていないぞ!

うんうん、子供達は 無垢(むく) で可愛いよねぇ……。

私達と一緒に庭に出てきた院長先生も、優しく微笑んでいる。

そして、孤児達のうちのかなり幼い女の子が、院長先生に向かって笑顔で叫んだ。

「いんちょーせんせー、アルフィー、がんばってきぞくさまのせったいしてるよ! これで、おかねがもーかるんだよねー!」

「「「「「「…………」」」」」」

庭中が、凍り付いた……。

いや、まぁ、幼い子供だ、仕方ない。

……でも……。

台無しだよっ!!