作品タイトル不明
329 孤児院 2
お手本のダンスと歌が終了した。
碌に挨拶も紹介もしないうちの、いきなりの手本展示だったけれど、これで子供同士の話がし易くなっただろう。
そう、『孤児院の子供と、貴族のお嬢様』ではなく、『孤児院の子供と、これから歌とダンスを教える先輩達』という関係になったわけだ。
自分達の食事状況を大きく改善できるかもしれない、千載一遇のチャンス。
この機会をものにするためなら、いくら相手が貴族だといっても、 物怖(ものお) じしたりしている余裕はない。
お手本の演奏……演技?……が終わると同時に、幼年組の子達はフリータイム。孤児院の子達と一緒に、御歓談。
本体組は、それにそっと寄り添い、互いに話し掛ける勇気がなくて俯いたまま黙り込んでいる子供達の後押し役。決して、自分達から出しゃばって会話の主導権を取ったりはしていない。
これは、あくまでも幼年組と孤児院の子供達の交流会なのだから……。
そして、交流のアシストは本体組のみんなに任せて、みっちゃんと私は院長先生と共に建物の中、院長室へと移動した。
……うん、細かい取り決め事の相談をしなきゃならないからね。
* *
「概略は、お手紙で伺っておりますわ。大筋では、問題はありません」
「で、では……」
「はい、御協力させていただきますわ。孤児達も、大切な我が国の国民、国の将来を 担(にな) う、宝物ですからね」
「……あ、ありがとうございます!」
いや、フルメンバーを引き連れて訪ねてきておきながら、『引き受けない』という返事のはずがないだろう……。
まぁ、損得勘定で動く大人であればともかく、選民思想に染まった高慢な貴族の娘であれば、孤児院からの頼みなんか嫌そうな顔をして 一蹴(いっしゅう) してもおかしくはない。
院長先生くらいの年齢なら、何度もそういう目に遭っていて当然だ。
なので、本当に来てくれたという現実を目の前にしても、完全には信じ切れなかったのだろう。
幼年組の演技を見せるだけ見せつけて、『ホ~ッホッホ! 孤児如きが私達の真似事をしようなどと、100年早いですわ!』とか言って、そのまま帰るという可能性も……。
……って、ないよ! どこの悪役令嬢だよっ!!
「詳細は、副会長であるミツハさんが説明しますわ」
私に丸投げかいっ!
まぁ、お金を出すのは私だし、侯爵家の御令嬢が下世話な話をしたりはしないか。
そういうのは、代わりに取り巻き連やお付きの者が説明するのが当たり前なのかな。
でも、みっちゃんは侯爵家の御令嬢とはいえ、父親が爵位貴族だから貴族の一員だというだけであって、本人は無爵の身だ。
それに対して、私は爵位貴族本人、子爵家の当主様。
……どっちの方が偉いんだ?
いや、勿論、いくら相手が無爵であっても、普通は子爵家の者が侯爵家の者に対して無礼な態度は取れないよね~、常識で考えて……。
でも、私はこの国では他国の王族だと思われているから……。
しかし、ここは大国、私の国は小国だと思われているしなぁ……。
それに、自国の貴族と他国の貴族じゃ、平民は自国の貴族を優先するよね、普通。
う~ん、分からない……。
ま、どうでもいいか、そんなことは。今度、ボーゼス侯爵様か王様に聞いておこう。
国は違っても、多分そういうのは共通だろうからね。
と、まぁ、そういうわけで、実務面の打合せだ。
「楽器は、貴族や金持ちが買い換えて不要になった中古品の寄付を 募(つの) ります。
それと、楽器店に協賛をお願いして、下取りとして引き取ったものや、安価な楽器とかの寄贈をお願いします。
孤児院に協力しているという宣伝効果と、大勢の貴族の少女達との繋がりができるという 利点(メリット) は、楽器店にとってはかなり魅力的だと思います。
また、平民出身の音楽家達が、そういうお店を 贔屓(ひいき) にしてくれる可能性がありますしね」
私の説明に、嬉しそうな顔でこくこくと頷く院長先生。
そう、カスタネットもどきやトライアングルもどきならばともかく、打楽器、弦楽器、吹奏楽器とかの大半は、とても高いのだ。いくらソサエティーであっても、そう 易々(やすやす) と新品を寄贈できるわけじゃない。木琴もどきですら、貴族の少女がお小遣いでポンと簡単に買えるものではないのだ。
なのでここは、寄付や寄贈を募るしかない。
でも、私はそれについてはそんなに心配しているわけじゃない。
何のメリットもない寄付や寄贈なら、集めるのは難しいかもしれない。
しかし、メリットがある寄付や寄贈なら、それは営業活動の一部だ。貴族や商人は、確実に釣れるだろう。
私が心配しているのは……。
「……で、楽器を集めるのはともかくとして、演奏する者のアテはあるのですか?
今日は私達本体組がやりますけど、これから先もずっと私達が、というわけには行きませんよ。
私達は貴族の娘として色々と忙しいですし、その中でなんとか作り出しているソサエティーとしての活動時間の全てを孤児院のために使うわけには行きません。
楽器を集めるというのも、私達は演奏を担当しないからです。
私達が演奏するなら、わざわざ中古の楽器を手に入れる必要はありませんからね」
……そう、これだ。
うちの幼年組には、本体組というサポート要員がいる。
しかし、孤児院の小さな子供達はどうする?
いくら楽器が手に入っても、それを演奏する者がいなくては意味がない。
幼年組も、自分達が使った楽器は、カスタネットもどきやトライアングルもどき等の、簡単なやつだけだ。
でも、それは本体組の演奏があったからこそ、それだけで問題なく成り立ったのだ。
この世界にレコードや録音テープとかが存在し、それを流せるのなら問題ない。
でも、そんなものがないここでは、演奏は全て生演奏、その場に演奏者がいなければならない。
お金のない孤児院に、音楽家を雇う余裕なんかないだろう。
ソサエティー本体組が毎回ボランティアで、というのも無理がある。
そして孤児院の子供達が演奏するには、練度以前の問題がある。
……少ない肺活量。
小さな手と短い指。
打楽器はまだしも、弦楽器や吹奏楽器を自由に操るには、熱意や努力だけではどうにもならないものがある。
日本なら、小さな子供用の楽器も売っているだろう。
でも、そういうのは殆どが 玩具(オモチャ) や知育玩具であり、本格的なやつは少ない。
この世界の技術力でも作れて、小さな子供でも扱いやすく、本格的な音が出せる弦楽器や吹奏楽器と言えば、……オカリナ、リコーダー、……それと、ウクレレとかかな?
吹奏楽器で一番重要なのは、肺活量ではなくブレスコントロールの技術らしいけれど、それはある程度の練度に到達した人の話だろう。それも、最低限の肺活量はある、という前提での話だ。
素人の幼い子供にとっては、やはり肺活量の壁は存在するだろう。
なので、吹奏楽器は外すか、肺活量をあまり必要としないものに限定するか……。
いや、そもそも、年長者でも10歳前後、大半はもっと幼い子供達に、付け焼き刃でまともな演奏ができるのか?
貴族の子女であれば、幼くともある程度の音楽教育はなされているらしい。
……でも、ここにいるのは貴族の子供達じゃない。
どうすんだよ?