作品タイトル不明
328 孤児院 1
帆船の方は、進展待ち。
本国、新大陸、地球と、多正面作戦を強いられているから、ひとつのことだけにかかり切りになるわけにはいかない。あちこち、併行して進めないと……。
これ、他の世界を経由すれば好きな場所……こっちの世界では、一度行ったことがある場所、という制限はあるけれど……に転移できるから何とかなっているけれど、この転移能力がなければお手上げだよね。
もし転移能力がなければ、同じ世界内でも、うちの国の王都、ヤマノ子爵領、ボーゼス侯爵領の移動だけでも大変なのに、新大陸のヴァネル王国や、その周辺国となると……。
地球でも、日本、ウルフファングの 本拠地(ホームベース) 、その他諸々……。
もし、世界間移動は転移した出発地点にしか戻れない、とかなら、過労で死んでたね。
いや、もしそうならば、こんなに手広くやって多正面作戦になったりしていないか……。
まあ、そういうわけで、やって来ました、ヴァネル王国王都の孤児院!
うちの国の王都にある孤児院とは色々と交流があるけれど、それ以外の孤児院とはあまり縁がなかったなぁ。
……あの孤児院の子供達を基準にして考えるのは何か怖いから、あそこのことは考えないようにしよう、うん。多分、較べちゃ駄目なやつだ。
うちの領地は、人口が少なすぎて、孤児院なんてものはない。
勿論両親が亡くなることはあるけれど、その場合は祖父母や伯父、伯母とかが引き取ってくれるし、8歳くらいになれば、もう立派な労働力だ。なので、もし親戚がいなかったとしても、ちゃんと働くなら引き取って育ててくれる村人くらいいる。
皆、家族ぐるみの付き合いだし、お互い様だ。いつ、自分の子供や孫が孤児になるかも分からないので、孤児を邪険にする者はいない。
それに、ここは人が死にやすい世界だ。
病気で。怪我で。魔物に襲われて。……そして戦争で。
なので、両親を失った子供と同じく、子供を失った夫婦もいる。
……ま、そういうことだ。
でも、それはあくまでも田舎での話。
大きな街では、誰も引き取ったり面倒をみたりしてくれない孤児はたくさんいる。
浮浪児や、 貧民窟(スラム) の廃屋に住む者達。
孤児院に 入(はい) れた者は、その幸運を女神に感謝すべきであろう。
そりゃ、普通の子供よりは不幸かもしれないけれど、少なくとも、餓えや寒さで死ぬことはない。
それに、両親が揃っていれば幸せとも限らないしね。
とにかく、今日はその、孤児院に来たわけだ。
……ソサエティーのメンバー達と一緒に、幼年組を引き連れて……。
「ようこそお越しくださいました! ささ、どうぞこちらへ!!」
孤児院の外に、子供達と数人の大人が整列していた。
そして、大人達のうちのひとり……どうやら院長先生らしき年配の女性……が駆け寄ってきて、頭を下げながらみっちゃんにそう言ってきた。
こっちは別に序列順に並んだりはしていないのに、真っ直ぐにみっちゃんのところへ来たということは、 ソサエティー(うち) のトップが誰かということを、そしてそのトップの顔も知っているということだ。
そしておそらく、それ以上の様々な情報も……。
孤児院の経営者、恐るべし!!
いや、まあ、 幼年組(うちの子たち) の 演(だ) し物を観て、こんな案を考え付いてそれを即座に実行に移そうとしたんだ、遣り手だということは間違いない。
この 年齢(とし) で、お金が儲かるわけでもない孤児院の経営なんかをやっているのだから、悪い人だという確率はかなり低い。王都で、孤児院を隠れ 蓑(みの) にした人身売買組織、とかいうのは、リスクが高すぎて、現実的じゃないし。
子供達に充分食べさせて、たまには新しい古着……何か、矛盾した言葉だけど……でも買ってあげようと思えば、お金に関して少々意地汚くなるのも仕方ないのだろう。
そして、お金を集めるためには、貴族や金持ちの情報は絶対に必要だ。
孤児院の経営は、『いい人』だというだけでやっていけるほど甘いものじゃない。
高度な集金能力、孤児院を出る子供達の就職先を確保するための人脈を得られるだけのコミュ力、そして子供達に充分な食事を与えるためなら金持ち相手への土下座すら躊躇わない使命感。
……とても、そのあたりの普通の者に務まるような仕事じゃない。
「よろしくお願いしますわ」
みっちゃんは良い子だけど、過度に大人の平民に対して気を遣ったりはしない。
そんなことをすれば、他の貴族から軽く見られるし、平民に対しても混乱と動揺を与えるだけであり、百害あって一利無し、だ。
……相手が平民であっても、幼い子供は除くよ、勿論。
相手が、まだ物事がよく分かっていない小さな子供であれば、他の貴族からも『下賤で汚い平民の子供に触れられても、怒ることなくにこやかに接する、温厚で心優しい少女』と思われるだけであり、何の問題もない。
まぁ、『幼い』といっても、7~8歳くらいまでだけどね、みんなが寛容なのは。
ここの人種だと、10歳くらいになると、もう結構デカいんだよねぇ……。
それに、10歳くらいなら、もう既に見習いの丁稚として商店で働いたり、田舎だと『子供のお手伝い』レベルではなく、ちゃんとした労働力とみなされて農作業を始めるあたりだ。
それくらいの年齢になると、もう、社会常識の欠如に対して『子供だから』という言い訳は通用しない。
……いや、充分『子供』なんだけどねぇ……。
ま、そういう社会なんだから、仕方ないか。
うちの国の方が、この国より孤児院の子が自立する年齢が高いみたいだけれど、それは、この国の方が小さな子供が安心して働けるように法整備が整っている、ということなのかもしれない。
よく分かんないけど……。
とにかく、孤児院には10歳を少し越えた子もいるけれど、大半はそれより幼い子達だ。
それに、栄養事情のせいか、みんな一般家庭の子供達よりは身体が小さい。だいたい、2歳くらい下に見えるらしいのだ。
なので、『孤児院の子供達は、皆、多少の無礼は大目にみてもらえる』とか……。
まあ、かといってそれに甘えて、ってわけじゃなく、ちゃんと躾や教育はしているらしいのだけどね。『大目にみてもらえる』というのにも限度はあるし、故意や悪意によるものは、さすがに見逃してはもらえない。
それに、最悪の場合には、本人だけではなく孤児院全体が貴族の怒りの対象となって、……全てが終わる。
もし孤児院に対しての直接的な報復がなかったとしても、貴族に対して無礼な真似をするような教育を子供達に施している孤児院、という噂が広まれば、貴族からの寄付がなくなるからねぇ。
平民からの人気取りや自己満足、宗教的な使命感を満たすための慈善活動なら、別に孤児院じゃなくても他に色々と対象がある。 貧民窟(スラム) での炊き出しとか、浮浪児にパンを振る舞うとか……。
孤児院は、言ってみれば、客商売というか人気商売というか……、うん、アイドル商売との相性が良すぎる。どんどん投げ銭お願いね、ってやつだ。
そんなに大きくない孤児院に、こんな大人数が入れる部屋なんかないから、顔合わせは庭で。
街の中心部からは離れているから、土地だけは充分にある。
……別に孤児院の土地じゃないらしいけど、遊び場や家庭菜園に利用していても、怒るような地主はいない。というか、多分このあたりは個人所有の土地ではなく、国有地か何かなんだろうけどね。
さて、では幼年組と孤児達の交流会を始めますか……。
……といっても、いくら同年代の子供同士とはいえ、孤児達に、いきなり貴族のお嬢様と歓談しろと言っても、そりゃ無理だ。
なので最初に……。
「ソサエティー、演奏準備! 幼年組、開始位置に就け!」
私の号令で、馬車に積んできた楽器を受け取り、演奏の準備にかかるソサエティーのメンバー達と、庭の開けたところに移動し、ダンスの開始体勢で静止する幼年組の子供達。
……よし!
「イッツ、ショータイム!!」